夢をみた。
暗闇の中で宙に浮く感覚を得た。そして、一瞬。白い点から風景が広がり、眼下に果てしない砂の海が波打つ。地平線には人型の像がでかでかと聳え、まるでこの砂漠を見張っているかのようだった。
夢の中だ。気付いたのはいつの間にか自分が白磁の建物内に居た時だった。小さな階段、小さなドア。大きな鏡、大きな壺。物の大きさが滅茶苦茶で、けれど、それにボクは疑問も抱かずゴロリとベッドに倒れ込む。頭上には満点の星空。ふわりふわりと首飾りが浮かんでいる。流石夢の中、滅茶苦茶だ。そういうものだと知ってはいるが。

(この夢は、なんだろう)

この夢の中にある物全て、異国情緒に溢れている。ボクの知るイッシュが、ここには存在しない。
それなのに、見覚えがあるのだ。壺に描かれた唐草の文様も、ターコイズがはめ込まれた首飾りも。この世界を形作る全てに、見覚えがある。
ボクは自分が寝転がっているベッドをよく観察してみた。率直な感想を述べるとすれば、とても高そうだ。どうしてこんな豪華そうなものに見覚えがあるのだろう。
疑問に首を傾げていると、扉の開く音がした。コツ、コツ、響く靴音が近づいてくる。
見上げた人は、とても美しい女性だった。白い肌にブロンドの髪、そして印象深い青の瞳を細めて此方を見下ろす。齢幾ばくであろうか、肌には少し皺が刻まれているけれど、それが彼女の品の良さを際だたせていた。
彼女は口元を上品にあげ、ボクの手をとった。それから、口を動かし、手の甲に唇を押し当てる。ボクは、自分の意志に関係なく、口を動かした。

『ただいま、ははうえ』

――夢は、そこで打ち切られた。


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