「……げ」
「……おや」
ばったりと、記憶から消し去ってしまいたい男と再会してしまった。
「……失礼しましたー……」
「ちょっと待ちなさい」
「ちっ」
そそくさと踵をかえし今来た道を戻ろうとするが、不幸なことに声をかけられてしまい舌打ちしながらしぶしぶ振り返る。
相変わらずの赤い眼を見て、とりあえず身の危険を回避するために後退りをしながら奴の様子を確認した。
背筋に恐れが走る、きっとこの恐怖は属性だけのものではないのだろう。
「そんなに怯えないで下さいよ、まだ何もしてないのに」
「まだ、ってことは何かする気!?俺の純情をまたもてあそぶ気!?」
「いいから落ち着きなさい。……斬りますよ?」
杖に似せた刀の柄を掴み、僅かに刀身をちらつかせる。
真夜中で刀が色を見せるなどありえないことだが何故かそれは銀色に鈍く光っているような感じがした。
途端、固まる俺の身体。
寄りかかる樹木が何故か鉄のように冷たく感じる。
「……全く、嫌われたものですね」
俺の反応がよほど気に入らないのか呆れるように溜め息をついてくる。
そうは言うが、あんなことをされて嫌わない奴の方がおかしい。
忌々しい記憶が頭を過る、二次元が嫁である俺には不名誉な記憶が。
「もう一生あんたと出会うことはないと思ってたわ……」
「私もですよ、再会したついでにあの時のことも思いだしてしまいました。あの時の貴方は……」
「いや、いい!!言わなくていい!!俺の黒歴史を曝さないで!」
手のひらを前に付きだし必死で相手の言葉を止めさせる。
情欲を宿す妖艶極まりない笑みがさらにあの日のことを思い出させて思わず顔をそむけるしかなかった。
「でも、気持ちよかったでしょう?」
「いやまあ、確かに……ってそういう問題じゃねえ!」
「本当にからかいがいのある方ですね」
「か、からかいってなぁ…」
なんだか居たたまれなくなってしまい、重い息を吐く。
――そういえば。
ふと気付き、相手の顔を見てみる。
纏っている雰囲気はやはり妖しいものだが、昔のような他を寄せ付けない敵意と殺意はその笑みから見られない。
(ちっとは丸くなったってことか……?)
伏し目がちになっている赤をいぶかしげに見ていると、ふいに視線がかち合う。
楽しそうに歪む瞳があの日と同じで、咄嗟に逸らした目がとらえたのは、光を遮る葉の天井だった。
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