舞い散る鮮血の中心に、その男は存在していた。鍛え上げられた褐色の肉体に紅玉の飛沫が被さると、さも愉快気に歪んでいる男の顔面は朱に染められる。赤の中に於いて尚爛々と輝く紅蓮の眼は野獣のように獲物を狙っていた。
雑兵の首が一つ、二つ、音もたてずに地に落ち、転がる。五の首が地表に触れると同時に、頭部を失った肉体が崩れた。血溜まりに散乱する死骸には目もくれず、男は血を滴らせる巨大な斧を眼前の青年に向け、口角をつと上げる。
慈悲も憐憫もあったものではない。男の眼には闘争心しか存在しておらず、敵対する立場の紫髪の青年には狂人としか写らなかった。

(まあ、その方がやりやすい)

冷淡な視線を褐色の男に向け、青年は思う。常人と変わらぬ感情を表面に出されては最後の一太刀を下しにくい。どうせこんな男には恋人も家族もろくにいないのだろう。殺して良い男だ。そう思い込める相手でなければ、本気で相対することなど彼には出来なかった。
同胞の仇でしかない男に抱くは、奥底から沸々と生まれ出でる憤怒。情けを捨てるには充分であった。

「さあ、試合おうか」

男の唇が揚々と音を紡いだ。青年に拒否権はない。たとえ所持していたとして、行使するつもりもなかった。

「……お手柔らかに、どうぞ」

背に担いだ大剣を構え、淡々と言葉を返す。交わす視線には殺意のみ。
大地を蹴ったのは、同時であった。


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