この身をただひたすら慕うお前は、きっとこの胸の内にある秘められたものを知らないのだろう。
それでいいのだと、思わないでもないが。

(だって、のぅ……?)

誰にでも優しく接するお前は此方がこのような妬心にさいなまれているだなんて、気付いていないのだ。
そんなお前を相手にこの沸々と胸の奥底から這い上がってくるかのようなどす黒くて醜い劣情など、見せたくても見せられる代物ではない。
お前の優しさは素晴らしい美徳なのだ、そしてそれを受け入れられない此方の方が異常であり、そんなこの身はお前の全てを独り占めにしたくてたまらない。

――逸そ、何処かに閉じ込め鎖に繋いでしまおうか。

あの蒼白く浮き出た首の血管には、きっと赤い首輪が良く似合うだろう。
そして何も見ないよう目隠しをさせて悦楽と屈辱を与え続けて気高い精神を握り潰して甘い言葉を囁いてお前を壊して。
仕舞いには無理心中と言い換えてもいい最期を遂げるというのもいいかもしれない。
そんなことを考えて口角を上げていたら不思議そうに此方を見つめるお前が両の目に映される。
どうかしましたか、なんて丁寧な口調、綺麗な声音で。
その問いにまさかお前を監禁する妄想をしていたなどと言えるはずもなく、ただ笑みを深めて一言答えた。

「お主が知らんでもええことじゃから」

そう、知らなくてもいい。
お前が綺麗だと言ったこの瞳の奥がどのような情欲をたたえているのか、お前の愛する男がどれだけ狂人染みているのか。
知る必要もないし、知ってほしくもない。
お前は此方のことなど気にせずにただ生きたいままに生きればいいのだ。
そうしている内に、きっとこの患った精神の一部分も消えて無くなってしまうだろう。
けれど、もしお前がこれ以上従順に狂い始めた此方の欲求を許し受け入れてしまえば――患いは癌のように身体を蝕み妄想が妄想で終わらなくなってしまうかもしれない。
此方の気も知らずにお前は笑う、少し遠慮がちに優しく。
その笑みを見て愛しさといつもの加虐心を感じながら、頭の中で伝わりはしない忠告の言葉を呟いた。

――どうか、気をつけてほしい。

この笑みを失いたくないがために口に出してお前を戒められない自分を許してくれ。
お前の惚れた相手はお前が思うほど優しくも理性的でもないし、真っ当な思考回路を持った男でもない。

ただの、愛しい者を独り占めするためには手段を選ばぬ、滑稽な狂人なのだ。


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