孤独な者が社交的な人物に抱く憧れ、金のない者が長者に感じる妬心、生き物の精神状況は千差万別故に満足の度合いもまた個々それぞれに違うものなので逆もしかり。
何にせよ際限も果ても無く非常に度し難い欲望が一生付きまとうことに変わりはなく、これだから欲深い生き物はなどと自傷する輩も出てくるだろうがその言葉自体深い望みの内にあるものだということに気付いていないだけでそいつらだって同じ結末を辿るのだ。
だから誰もが考えることを放棄してその欲を満たそうと何度も足掻き苦しむのだが――そこでふと考える、そのように決して得られやしない憧憬を求め続けて一体最後に何があるのだろうかと。
生憎俺はそこまでの深みに嵌まったことがないので経験談は口に出来ないが、一定レベルの深みには十分浸かっているのでその末路は想像に難くない。
――おそらく、最後には後悔しかないのだろう。
そうだとわかっていても、この手を伸ばすことは止められないが。
「よ……揺武?」
「………」
息苦しいボックスの中で沈黙を通し王鞍を抱き締める。
まるでこの猫の毛のような柔らかい髪も落ち着く心地よい匂いも赤い痕のついたいやらしい肌も全部が全部己の所有物のように感じてしまい口角が上がった。
白い髪に黄金の眼それと気弱な心も俺とは全く共通点のないもの。
どうやら無い物ねだりの精神は恋愛事にまでしゃしゃり出てくるらしい、その精神まで全て全て俺が欲しい、俺が所有していたい、と。
相手の迷惑など欠片も考えない非常に身勝手で純粋な欲望だ。
行きすぎた独占欲のせいで底無し沼に片足を突っ込んでる心地すらする。
(もしも)
もしもこれ以上、これ以上深くはまってしまったら。
こいつに他に良い奴が出来たとしたら。
俺は――こいつを。
王鞍を大人しく手放せるだろうか。
「……王鞍」
軽い口付けと共に小さく名を呼ぶ。
「王鞍、王鞍」
何度も何度も名前を呼び、何度も何度も強く抱き締める。
確かめるように、そこにしっかりこいつがいることを確認するかのように。
「揺武、苦しっ……」
「……黙ってろ」
少しだけ力を弱くして、こいつの唇の間に舌を割り込ませる。
口付けをしても性交をしても満たされないこの欲はあとどのくらいで逃れられないほどの深みに嵌まるのか。
底に落ちたら狂人の域に達し、この細い身体を満足に愛することもできないだろう。
俺は何もこいつを不幸にしたいわけじゃないのだ。
(なんとかしないと)
俺の感情は監禁くらい平気でしてしまいそうだ、そんなの自分がよくわかっている。
それを防ぐために俺は何をすれば。
「……揺、武?」
不安気に俺を呼ぶその声に意識から引き戻され、応えるかわりにまた強く抱き締める。
いつも日の光を一身に受けている身体は陽光のように温かく、それすらも俺には持ち得ないものだった。
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