逆夢を題材にしたMH擬のベリーSS。いつもよりべらぼうに短い。全部一人称。
MH擬CPの攻めが夢を見た話です。この夢が真に逆夢となるのか、あるいは単にそうあれかしと願われたものかは彼ら次第。流石に全CPは書けなかったので思い付いたCPだけ抜粋。イビボルくっつき後、バサルモス自覚後。イビボルだけほんのり微グロです。
ひょっとしたらこの言葉の本来の使い方とは異なるかもしれない。
海竜×水獣
恐暴竜×土砂竜
眠狗竜×氷牙竜
岩竜×ドスイーオス
@ラギアクルスの場合
その言葉を聞いた途端、血液が沸騰するかのような激情に脳が染め上げられた。
『俺は貴方が嫌いです。二度と近寄らないで下さい』
恐怖に震えた声だった。いつ噛み殺されるか不安でたまらないと表情が訴えていた。けれどその眼から光が消える事は無く、怯えを宿しながらも気丈に此方を睨みつけていた。
それ程までに己を忌避したいのかと深い悲しみも抱いたが、感情を口に出す前にこの腕は彼の手首を掴んでいた。彼が身体を強張らせる。怯えは一層強くなった。
──何故嫌う?
『貴方が俺に向ける感情が恐ろしいからです』
──何故恐れる?
『貴方の想いは重すぎて、いつか押し潰されてしまいそうだから』
──なら、どうすれば君は私を受け入れてくれる?
『そんな未来は有り得ません。どうかもう関わらないで、それだけが俺の願いです』
平行線の会話は延々と続いた。私のどんな問いかけに対しても、彼は拒絶の言葉しか吐かない。それが本音かどうかなど私には推し量れなかった。
彼がそこまで嫌だというのなら、この手を、思慕の念を手放す事が本来の愛なのかもしれない。しかし私にはどうしてもそれが出来なかった。例え恨まれようと憎まれようと、結果として彼が深い絶望に落ちようとも、それでも私は彼の手を掴み続け二匹で生きる道を探したい。この愛を捨てろというのなら、いっそ彼を殺して私も死んでみせた方がずっとマシとすら愚考するのだ。
──無理だ。君がなんと言おうと、私は君を想い続ける。不本意だろうがこの事実を翻すことは出来ない。
君には分からないかもしれないが。
愛している。確かに愛しているんだ。
切なる想いが口から漏れ出た時、彼の瞳から初めて怯えが無くなった。その代わり諦念の色を顕にし、悲しげに、切なげに微笑んで溶けるように消えていった。
そこで初めて、夢だと悟ったのだ。
Aイビルジョーの場合
肉を喰らっていた。口内に血の味が拡がると同時に鉄錆の匂いが鼻腔を刺激する。もう何度繰り返したかわからない、餓えを満たす為だけの捕食行為。ただの作業に過ぎなかったはずなのに、今は忌まわしく、厭悪している。
せめてこれだけは、と願った一握りの小さな望みは暴虐の限りを尽くす本能にいとも容易く踏み潰された。今眼前で倒れ伏しているのは貪る為に屠った獲物ではない。かぶりつくだけの肉塊ではない。俺を恐れず寄り添い、帰る家となってくれた、ただ一匹の番。いつか潰えるこの理性に愛情という光を教えてくれた、彼の肉を。俺は喰らっている。
嫌だ。止めろ。ふざけるな。己が何をしているか理解っているのか。唯一だ。こんな俺を愛してくれた、唯一の番だぞ。
胃袋は満たされていっているはずなのに強烈な喪失感が吐気を伴い臓腑を襲う。喉がギリギリと悲鳴を上げた。身体全体が彼を消化することを拒んでいる。だというのに、獣の本能は異なる反応を示していた。全くもって厭わしい。ほとほと己が性が恨めしい。彼の肉が、血が、臓物が──たまらなく、美味いと感じてしまうのだ。
理性と本能の矛盾が強まり統合性を保てない程に混迷とした思考を処理しきれないまま、直面したくない現実から逃避しようとした脳があり得ない仮定を浮かばせる。
いっそ特異個体で無ければ、人に並ぶ知性と理性が無ければこうも自我の亡失に怯え苦しむ事はなかったであろう。ただのイビルジョーとして、狂い死ぬか人に狩られるかするだけで己が生を全うする事が出来たはずだ。しかしそれは彼との出逢いも、共に過ごした温かな時間も全てを無にする事と同義であり、あの安らぎを知ってしまった俺にはどうしてもその道が正しいとは思えなかった。
(どうか夢であってくれ)
彼の血にまみれながら切に願った。これは偽りだと、夢想の出来事なのだと誰か言ってくれ。まだ大丈夫だと、まだ本能を制せられると信じさせて欲しい。
彼はこの最期を望んでいるが、俺は違う。理性が焼き切れ我を失った時、愛する者を自ら喰らう怪物に成り果てるのが、俺はそれだけがたまらなく恐ろしいのだ。
Bドスバギィの場合
目の前に異常な光景が拡がっているのを知覚した時、これが俗に言う明晰夢かと即座に理解した。とはいえ誰だってそう認識するであろう、現実では絶対にあり得ない事が起こっていれば。
思えば初めから間違いだらけの夢であった。あろうことか夢の中の俺は彼の肢体を組み敷いていた。場には情事の色が匂い立ち、艶めいた雰囲気を醸し出す。現実ではこのような蛮行が許される筈もなく一瞬にして彼の力ではね除けられて終わりであろう。しかしこの時俺の下にいる彼に抵抗の意思は無く、見下ろした白磁の頬は仄かに朱く染まっていた。乱れた衣服から覗く胸元や腹筋のライン、実戦向きの無駄がない筋肉がついた四肢は艶かしく雄を誘う。無論、彼のこのような淫らな姿を現実の俺は一度たりとも目にした事などなかった。そしてこれからも決してないだろう。それを見る事が出来るのは現実の彼が愛した者だけだ。まかり間違っても俺ではない。
夢の彼は、ドスバギィ、と情欲をはらんだ声音で俺の名を呼ぶ。見る者を冷徹に射抜く蒼天のような眼は今や熱に蕩けて潤んでいる。彼は切なげな視線を此方に寄越し、愛おしむかの如く俺の頬に手を添えた。
さもそうするのが当然のように。まるで、情を交わした番にするかのように。
──おぞましい。
背筋がぞっと凍りつく。これは違うと脳が眼前の光景を拒んでいる。彼の竜は俺如きにこんな反応を見せる訳がない。彼が愛すのはもっと、強く、勇敢で、彼に劣らぬ美しい竜であるに違いないのだ。
故にこの夢はおぞましい。都合が良いように妄想の彼を動かしてとうに破却したはずの欲望を具現化させているだけの醜い悪夢だ。まだこの愚考を棄てきれていなかったのかと忌々しさすら覚えた。
現実の彼は美しく孤高な竜であり俺の事など歯牙にもかけない。俺などはいてもいなくても大差ない、まさしく視界に時折映るだけの羽虫が如き存在だ。
それで良い。そうでなくてはならない。
彼の幸福に己は不要。この手は絶対に彼に届くはずがないのだから。
いつの間にか手に持っていたナイフで俺は躊躇うことなく己の喉を掻き切った。己の血で出来た血溜まりの中深い眠りに沈んでいく俺が最後に認識したのは、目を見開き悲痛な面持ちで叫ぶ偽りの彼だった。
最後の最後まで紛い物か。なんとも浅ましい妄想だ。唾棄しながらも片隅に得たのは喜びで、何処までも愚かしい自分を嫌悪しながら夢ごと意識を闇に溶かした。
Cバサルモスの場合
夢の中のドスイーオスさんが幸せそうに微笑んだ。でも、それは僕に向けられたものじゃない。
僕の視線の先には向かい合って話をしている兄と彼。僕が産まれるずっと前から互いを知り、互いを深く想いあっている。その根底の気持ちはいまいちはっきりとしていなかったが、少なくとも目の前の兄を見る彼の瞳には僕の想像した通りの情が伴っているように感じた。
『まったく、しょうのない男だ』
『お前こそ』
ただの何気無いやり取りなのにその声音にはおびただしいほどの愛情が込められている。表情の見えない兄が彼を抱き締めた時、彼はさも当然と云わんがばかりに力を抜いて身を委ねた。
その光景を見た僕は言い知れない不快感を抱いた。今すぐにでも其方に向かい引き剥がしたいというのに、夢だからか何故かこの足は一歩も動かない。金縛りにあったかのように身体が硬直し、声も出せず其処にただ立ち尽くすだけであった。
彼らは身動きがとれない僕に気付きもせず二匹の時間を堪能している。歯がゆいことだ、いつどんな時だって僕には何も出来ない。彼の力や支えになりたくても頼られるのは結局兄なのだ。
兄が羨ましい。彼と長い時間を過ごし、きっと僕以上に彼を幸せに出来る可能性のある兄が妬ましい。彼に本音をぶつけられ、時には僕が知らない彼の表情を見ることが出来る兄が嫉ましい。兄と居る時、彼は心から安心して己を剥き出しにする。自然体の彼を最も良く知る雄が兄だった。
兄は、彼が幸せになるのなら誰と番になっても良いと言っていたのだと聞いた。本当にそう思えるのだろうか。僕にはまだわからない。一生わからないかもしれない。
だって今、彼の隣にいるのが僕でない事実が認められず、たまらなく嫉妬している。何故そこに僕以外の雄がいるのか、全く納得が出来ていない。彼の微笑みを、愛を向けられるのは己一匹で良いと、僕はどうしても考えずにいられないのだ。
(ああ、早く成体になりたいな)
まざまざと見せつけられる二匹の様子を歯噛みして眺めながら心底思った。眼前の光景を現実にしたくない。彼の隣には僕が立ちたい。彼を慈しみ、兄以上に彼を幸せに出来る雄になりたい。この夢のおかげで願いがいっそう強くなった、その点だけは感謝しよう。
終わり
ちょっと尻切れトンボな終わり方になってしまったのが多いかな。同シチュ同内容の受け目線も面白そう。その場合の反応は、
ロアルドロス→現実では(ラギアクルスを憎からず想っている為)出来ない完全なる拒絶を示しても態度を変えない彼に、諦めと申し訳なさと一握りの喜びを抱く。自己評価低すぎて受け入れる事を躊躇ってる。
ボルボロス→いつかやってくると思っている未来。彼に捕食され彼の血肉(一部)となれるのなら喜ばしい最期だと考えている。ボルボロスにとっては怪物ではなく愛しい一生命。あんま気に病まないでほしい。
ベリオロス→とんだ淫夢にはしたないと思いながらも、どうせ夢だからと素直に喜び受け入れる。が、触れ合う前に目の前で自害されて愕然。夢ですら番になれないのかと絶望する。
ドスイーオス→貴様こんな所にまで出てくるのかと夢のグラビモスに悪態つきまくり。元々グラビモスとの距離感がゼロの為ハグ程度日常茶飯事だと思ってる。バサルモスは庇護対象。