「穂積警視長の身体能力は異常です。いったいどういう事なのか、教えて頂けませんか。」
「……。」
「……機密事項、でしょうか。しかし、現場にいた林警視、滝川警部、黒瀬警部、その他のいずれのメンバーにも驚きはありませんでした。原警視長の視力も人間離れしている。あの夜間に、あの距離で、暗視スコープもなく狙撃出来るなんて有り得ないはずです。そして、福山警視長。貴方も。」
「……。」
「なぜ……何故、貴方の血を浴びた組員が、まるで急性中毒のような症状を訴えているんですか。」
「……」
「まだ新米である僕には教えられないという事ですか。」
「……」
「福山警視長。」
「……」



「……すみません。少し、感情的になり過ぎました。仕事に戻ります。」
「……降谷。」
「…………はい。」
「俺と識、原は特例で警視長だと、言ったな。」
「はい。」
「実際は特例でもなんでもない。ただ単純に勤続し、成績に応じた特進があっただけだ。」
「……どういう、事でしょうか。」
「信じられないか。無理もない。俺たち3人は入庁して40年になる。」
「……、」
「年齢は、正確には解らないが、恐らく20代かそこらに入庁したように思うから、実年齢は60歳以上って事になる。」
「……いったい、なんで、そんなに、……その、」
「人間離れしているのか、か?」
「…………はい。」
「731部隊を知っているか。」
「……第二次世界大戦中に、旧日本軍にあった人体実験を行ってた部隊だと記憶しています。」
「そう。その通りだ。捕虜や、はたまた同じ日本軍の傷病者まで実験に利用したという彼の部隊の悪名は名高い。」
「……あの、」
「今お前が想像したそれでほぼ相違ないだろうな。俺達は731部隊解体後、その実験結果を秘密裏に受け継いだ後継団体の、……云わばモルモットだった。」

「731部隊には日本にある大学の殆どの教授が関わっていたからな。後継団体が出来るのも無理はない。研究者ってのは探究心が有り余ってる。」

「降谷が気付いた通り、識の身体能力は異常だ。人間のそれを超えてる。治癒能力もな。原の眼は3.5キロから4キロ先を裸眼で見通す。その代償として目の色素が薄く、あんな長い前髪で隠してる。俺は体液がほぼ毒物だ。血も唾液も汗も精液も人体に悪影響を及ぼす。他者より頭脳が優れているのも覚醒剤使用による。」
「そんな、ことが……」
「俺達がこの容姿を保てているのは、細胞分裂回数を増やしているからだ。」

「で、ですが、人間の細胞分裂回数は決められている筈では?」
「詳しいな……。その通りだ。しかし俺達の身体は決められた細胞分裂回数を増やし、自己回復能力を高め、その細胞分裂の回数増加に伴う筈の老化を、成長を著しく後退させる毒薬によって抑え込んでいる。」
「成長を、後退させる……」
「そうだ。その2つを体内で相殺させ合う事で老化も幼児化もしない肉体になっている。そして細胞分裂回数が多いお陰で傷や毒についても耐性がある。……まぁ、ずば抜けているのは識だがな。」

「識は後継団体の最も優れた被検体だった。原は強い光に弱いという弱点があり、俺は体液が毒物になる為に生殖能力もなく、人と必要以上の接触が出来ない。アイツはほぼ弱点のない最高傑作であり、その後生み出されるだろう、完璧な完成体のオリジナルと言われていた。」

完璧な完成体……?
ならば、彼ら3人はその完成体を生み出す為の実験体に過ぎなかったという事か。
余りにも非道ではないか。

「だが、余りにも子供や若い成人の誘拐が相次いだせいで実験基地が警察にマークされ、乗り込まれる事が時間の問題になった。自分達が作り出した被検体と、そのデータの流出を恐れた研究者達は被検体を殺害し、データを持ち出し逃亡する事を決めた。」

「え、……は?被検体を、殺害?」
「そうだ。俺達以外はみんな殺された。」

「本当は、その時に俺達も死ぬ予定でいた。」
「……っ」
「けれど、それだと研究者達の逃亡を手助けし、新たな被害者を生むだけだからと、俺が識に声を掛けた。そこからはあの身体能力だ。解るだろ?あっという間に制圧だ。原と俺の身体能力も識には劣るが、一般には優れてる。科学者相手には容易い事だった。」
「……」
「……死ぬ予定でいたと言ったが、それは識と原だけだ。俺には……その覚悟がどうしてもできなかった。制圧した後も、覚悟が出来ない俺に、2人はこの悲劇を再び繰り返してはならないからと、俺に死ななくていい理由をくれた。」

 


ALICE+