遼遠の来賓を歓迎する。
多くの生徒が校門を出ていく。
そこにぽつんと立っている、その学校の制服ではない生徒。
通る生徒が彼女を見、不思議そうに話している。
彼女はケータイをいじりながら小さな溜息を吐いた。
ケータイを閉じると同時に、門の近くから女子の黄色い声が飛んだ。
振り返ると女子に絡まれながらも、それを振り切ってやってきた青い髪の男。
「ごめん、待った?」
「…全然?」
にっこりと笑う女生徒に、男は「ごめん。」と苦笑して見せた。
周囲から見たら完璧な女生徒の微笑みだが、その本性を知っている男から見たら怒っている事は明白だった。
彼女は周囲からの注目を嫌っている。
それを他校の校門で待たせてしまったのだから怒るのも当然だった。
「じゃあ、行こうか。」
男がそっと彼女の腰に手を回して歩き出す。
それには女子たちが悲鳴のような声を上げる。
隣の女生徒が溜息を吐くのを聞きながら、青い髪を揺らして男は笑った。
「…ストーカー?」
「そう。まぁ、そこまで酷いものじゃないらしいけど。」
まだ他の部員達が練習をしている中、部室で麗華に紅茶を出す。
それを一口飲みながら、彼女は怪訝そうに首を傾げた。
伸びた黒髪がさらりと揺れる。
「その部員には記憶がないんだけど、最近彼女居るんでしょ?って聞かれるようになったらしくて。」
「…それがなんでストーカーになるの。」
「いろんな女生徒に聞いて回ったら、彼女ってあの子でしょって皆が同じ子を指差すんだって。」
「は?」
「どうやらその女の子が自分で言いふらしてるみたいだよ。」
はぁ、と麗華の溜息が響く。
俺は苦笑してから自分用に淹れた紅茶に手を伸ばした。
やがて麗華が口を開く。
「そういうの、面倒だな…」
「ん?」
「ストーカーなんて何考えてるか分かりにくいんだよ。」
「ふぅん…?じゃあ解決屋にも解決出来ないってこと?」
俺がそう尋ねると、彼女は綺麗に笑った。
綺麗な花には毒があると、誰かが言う意味がよく分かる。
彼女の笑みは毒そのものの美しさだ。
「難解なものほど壊したくなるじゃないか。」
「ふふ。そう言うと思ったよ麗華なら。」
で?どうやって壊してくれるの?
そう問いかけると彼女は考える仕草を見せた。
悩んでいるようなその表情を見ながら紅茶を啜っていると、「精市は何かいい案ないの?」と尋ねられる。
「俺に案があったら麗華を呼んでないよ。」
ぶすっとした顔で睨まれて思わず笑う。
裏表のある彼女だけれど、表情は割と変わるし可愛いと思う。
特に今の不貞腐れた表情なんか。
盛大な溜息を吐いた麗華のケータイが振動して着信を知らせる。
面倒くさそうにケータイを開いた彼女は、画面を見て小さく笑ったようだった。
その反応が気になり俺は問いかける。
「ねぇ、誰から?」
「怜だよ。」
「怜?」
「黒崎。」
「あぁあの問題児。」
「こないだも停学食らって出てきたばっかなんだけど、」
そう言って麗華が翳したケータイの画面を見る。
そこには何故か麗華が女子に叩かれている写真。
そしてその写真の下には、
「え…退学?」
退学になっちったよ(o`з’*)
の文。
目を瞬いている俺に、ケータイの画面を自分で見つめながら彼女は笑った。
「ほら、こないだのテニス部の1年マネージャーだって。」
「あぁ…うまいこといったってやつだ?」
「そうそう。…会いに行ったら殴られて。」
麗華が鼻で嗤う。
嘲笑うような彼女に、俺も笑った。
「そっか。反省しなかったんだ?」
あのまま学校にいてもらったら邪魔なんだよね。
そう呟いた彼女は唐突に「あ、」と零した。
どうしたの?と尋ねるより先に麗華はニヤリと口端を釣り上げた。
「これでいこうか。」
「え?」
まぁ見ててよ。
そう答えた彼女は楽しそうで、これから何が起こるのか興味が沸いた。
麗華の行動や思考は全て俺の興味の対象だけど。
がちゃり、とノブが回る。
振り返ると部室のドアが開いて部員が入ってきたところだった。
「あ、ちょうど良かった。依頼人だよ。」
「…は、」
ぽかんとする麗華に、俺はまた笑った。
だって彼女の間抜け面なんてそうそう見られるもんじゃない。
「詳しくは本人から聞いたらどうかな。」
嵌れば堕ちるだけ。
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