近付く終焉


「ねぇねぇ慈郎ちゃん。」

「ん〜…あ、麗華ちゃん!どうしたの?」

「こないだ丸井くんが出てる雑誌見せてくれるって言ったじゃん?」

「あ!うんうん言った!」

「今から自主練だし、読みたいなーって思ったんだけど…いい?」

「もちろんだC〜!えっとー…あ、あった!はい!これ!この付箋貼ってあるとこね!」

「お、おぉ…こんな何冊もあるなんて予想外だ…」

「じゃ、俺も行くけど、後で感想聞かせてね〜!!」

「頑張ってね〜」

ぱたん、と音を立てて扉が閉まる。
部室に一人。

これほど絶好の機会はないだろう。アレはきっと動く。
小さく漏れる笑みを隠す事もせずに、私は慈郎ちゃんから借りた雑誌を読んでいた。

がちゃりと扉が開く音。
誰が入ってきたかなんて明白過ぎて、私は小さく笑った。

さぁ、クライマックスだね。

「…麗華先輩。」

「…なに、えりなちゃん。」

雑誌に目線を落としたまま応える。僅かな沈黙。君の性格からして目も合わさずに会話されるのはムカつくだろうね。
興味がないと両断されているようで。
案の定、横目で見たえりなは顔を歪めていた。

「こっち見て話してくれませんか。」

「あーごめん。今この雑誌が面白くて。」

「…へぇ?それ先輩のなんですか?」

「ふふ、好きな選手が出てるんだよね。」

にやりと笑うえりなに、こっちが笑いそうだ。
ずかずかと寄って来た君は私から雑誌を奪い取る。

そうだ、それでいい。

「ちょっと…」

「ふぅん?麗華先輩ってやっぱりテニスしてる人が好きなんですね?」

「そういうわけじゃないよ。その人のプレイスタイルが、」

「嘘つき!」

ビリィッ

紙の破れる音が響いた。
雑誌を千切り始めるえりなに、私は黙っていた。
馬鹿って単純でいいよね。

薄ら笑う私に気付きもしないで、えりなは散り散りになった雑誌を放り投げた。

「ふん…驚いて声も出ないの?いい気味…あんたがテニス部に戻ってきてから全員アンタの事気にしちゃって、全然相手してくんないし、マジ最悪。…さっさと帰れよ。」

可愛いメイクを施された顔を盛大に歪めてえりなが私を睨みつける。
その目を見返していれば、彼女は顔を真っ赤に赤らめ、唾を飛ばしながら叫んだ。

「なんなんだよ!!お前も理紗も超邪魔なんだけど!!ここにいていいのは私だけなんだよ!!分かったらさっさと消えろ!!」

ばしっと
平手で左頬を叩かれる。
力いっぱい叩かれたようで頬に熱が集まり、じんじんと痛みが広がった。

叩かれたままで右を向いていると彼女は鼻で笑った後、近くにあった鋏の刃を握った。
そして自分の腕に一本の線を刻むように片方の刃を滑らせた。

「つっ…」

それは肘から手首に真っ直ぐに引き延ばされた。
赤い雫が滴るのを見て、えりなは笑った。
からん、と鋏を床に放り投げえりなは叫んだ。

「きゃああああああ!!!」


私は緩む頬を抑えられなかった。



「どうした!?」

「し、宍戸先輩…!!」

「え、えりな…!?どうしたんだよ!その傷!」

「なん、どないしたんや。」

「腕に切り傷が…っ」

「何でこんな酷い傷…っ」

「っ麗華、先輩が急に、は、鋏で…っ!!」

「…は?」

静まり返る室内。
皆の視線が私に集まる。

私は何も言わず、ただその場に立っていた。

「…本当なの?麗華ちゃん…」

不安げな目で慈郎ちゃんが見詰めてくる。
私はふるふると首を横に振った。

「違う、…違うよ。何言ってるの…えりなちゃんが急に自分で腕に傷付けたんだよ…っ!!」

困惑したように叫んだ。
するとえりなもまた宍戸に泣き付く。

「そんな事してません!何で自分で傷付けないといけないんですか…っ!」

愕然としている風を装って、私はただ突っ立った。
宍戸がえりなの肩を抱き締める。
彼の胸に顔を埋めたえりながほくそ笑むのが見えた。

「なに、言ってるの…?急に私が読んでた雑誌破いて放り投げたのも、鋏で切ったのもえりなちゃんじゃない!!」

「雑誌破いたのも先輩じゃないですかっ!!なんで、何でこんなこと!!」



はい、かかった。



「雑誌って…これの事か?」

「はい…私が読んでたら急に破かれて…私の好きな選手が載ってる雑誌だったんです。」

「…それ、嘘だC。」

「…慈郎?…嘘ってどういことや。」

無表情な慈郎ちゃんが向日が拾い上げたボロボロになってしまった雑誌を受け取る。
ページの端に残る、黄色い付箋。
その付箋を撫でて、慈郎ちゃんは尋ねた。

「その好きな選手、名前言ってみてよえりなちゃん。」

「え…っ」

慈郎ちゃんの言葉にえりなは言葉に詰まった。腕を抑えながら、視線をさまよわせる。
言えるわけがない。
だって彼女は付箋が貼ってあるページに誰が載っているのかなんて知る由もないのだから。

えりなが何も答えずにいると、慈郎ちゃんはえりなに向けてその雑誌の残骸を投げつけた。

「これは俺が丸井君の載ってるページに付箋をしてた雑誌だC!!そんなのお前が好きな選手が載ってるからって読んでるのおかしいC!!」

怒鳴りつける慈郎ちゃんにえりなは青くなっていく。
ふ、墓穴。

「俺は麗華ちゃんに読んでもらいたくて貸してたんだよ!!えりなちゃんに貸した覚えなんてない!!!」

「そ、そんなっ!ちが、私は麗華先輩に読んでって言われて読んでて…!」

「…えりな、ならその好きな選手言ってみろって。」

「そ、れはっ」

「矛盾、してるよね、それ。好きな選手も言えないし、慈郎先輩は貸してないって言ってる。」

「なのにお前は九条先輩に破かれたって言う…おかしいだろ。」

「鳳先輩、日吉先輩まで…!なんで!!私は鋏で切られたんですよ!!?被害者は私じゃないですか!!」

絶叫するえりなを冷たい目で全員が見詰めた。
私も呆然と立っていたら、侑士の指が左頬をなぞった。

「…赤なってないか?」

「…さっき、突然叩かれて…」

「……さよか。」

「う、嘘です!!私そんなことしてない!!麗華先輩が自分でっ」

「自分でやって頬に手形が残るわけないC!!!」

「…!!…、ど、どうして…どうして信用してくれないんですか!!いつも信用してくれるのに!!」

泣き叫ぶえりなを見つめていた侑士は小さく言った。

「…麗華が、えりな傷付けたんか?」

私はただ無表情に首を振った。

「してないよ。」

「嘘!!嘘吐かないで!!!!」

「うるせぇぞ黙れッ!!!」

景吾の一喝に喚いていたえりなは肩を揺らして押し黙る。
恐る恐る景吾を見上げたえりなに、彼は顔を歪めて言った。

「どっちを信用するかなんて最初から決まってんだよ。」

えりなが顔を綻ばせた。
言葉は最後まで聞くべきじゃないかな。



「麗華は嘘を吐かない。お前が全部やったんだろ。」



愕然としたその顔写メりたいわ。



チェックメイト。

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