1
「なに…?バレた、だと?」
「うん。」
昨日少し様子が変だった高尾に何かあったのかと部室で尋ねると思いも寄らない返答が返ってきた。
その場にいたレギュラー全員が着替える手を止めて高尾を振り返る。
しかし、当の本人は衝撃的な発言をかましたのにも関わらず着々とジャージに着替えていた。
「……バレた…?」
「うん。だから俺が吸血鬼ってバレてた。」
「はぁあッッ!!?おい良いのかよそれ!?いや良くねぇよ轢くぞ!!?」
「ちょ、宮地さんw自問自答www」
「いやいや!!それは一大事だぞ高尾!」
「ちょっ…大坪さんも落ち着いて…ッ」
「もし言いふらされたりしたら面倒なことになるぞ…」
「そそそれはまずいです。いくらラッキーアイテムでもそこまでのカバーは出来るか…っ」
「やべぇ。まじやべぇ。やべぇよこれは。」
「取り敢えずと緑間と宮地は一回深呼吸しとけ。」
大坪先輩に言われた通りに大きく深呼吸をする。何故かそれを隣で見ていた高尾が腹を抱えて笑っていたが。誰のせいでこうなっていると思っている。
少し落ち着いたところで高尾に視線を戻す。
こちら側としても説明を求めたいところだし、状況を把握したいのだが、何故か焦る素振りを微塵も見せない高尾に、少し安心する。
思っているよりも事は深刻じゃないのだろうか。
着替え終わり部室を出て行こうとする高尾を追う。
後ろから慌てたようについてくる3年生を視界の端に入れながら、俺は至っていつも通りな高尾の背中に声を掛けた。
「高尾。バレたというのは確かなのか?」
「うん。まじ。吸血しようとしたら見られちゃってさ。」
「見られたァ!?つうか学校で吸血するとか何してんだテメェ!焼くぞ!!」
「…いや、その先輩が吸血鬼は存在するんだよって熱弁してるから、いいかな!って思っちゃったんすよね!」
「いいかな!じゃねぇぇえええええ!!その吸血しようとしたとこ見られてんじゃねぇか!!!!」
「宮地、取り敢えず落ち着け。パイナップルと軽トラは貸す。」
「えぇええええ!!?ちょ木村先輩すみませんっした!!貸さないで!?」
ここにきてようやく焦った表情を見せる高尾に溜息を吐く。
もう少し詳しく話すように促すと、高尾は顎に手を添え何かを思案するように眉間に皺を寄せていた。
少し唸った後、ようやく口を開く。
「…いや、多分あれは吸血する前から俺が吸血鬼だって知ってたんだと思います。」
「な…っ」
その発言に俺は目を見張り、先輩方は息を呑んだ。
吸血鬼だとバレていた?
それを聞いてしまうといよいよ安心できない事態になってくる。
吸血鬼だとバレているのは高尾だけ?
それともレギュラー全員だとバレているのか?
嫌に鼓動が五月蝿い。
冷えた汗が体を伝っていく。
二の句を繋げないでいると、高尾は振り向き、ニッと笑った。
「ま、大丈夫っすよ!」
「…は。」
拍子抜けして声が漏れる。
何が大丈夫なのだろうか。
彼が笑って大丈夫、と言うと漠然とした安心感が漂うのだが、一体何故そう言い切れるのか。
言い触らされでもしたら居心地が悪くなるのは間違いない。
それが非現実的だと信じられないとしてもだ。
何とも言えずにその笑顔を見返していると高尾は困ったように頬を掻いた。
「根拠はないんですけど…その先輩、誰にも言ってないみたいだし。」
「…誰にも?」
「うん。誰にも。それに…その。俺が吸血しようとした人にも黙っててくれて。しかも俺が襲った事、誤魔化してくれたみたいなんすよね。」
「は…、は?誤魔化すとかそんな、…簡単に出来ることじゃねぇだろうが。」
険しい表情の宮地先輩の言葉に確かにと頷いた。
正体を晒しているのを誤魔化すなど。確かに意識はなくなっていたかもしれないが、その前後を誤魔化すことは難しいはずだ。
すると高尾は俺達同様に首を傾げた。
「それが謎なんすよね。どうやってやったんだか…。それに術も効かなかったんですよ。その先輩。」
「術が効かない…?」
木村先輩が確認するように言葉を反芻する。動揺しているようだ。
それは皆似たような反応で、驚愕と困惑が一瞬にして広がった。
術が効かない、なんて。普通の人間では有り得ない筈だ。
しかも人の記憶を誤魔化すなんて。吸血鬼であることも以前から知っていたというし、もしかしたら、人じゃないのでは…?
各々沈思しているのか会話がなくなる。
唸る俺達を尻目に、大坪さんがいつもより抑揚なく言い切った。
「そいつも吸血鬼なんじゃないか?」
その言葉に一瞬固まって。
間を置いた後、あ。と誰かが呟いた。
「あァ!!同じなら術通じねぇしな!!!」
「なるほど。さすがだな大坪!」
「いや、別に…」
先輩たちの言葉を受けても思案している高尾をじっと見る。
まだ何か考えるところがあるようなそれに、不安は完全には取り除かれない。
彼の口から出る言葉を先輩達と急かさず待っていると、ようやく口を開いた。
「…ちょっと、吸血鬼とは違う気がするんですよねぇ…」
「…具体的にはなんだ?」
「うーん…なんとも言い難いんだけどさ…。だってその先輩が俺の事吸血鬼って気付いてたなら、俺も何かしら感じててもいいじゃん?でも俺は何も感じなかったし……本当、普通の先輩なんすよ。何も感じない。普通の、人間って感じ。」
不思議そうに首を傾げる高尾に、俺達もまた首を傾げた。
「高尾。その先輩って2年か?名前なんて言うんだよ。」
「いや、3年の渡辺 司先輩っす。」
「…エッ?」
「え?宮地さん知り合いですか?」
「いいっいや…、」
何故だか名前を聞いた途端に目に見えて動揺する宮地先輩に首を傾げる。
まさかという思いで宮地先輩を見つめていると、あ、そうか。と木村先輩が呟いた。
「宮地仲良かったんじゃないか?渡辺さんと。」
「えぇぇえっ」
ALICE+