夜から降り始めた雨の心地よいリズムを背後に、私は今まさに寝ようとしていた。そんな時だ、強烈な閃光が私の体を突き刺したのは。あまりにいきなりのことで喉元が引きつり、ひっ、と情けない音が漏れた。カーテンを開けっ放しにしていたことが祟った。白い光が余韻のように肌の表面を駆け巡る心地がする。次いでやってくる、これまた強烈な雷鳴。息をつく暇もない。片方だけベッドに突っ込んでいた足を勢いよく引き抜きベッドから離れた。私のベッドは窓辺にあるのだ。怖くて近づけるものか。
ブランケットを頭から被り床にへたり込んだ。どうしよう、これじゃ眠れない。もうみんな寝てしまっただろうか。誰かの部屋に行くにも、その道でさえ怖い。どうしよう。必死に考えている間にも容赦なく雷は鳴り続ける。
ひときわ鋭い光が見えて、滑り落ちるような雷鳴が聞こえた。反射的に目を瞑る。きつく閉じた目尻から涙が滲むのを感じた。こわい、だれか……

その時ノックの音が聞こえた。すぐさまそちらを見ると、開いた扉からセシルの姿が見えた。

「……セシル!」
私はほとんど体当たりをするようにセシルに抱きついた。ふらつきもせずに受け止めてくれるところにセシルも男の人なんだと思った。

「夜中にごめんね。急に鳴り出したからナマエ大丈夫かなと思って。でも、来て正解だったみたいだね。」
「っ、セシル、こわかった……」
「大丈夫、もう大丈夫だよ」

大きくて温かな手が私の頭を撫でる。その緩慢な動作にひどく安心してしまう。こうしているうちに夜が明けてしまえばいいのに。セシルと離れるのが怖くなるから。

「ねえ、ナマエ。今日一緒に寝ようか。」
「いいの……?」
「もちろん。その方がナマエも安心するでしょ。さあ、行こう」

セシルが私を抱きかかえた。少しびっくりしたけど、今は甘えることにする。首に腕を回して肩に顔を埋めた。

「ふふ、今日は甘えたさんだね」
「……うるさい。セシルが甘やかすから甘えてるだけだもん」
「はいはい」

そしてまたセシルはくすくすと笑った。

部屋に着くと優しくベッドに降ろされる。間もなくセシルもベッドに入った。セシルの方へ身を寄せると優しい手つきで引き寄せられる。彼の胸板に顔を埋めた。雷光は彼に阻まれて私まで届かない。雷鳴は防ぎようがないが、びくりと体が反応するたびに、彼が頭を撫でれくれる。一人でいるよりもずっと心が落ち着く。

「ん、セシルのにおいがする……」
「え、僕汗くさいかな、」
「ううん、違うの。すごく安心する……」
「よかった。ナマエに臭いって言われたら立ち直れないや。」
「ふふ、セシルお父さんみたい」
「お父さんかぁ……」
「ねえ、セシル」
「なあに」
「……ありがとう」
「どういたしまして。さあ、寝ようか。寝坊したらウォーリアに怒られちゃう」
「そうだね。おやすみ、セシル」
「おやすみ、ナマエ。良い夢を」







「おーい、セシルー。もう朝だぞ。珍しいな、お前が寝坊なん、て、……。う、うわああああああああああ!」

翌日見事に二人して寝坊した私たちは、セシルを起こしに来たフリオニールに抱き合って眠る姿を発見され、彼の悲鳴で目が覚めた。その後ウォーリアが鬼神の如き形相で現れて、セシルと私は足の感覚がなくなるまで説教されたのだった。

救世主