彼の名前は〈爆豪勝己〉。性別は男。
雄英高校ヒーロー科、1年A組に在籍する人物だ。入学当初からとても目立つ存在であり、在学生では知らない人はいないんじゃないかってくらい、ほんとかなり有名な彼である。
彼に関した基本的な情報はなんとなく知ってるけど、私は特にその有名な彼と話したことも無いし、面と向かって顔を合わせたことも無い。だから彼も私のことは知らない。
目立つ存在だから一方的に私が知ってるだけ。
まあだけど、別に友達になりたいだとか、話してみたいだとかそんな感情も微塵もない。
彼はきっと特別な人。私はただの一般人。
そんな一般人な私の青春ハートフルな高校生活の中で、時々、たまーに、ただ見かけるだけの彼についての話である。





「名前〜!お腹空いたね、ご飯食べに食堂に行かない?」
「だね〜さっきの授業難しすぎてエネルギー全部脳みそに行ったし!ほんとお腹空いた〜」

苦手な英語の授業。足りない脳みそをフルパワーに使った私の体は、新しいエネルギーを求めるかのようにグゥと鳴った。いつものようにお財布片手に友達と一緒に賑やかな食堂に繰り出す。今日の気分はお肉。肉。ミート。一択である。

「私もう今日食べるもの決めてるんだ。誰がなんと言おうと絶対とんかつ定食!」
「はやいね(笑)いつもとんかつ定食人気だし売り切れてないといいね」

あのサクサクとした衣、肉厚な豚肉、美味しいソース、塩でも食べたい、頭の中がとんかつ定食1色になる。そんな話をしながらタンタンタンッとリズミカルに階段を降りていく。
ふと気がつくと、後ろにも私たちと同じように階段を降りる誰かが数人いるのがわかった。
タンタンタン。
降りながら後ろの人達の会話が聞こえてくる。


「俺今日何食べようかな〜!なあ切島〜何食うの?」
「何にすっかなー今日のオススメ見てから決めっかなー!」

タンタンタン。
やっぱ皆この時間になると同じこと考えるんだね·····今日のオススメなんだったかな·····

「今日のオススメなんだったかな〜·····なぁ!爆豪は何食うの??」
「あ"?·····んなことおめーに関係ねえだろ」


そんな会話を聞いていてふと気がついた。
確か後ろにいる人の名前·····聞いたことある。「爆豪勝己」って人だよね。噂に聞くには声もデカくて怖い人らしい·····
隣で喋る友達の会話に、適当にうんうんと相槌を打ちながら後ろで話す人達の会話を盗み聞きする。


「爆豪、おめーどうせまたあの色がおどろおどろし〜!めっちゃ辛そ〜なカレー食べんだろ!?」
「まじ好きだよな〜辛いの。あれもう色がカレーの色じゃねぇつうの」
「っだーーー!うっせぇな!俺が何食おうかてめぇらには関係ねぇだろーがよ!!!」
「切島と上鳴の言う通りだぜ。あんなん食ってるの、見てる方が汗かくっつーの」
「うっっせーーーわ!!黙れくそしょうゆ顔がっっ!!!」


·····爆豪勝己、カレーの話してるだけなのにめっちゃ切れてる·····
こわぁ。そんな怒らなくったっていいじゃん。
そんなことを思いながら、ふと、この爆豪勝己。どんな顔だったのかを思い出せない。
確か同じクラスの友達がイケメンと叫んでいたのは聞いたことがある。でも実際には見たことはない。特に興味もなかったし。
でも、この後ろの会話を聞いた今。
彼がどんな顔をしているのかが無性に気になった。
チラッと後ろを振り返ってみようかな、でも不自然に振り返ってなんかイチャモン付けられても嫌だしな〜·····
そんなことをポロポロ考えていた刹那、「あ、おーい名字!食堂行った後ちょっと職員室寄ってくれ〜」と大きな声で、後ろから声をかけてくる担任の声が聞こえた。
咄嗟に「え〜私の貴重な昼休みを〜·····」と、立ち止まってこちらも大きな声で返事をしようとしたその時。
ドンッと階段を降りている途中に立ち止まった私の肩と、後ろの誰かとぶつかってしまった。
「やべっ」と顔を見上げるとそこには·····



初めて面と向かって顔を見た


(目·····赤いな)「あ·····ごめ「急に立ち止まんなやくそモブがぁ!!!」·····ん」
「ちょ、爆豪!女子に大きな声出すなって!」
「ごめんね〜うちの爆豪が!」
「いや·····うちが急に立ち止まったから·····ごめんね」
「うっせー!気安く話しかけんなブス!!」
「だから爆豪!!!」


「ほんとごめんね〜!」と言いながら私たちの横を通り過ぎていく彼ら。
「ちょっと名前!!大丈夫?!何あいつら怖すぎでしょ·····」
「·····うん」
「あれ、あのつんつん頭。あいつだよ爆豪勝己ってやつ!めっちゃすぐキレるんだって〜聞いてたけどヤバいねー!こわすぎ!」
「·····いや、でもうちが急に立ち止まったのが悪かったんだよ」


前をズンズンと歩いていく背中を見つめながら、「怖かったけど、彼とはもう話すこともないな」と思いながら私達も食堂に進む。
あの有名な爆豪勝己と、一般人モブな私が初めてであった瞬間だった。