近侍と初期刀

当初は政府の方針で第一部隊隊長が近侍を務めていた。顕現から三ヶ月程したある日、近侍が兼任ではなくなり私が殆どの日を任されるようになった。小鳥が私を頼りにしていることは十二分に感じているから悪い気はしない。だがそう思う反面他の刀剣男士、特に初期刀である歌仙兼定はどう思っているのかも気になった。

「ああ、山鳥毛。君が僕のところに尋ねてくるなんて珍しいこともあるものだね」
「一度聞いておきたい事があってな」
「立ち話もなんだからね、部屋に入ったらどうだい」

そう言って座布団をすすめてくれる。昼前の後に先触れをしていた為、茶と菓子も用意してくれたらしい。襖を閉めすすめられるまま腰を下ろす。

「その……だな、聞きたいことと言うのは​──」
「せっかちだね、今茶を淹れるから待ちたまえ。……それともこの後急ぎの用事でも?」
「いや、時間を割いてもらってそのような無礼はしないさ。」
「宜しい」

居住まいを正すと満足気に頷いて茶を淹れる。茶葉によって適温が違うのだと説いてくれただけあって躊躇いなく流れるような所作だ。

「あの子に中途半端なお茶は飲ませてないだろうね」
「無論だ。……まだ君には及ばないが」
「ふん、一朝一夕で僕を越えられてたまるものか」

この男も悪い笑みを浮かべることがあるのか。変なところで感心してしまった。小鳥も彼のこの一面を知っているのだろうか。
私が顕現するまでの間、小鳥は先に顕現した男士達とどんな日々を送っていたのだろう。これまでも気にならなかった訳では無いが、ふとした時に何かが首を擡げる。

「顔が怖いよ、君」
「顔……」
「先に言っておくけど、君が気にする様なことは特にないよ。」
「それはどういう……」


歌仙兼定は鼻で笑って茶を煽る。挑発とは違う、しかし少し馬鹿にした様な仕草に眉間に皺が寄った。それを気にするでもなくゆったりと茶托に椀を戻し、真面目な顔でこちらを見据える。
無意識に睨め付けるようになってしまう。彼はわざとらしくため息をついて肩を竦めた。

「どうせ自分が主に付きっきりな事で周りの目が気になるのだろう?」
「ほう、さすがは初期刀殿は御見通しというわけか」
「よしてくれ。その様子では君は知らないだろうが、あの子は君を待っていたんだ。」
「……待っていた?」
「主はいつか自分の手で顕現させた君に見える為に審神者になったのさ。」

全くの初耳で、思わず開いた口が塞がらない。
気にするでもなく彼は続ける。

「まあ僕もあの子も長期戦のつもりでいたのだけどね ……、ご存知の様に本丸発足からたった二ヶ月半余で君を拾ったというわけさ。」

い目をした。

君の前では隠してるつもりなのだろうけどあの時の主は凄かった……。歌仙兼定は疲労を思い出した様な遠い目をした。

「主の心情は君が自分で聞き出すべきだから野暮はしないよ。だが少なくとも君より先に顕現しているものは一文字のふたりを含め全員知っている。」
「我が翼も子猫も……」
「余りに周知の事実だったから態々伝えるなんて考えもしなかったのだろうね。何にしたって君が悩む事は無いという事さ。」
「……」
「ああ、先に言っておくけれど、君が近侍を続けられているのは主の選り好みだけじゃないよ。あの子が望んでいて、一等頼りにしているのは君と言うだけだ。だから迷わず胸を張りたまえ。」

それに、いつだって君には荷が重いと判断すれば僕は容赦なく君を近侍から引き摺り下ろすつもりでいる。
戦場で見るに似た鋭い視線を逸らすことなく正面から受ける。

「どうやら君も譲る気は無さそうだ。」

暫く膠着していたが、歌仙兼定がふっと笑みを零し目を閉じた事で何事も無かったように冷戦は終結した。

「さて、憂いを払えたのならこれを飲んで持ち場に戻りたまえ。仕事が滞っては主が困るからね。」

すっかり冷めた茶を勧めるささやかな嫌がらせは甘んじて受けた。小鳥を独占する事への意趣返しにしては随分と可愛らしいとは言わぬが花だろう。




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