ちょも

「小鳥は、用事か?」
部屋に篭っていると山鳥毛が襖越しに尋ねてきた。
「今なら手が離せるので、どうぞ」
部屋が散らかっているのは今更なので、もはや気にする事はやめた。襖を開けた彼が踏み込むのを少し躊躇うのが確認できる。
「これはまた…布の山だな…。服を作っているのか?」
「ええ、今はこの子の服を」
掲げて見せたのはサングラスをかけたうさぎのぬいぐるみだ。山鳥毛は顎に手を当て華奢なぬいぐるみをまじまじ観察する。
「何処と無く親近感を抱く子兎だな。」
「まあ山鳥毛さんモデルなので」
「…私がそれ程愛らしい成りをしているとは思えないが、小鳥が言うのならそうなのだろうな」
やや納得いかない様子だが、王様ゲームよろしく主の言うことは絶対なのだろう。それ以上の言及はなかった。
「して、子兎に服とは…?」
足元に投げだされている布を手に取り諸々を足で避けながら山鳥毛は入ってきた。足のお行儀が悪いのはものを散乱させがちな私のせいで着いてしまった癖だ。
「せっかくなら貴方とお揃いを誂えてあげたくてですね。ほら、素人なりにぽく出来てると思うの!」
作りかけのシャツとベストを手繰り寄せぬいぐるみに着せて自慢げに見せれば、顔を近づけしげしげ眺められる。渾身の出来だとは思うが、あくまで自作の割にだ。そんなに見られると恥ずかしい。
「うん、よく特徴を捉えている。」
ふわりと破顔した美丈夫を至近で浴びる。おかげで軽率に私は焼き鳥になった。
「しかし…散乱している白布を見るに外套も作るのだな。」
「そのつもりですが…?」
「…小鳥は最近必要最小限の仕事と予定以外の時間は部屋にこもりきりだろう。だから何にそこまで執心しているのか気になってな。……それに、その…、少し…寂しく思っていた。まさかその原因が小さな人形だとは思いもしなかったが。」
バツが悪い顔で照れくさそう呟く。焼き鳥、こんがり焼けてます。
「うぅ…、それは申し訳ないことを……。でも、まさか山鳥毛さんがそんなこと思ってくれてるなんて…ラビちょもに嫉妬だなんて…可愛くて心臓が…!!」
「…小鳥」
ぎゅうぎゅう締め付けられる心臓をつかみながら溢れ出す感情を噛み締めていると急に不機嫌そうな声音で呼ばれる。珍しい。と言うかどこに不機嫌スイッチがあったかな。身悶える姿が気持ち悪かったかな。
高速で思考を回転させ、居住まいを正して向き直る。
「はい、なんでしょう」
「私のことは読んでくれないのか」
「?、えっと、山鳥毛さん?」
「…」
「え、なに、私いつも呼んでますが?!」
山鳥毛の眉間に皺がよる。言い淀むなんて珍しい事もあるものだ。しかし言ってもらわない事には分からない。私は彼の言葉を待った。
部屋がしばらく沈黙に包まれる。
「…山鳥毛さん?」
耐えきれずうかがう様に声をかければ、はぁと溜めた息を吐き出し覚悟をしたように山鳥毛は口を開いた。
「私も愛称で呼ばれたい」
「ミ゚」
これが噂に聞く唐揚げになるってやつか。焼き鳥では足りない。とんだオーバーキルだ。
「…駄目だろうか…。子兎に嫉妬とは我ながら情けないが、…私も小鳥に愛でられたいと願うのは、君には滑稽に映るかな…?」
炭化する。
「ひぇ…うちのちょもさんがかわいい……」
あまりの可愛さに直視出来ず仰け反ってしまうが、そうでなくとも多分彼の顔は見えなかったと思う。
視界を一瞬にして埋めた桜吹雪が言外に喜びが如何程のものか雄弁していた。
「今日はお裁縫やめて、デート行こうか。ちょもさん」
「…っ、今日は、お家でぇとで勘弁してくれ…」
愛おしくてからかってみれば薄らぎそうもない桜吹雪から大きな右手で顔を隠した程度では隠しきれない真っ赤な耳と鮮やかに色付いた墨が垣間見えた。この様子ではお家デートどころか部屋から出られないだろう。その事を私は嬉しく思う。付き合いの長い一文字一家でもきっとこんな彼の姿は知らない。恋人の私だけの特権だ。




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