寒露



 静かで清らかな朝の陽射しが部屋を満たす。開け放した窓から入る風は少し肌寒さを感じるようになった。日々の雨が少しずつ夏の景色を塗り替えているのだ。

「んぅ…」
「おはよう、小鳥」
 
 吹き込む風を厭うように隣で眠っていた小鳥が布団の中に潜ってゆく。少し捲って朝を告げれば、奥から小さな恨み言が届いた。
 嘘つき。加減すると言ったくせに。
 唇を尖らせ眉間に皺を寄せながら不機嫌を隠そうともしない。くしゃりと苦々しく歪ませた表情なのに、愛おしくて堪らない。それが顔に出ていたのか小鳥の手のひらが私の素肌の肩を叩く。

「全然反省の色が見えない」
「すまない…どうしても愛らしくてな」
「……有耶無耶にさせようとしてる訳じゃない所がタチ悪い。」

 諦めにも似た溜息を零しながら、観念したのか顔を出そうと小鳥が身じろいだ。
 ぐえ。小鳥の口から呻きが盛れる。

「……ねぇ、足が付根から重くて動かない」
「…すまない」
「身動ぎだけでも腰が痛い」
「…ああ…」

 思いたる節が多すぎて可笑しくなってしまう。
 折角の休みなのに…。などと零しているが、出かける以上に屋内で時間を溶かす方が好きな事は知っている。そして今日は互いに丸一日なんの予定も入れていない。

「罪滅ぼしという訳では無いが、今日は私が一日小鳥の世話を仰せつかろう。」

 世話はするよりされる方が多かったが、小鳥に出会って世話を焼く楽しさを知った。大切に愛でる至福の時間。肉体がなければ知り得なかった事だ。

「さあ小鳥よ、まずは朝風呂でもどうだろう」

 もう厨番含め起きているもの達も少なくないだろうが、それでもまだ風呂に用事があるものはいないだろう。たまには大浴場を貸し切ってゆるりと一日を始めるのも良さそうだ。まだ寝てたいと零す小鳥を眺めながら、独り占めできる栄誉の一日の計画を練る。
 ふわりと吹いた朝の風が優しく甘い香りを部屋に満たした。

 




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