8月14日

「主、今夜はここまでにしてはどうだろうか。」
「えぇ……でも……」
 
 今回の酒呑童子討伐部隊の総大将を任せている山鳥毛が擬似フィールドから戻るなりそう口を開いた。私としては男士の育成と政府からの討伐報酬が美味しくて出撃の手を止めたくないのが本音。山鳥毛は私が難色を示した事に片眉を上げて「でも?」と言葉の先を促した。
 
「稼げるうちに稼いでおきたいじゃん……?」
「皆疲労も溜まっている。酒呑童子もまだまだ勢力が衰える気配もない。今晩で片は着くまいよ。」
 
 だから稼ぐのは寝て起きてからでも遅くは無い。言外にそう言っている。
 そんなことは私だって分かってはいるのだが、寝たら起きられない気がする。
 
「昨夜も夜通し出撃して、明け方にソファで落ちていただろう。そして結局そのまま寝たり覚めたり身体が休まらなかったはずだ」
「……寝落ちとはいえ一応睡眠はとったわけだし……」
「また小鳥は屁理屈を言う。突然出撃命令が止まって君に何かあったのではないかと肝を冷やすこちらの身にもなってくれ。」
 
 クソでかいため息を吐きながら山鳥毛は整えられた前髪をくしゃりと乱す。余裕が無さそうに見えるのは疲労のせいではなく、昨夜のことを反芻した結果だろう。
 
「安全な本丸にいるのに心配したの?」
「戦時下で絶対に安全な場所≠ネんてないんだ。それに君はより練度の高い男士たちを出陣させている。仲間を侮っている訳じゃないが、人数がいても守りは十分とは言えないから心配だってするさ」
 
 少し苦しげな表情に、自分の軽率さを反省する。
 彼らが強くなれるのならその機会を逃す手はないと思っていたが、思い違いをしていたらしい。山鳥毛をはじめとした刀剣男士たちは強くなるのが目的ではなく、守るための手段として力を求めているのだ。
 
「……今夜はここまでにしようかな……。」
「そうしてくれると私も安心できる。……寝室まで送ろう」
「私の部屋なの? 昨日は山鳥毛の部屋に連れてったのに?」
 
 寝落ちたのは自室のソファで、目を覚ましたのは山鳥毛の部屋のベッドだった。だからてっきり今夜も一緒に眠るのだとばかり思っていたがそうではないらしい。
 山鳥毛は少し言いにくそうにまごついて、それでも観念したように口を開いた。
 
「それは……言ったろう。不安だったと、君に何かあったんではないかと。ソファで力なく横たわっているのを見て一瞬肝を冷やした。……寝ているだけだと分かっても落ち着かなくてつい……安心したくて私の部屋に連れ帰ってしまった」
 
 少し恥ずかしそうな情けなさそうな力ない微笑みを見て、無意識に彼の頬に手を伸ばした。
 ごめんと言うべきかありがとうと言うべきなのか分からなくて私も山鳥毛と似たような表情になってしまう。ただどちらにしても山鳥毛に心配をかけてしまうのは本意ではなくて、自然と言葉が出た。
 
「しばらく夜は一緒に休もうか」
「……そうしてもらえると……安心できる」
 
 抱き寄せられ山鳥毛の胸に顔を埋める。
 普段の出陣後に感じる外の匂いも血の匂いもしなくて、擬似フィールドは相変わらず不思議だ。戦装束の山鳥毛から山鳥毛の匂いだけがする。もっと深く香りを肺に取り込もうと両腕を背中に回して抱きついたら、おでこに当たるネクタイピンがちょっと痛かった。
 
「ふ……、額に跡がついてしまうな。部屋へ戻ろうか」
「しっかり休んで貰って、また明日酒呑童子をフルボッコしてもらわなきゃいけないからね」
「百鬼夜行が片付いたら、しばらく休みにしてはどうだろう」
「みんな頑張ってくれてるもんね。ご褒美ある方が頑張れるし、そうしよっか」
 
 山鳥毛のジャケットの中に抱き込まれながら、私たちは山鳥毛の部屋に向かう。


 まさか一部始終を、休息はまだかと各部隊から偵察に出された今剣と五虎退、それに謙信に見られてたなんて少しも知らないまま。






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