まだ公式発表はされていない。山鳥毛本人からもまだ何も言われていない。だが政府の先触れには新たに刀剣男士の修行が解禁されます≠ニご丁寧にシルエット付きで届いたのだ。
(こんなの…どう見たって山鳥毛だわ……)
修行は本丸時間で九二時間。つまり丸四日間会えないのだ。…刀剣男士は修行の間時間の流れが異なるところに行くから、山鳥毛からしたらもっと離れていることになる。
「……小鳥」
障子の向こうから落ちてくる低い声は、いつも通り穏やかだった。けれど、その声を聞いた瞬間に胸の奥がぎゅっと掴まれる。
襖が開く。戦装束ではなく、内番服の山鳥毛。肩に羽織った白い上着、胸元に引っ掛けたサングラス。だが赤い瞳だけが妙に静かで、妙に優しかった。
「随分難しい顔をしているね」
そう言って近づいてくる彼から、逃げるように視線を逸らす。机の上には、例の通達。
新たに刀剣男士の修行が解禁されます
そしてあのシルエット。
「……こんなの、隠す気ないじゃない」
「ふふ」
山鳥毛は否定しなかった。それだけで喉がひりつく。
「まだ正式には決まっていない」
「でも、行くんでしょう?」
問い詰めるつもりだったのに、声が少し掠れた。
四日。たった四日。
……なのに。
刀剣男士にとっての修行は、ただの旅行ではない。時間の流れの違う場所へ行く。置いていかれるのは、きっと自分だけではないのだ。
山鳥毛はゆっくりこちらへ歩み寄ると、逃がさないように顎へ指を添えた。
「小鳥」
「……やだ」
「うん」
「まだ何も言われてないのに、もう嫌」
子供みたいな言葉だと思った。けれど山鳥毛は笑わなかった。
むしろ少し困ったように目を細め、額をこつりと寄せてくる。
「そんな顔をされると、私も困ってしまうな」
「困ればいいのよ……」
「手厳しい」
低く笑う吐息が唇を撫でる。近い。近すぎる。
抱き寄せられた瞬間、堪えていた不安がじわりと滲んだ。
「……だって、四日も会えない」
「本丸ではね」
「山鳥毛にとってはもっと長いんでしょう……?」
その瞬間だけ、彼は黙った。
否定しない。
胸がずきりと痛む。ぎゅっと彼の内番服を掴むと、山鳥毛の腕が背中へ深く回った。
「小鳥は聡い」
「こんなの、嫌でも分かるわよ……」
彼の胸へ額を押し付ける。聞こえる鼓動はいつも通り落ち着いているのに、自分だけが取り残されている気がした。
「……忘れたりしない?」
「誰が?」
「山鳥毛が」
「君を?」
くつ、と喉で笑う音。次の瞬間、腰を抱き上げられて視界が揺れた。
「きゃ……」
「随分可愛いことを言う」
そのまま膝へ横向きに座らされる。大きな手が髪を梳き、耳の後ろをゆっくり撫でた。
「小鳥。私は君に随分甘やかされている自覚があってね」
「……それ、今関係ある?」
「あるとも」
指先が首筋を辿る。熱を測るみたいに、丁寧に。
「君の匂いも、声も、触れた時の温度も。もう私の中に深く馴染んでいる」
「……」
「四日程度で薄れるほど浅く可愛がった覚えはないよ」
低く落ちてきた声が胸の奥まで震わせる。
「むしろ修行先で厄介だろうな」
「厄介?」
「君を抱けない」
耳元で囁かれ、心臓が跳ねた。山鳥毛はその反応を楽しむように、唇の端をわずかに上げる。
「夜になるたび思い出すだろう。君がこうして私に縋る顔も、甘える時の声も」
「……っ」
「帰ってきた時、無事で済むと思うかい?」
ぞくり、と背筋が震える。不安を煽っているのに、同時に安心させられている。
ずるい。
「……でも、寂しいものは寂しい」
「うん」
「ちゃんと、すぐ帰ってきて」
「約束しよう」
山鳥毛はそう言って、指先で涙の滲みそうな目元をそっと撫でた。
「だから今は」
唇が額へ落ちる。
「行ってしまう日のことより、こうして抱き締められている今を味わっておいで、小鳥」
駄々を捏ねる子供になった気分だ。どこまでも山鳥毛は私を甘やかす。
「……はぁ……我慢できなくて『帰ってきて』って鳩飛ばしちゃうかも」
修行完了鳩。万屋で買い求めることができる、四日間をたちまち零にできる魔法のような鳩。うちの本丸にも既に数羽飼っている。
「ふふ……なるほど。あの鳩を使う気かい?」
山鳥毛は喉の奥で低く笑いながら、膝の上の私をさらに引き寄せた。額が肩口へ預けられるほど近づけば、彼の体温がじわじわ染み込んでくる。
「小鳥らしいな」
「だって……」
唇が尖る。理性では分かっているのだ。修行は必要なもの。刀剣男士にとって大切な道程で、山鳥毛ほどの刀ならなおさら。
……でも。
「四日もいないなんて嫌なの」
「うん」
「しかも山鳥毛にとってはもっと長いんでしょう?」「そうかもしれないね」
「なら余計に嫌」
ぎゅ、と彼の服を掴む。すると山鳥毛は困ったように目を細めながら、指先で頬を撫でた。
「そんな顔で見上げられると、本当に鳩を飛ばされそうだ」
「飛ばすかも」
「修行初日に?」
「……二日目くらい」
「十分早いな」
笑っている。からかっているのに、声音は甘い。
山鳥毛は私の髪を梳きながら、ゆっくり息を吐いた。
「だがね、小鳥。もし君から鳩が飛んできたら」
「……」
「私は嬉しくなってしまうだろうな」
その言葉に思わず顔を上げる。
赤い瞳が、真っ直ぐこちらを見ていた。
「帰ってきて欲しいと願われるのは、悪い気分ではない」
「……甘やかしてる」
「当然だろう?」
即答だった。
「君が寂しいと言うなら抱き締めるし、拗ねるなら宥める。帰ってきてと言われれば、急ぎたくもなる」
「じゃあ鳩飛ばしても……」
「さて、そこは理性との戦いかな」
くつ、と笑いながら鼻先を軽く合わせてくる。
「せっかくなら格好良く帰還したい気持ちもある」
「むぅ……」
「だが、君が泣きそうな声で『帰ってきて』と言ったら危ういね」
耳元へ落ちる囁きが熱い。大きな手が背中をゆっくり撫でるたび、不安が解ける代わりに別の熱が胸へ溜まっていく。
「小鳥」
「……なぁに」
「もし修行へ行くなら、出立前夜は覚悟しておくといい」
「覚悟?」
「君が四日分寂しがる前に」
指先が顎を掬う。
「私が四日分、可愛がってしまうからね」
「っ……そういうの…ずるい……」
身が持たない。そう思うと同時に嬉しくなってしまう。
「沢山可愛がってくれても、寂しくなっちゃうかも」
でも山鳥毛も離れてる間きっと我慢することになる。私より長い時間。
「……ちょもは、鳩無しで頑張りたい……?」
魔法のような鳩は私の待つ四日間を零にはしてくれるけれど、山鳥毛の修行の時間を縮めることはない。彼が一ヶ月、もしかしたら一年。もっと長い時間修行を重ねるかもしれないのに、私はたった四日も待てないかもしれないなんて……
「主としてダメかも……」
「……小鳥」
山鳥毛の声が少しだけ低くなる。抱き締める腕に、今までより静かな力が籠もった。
「それ以上、自分を責めるのは感心しないな」
頬へ触れた指先が、熱を鎮めるみたいにゆっくり撫でる。
「四日会えないだけで寂しいと思えるほど、君は私を大切にしている」
「でも……」
「それの何が駄目なんだい?」
言葉に詰まる。
主として。審神者として。送り出す立場として。
笑って「いってらっしゃい」と言えない自分が、少し情けなかった。
けれど山鳥毛は、そんな葛藤ごと包み込むように額へ唇を寄せる。
「君は時々、主であろうとしすぎる」
「……だって主だもの」
「同時に、私の恋人でもある」
その言葉がずるい。胸の奥へまっすぐ落ちて、苦しさごと甘く溶かしていく。
「寂しいと口にするなとは言わない。縋るなとも思わない」
「……」
「むしろ、君が平気な顔をしていたら私は拗ねるね」
ふ、と笑う吐息が耳を掠めた。
「私がいなくても平気だったのか≠ニ」
「そんなわけないじゃない……」
「うん。知っている」
山鳥毛は満足そうに目を細める。大きな手が背中をゆっくり往復するたび、張り詰めていた心が解けていく。
「鳩のことも、君が迷う必要はない」
「でも……ちょもは長い時間頑張るかもしれないのに」
「それは私が選ぶことだ」
きっぱりとした声だった。
「修行へ向かうなら、強くなるために行く。君を置いて苦しみたいわけじゃない」
「……」
「君が恋しくなるのも、抱き締めたくて堪らなくなるのも、全部承知の上だ」
指先が髪を梳く。丁寧に、愛おしむみたいに。
「だから小鳥。君は待てない自分≠恥じなくていい」
「でも鳩飛ばしたら……」
「私は喜ぶよ」
即答だった。
「修行の果てで、君が帰還を望んでくれるならね」
「……甘い」
「君に対してはね」
山鳥毛はくすりと笑うと、鼻先を軽く触れ合わせた。
「それに、案外耐えるのは君より私かもしれない」
「え?」
「君は本丸で皆に囲まれて過ごせるだろう。だが私は、君の匂いも温度もない場所で一人だ」
低く囁かれる声に、胸がきゅっと締まる。
「夜、ふとした瞬間に思い出すだろうな。君がこうして私の胸に収まる重みも、甘える時の顔も」
「……っ」
「修行どころではなくなるかもしれない」
冗談めかして笑うのに、その赤い瞳はひどく熱っぽかった。
「だから鳩が飛んできたら、理性が持つ保証はない」
彼の額がこつりと触れる。
「……君は、私を随分弱くするよ。小鳥」
「強くなるのを止めたい訳じゃないの……。でも、……でもやっぱり少しの間も離れていたくない……」
大丈夫、四日くらい待てる。待てるけれど、寂しい。
「……うん」
山鳥毛は否定しなかった。それくらい我慢しなさい≠ニも、主なんだから≠ニも言わない。
ただ静かに受け止める。
抱き締める腕が少し強くなって、私は彼の胸へ完全に閉じ込められた。耳を寄せれば、ゆっくりした鼓動が聞こえる。
「離れていたくない、か」
噛み締めるように繰り返した声は、どこか嬉しそうだった。
「そんなふうに言われると、修行へ向かう足が鈍ってしまうな」
「……鈍ればいいのに」
「ふふ」
肩が小さく揺れる。笑っている。
でも、その手は優しい。背を撫でるたび、大丈夫だ≠ニ宥めるみたいに熱をくれる。
「小鳥」
「……なぁに」
「君はちゃんと待てるよ」
低い声が耳へ落ちる。
「私は知っている。君は寂しさに飲まれても、最後にはきちんと送り出そうとする子だ」
「……」
「だから今こうして弱音を吐いているんだろう?」
図星だった。
本当に駄目なら、きっともっと意地を張る。笑って送り出すふりをして、一人で耐えようとする。
けれど今は、山鳥毛が受け止めてくれるから。甘えてもいいと知っているから。
「……だって、今しか言えないもの」
「うん」
「修行行くって正式に決まったら、ちゃんと応援しなきゃって思うし……」
「健気だね」
唇がこめかみに触れる。ひどく静かな口づけだった。
「そんなに頑張らなくていい」
「でも」
「寂しい時は寂しいと言いなさい。会いたいなら会いたいと言えばいい」
山鳥毛はそう囁いて、私の指を一本ずつ絡め取る。
「私は君に、完璧な主≠ナいて欲しくて傍にいるわけじゃない」
「……」
「こうして甘えて、縋って、離れたくないと零してくれる君だから抱き締めたいんだ」
胸の奥がじわりと熱くなる。
山鳥毛は私の額へ額を寄せたまま、赤い瞳を細める。
「四日後、帰ってきた私へ真っ先に飛びついてくれるんだろう?」
「……たぶん」
「たぶん?」
「……絶対」
答えた瞬間、彼が満足そうに笑った。
「なら十分だ」
指先が頬を撫でる。
「君が待っていてくれるなら、どれほど長く感じる時間でも帰る場所を見失わない」
政府の正式発表はおそらく週末。修行解禁はちょうど一週間先の来週火曜からだろう。
「四日間我慢できるように、今日からしばらく甘やかしてくれる?それと四日間我慢できたら沢山褒めて欲しいし、我慢できなかった時は寂しかった分うんと甘やかして欲しい。あと、あと……帰ってきたら…山鳥毛が頑張ってきたご褒美に沢山……たくさん甘やかしてあげるね?」
山鳥毛は一瞬、目を丸くした。それから堪えきれないように低く笑う。
「……欲張りだな、君は」
そう言いながらも、その声はどこまでも甘かった。抱き寄せる腕は緩まないどころか、ますます強くなる。
「今日から甘やかして欲しい」
唇が額へ落ちる。
「四日耐えられたら褒めて欲しい」
次は瞼へ。
「耐えられなかったら、寂しかった分甘やかして欲しい」
頬へ。
「そして帰ってきた私を、沢山甘やかしてくれる……か」
最後だけ少し掠れた声で繰り返されて、胸が熱くなる。
山鳥毛は私を見つめたまま、ゆっくり目を細めた。
「そんなことを言われたら、修行へ行く前から帰りたくなってしまうな」
「だって……頑張ってくるんでしょう?」
「うん」
「なら、ご褒美は必要だもの」
彼はしばらく何も言わなかった。ただ赤い瞳だけが、ひどく静かに揺れる。
やがて大きな手が頬を包み、親指が唇の端をそっと撫でた。
「……小鳥」
「なぁに」
「君は本当に、私を駄目にするのが上手い」
低く落ちる声に、心臓が跳ねる。
「帰る場所が恋しくて仕方なくなる」
「……」
「早く帰れば小鳥が待っている≠ニ思ったまま修行へ行く刀の気持ちを考えたことはあるかい?」
耳元へ囁かれ、じわりと熱が広がる。
「甘やかされる未来をぶら下げられて、平静でいられるほど私は出来た男じゃない」
「ふふ……」
「笑っている場合かな。君、帰還した私に随分酷いことを約束しているんだよ」
酷いと言いながら、山鳥毛は明らかに嬉しそうだった。
指先が髪を梳き、そのまま後頭部を支える。逃がさないように。
「いいだろう」
鼻先が触れ合う距離で、彼はゆっくり笑った。
「修行の日まで、君が寂しくならないよう甘やかそう」
「……うん」
「四日待てたなら、蕩けるほど褒めてやる」
「……っ」
「そしてもし耐えきれず鳩を飛ばしたなら」
そこでわざと間を置く。
「帰還した瞬間、安心して泣けなくなるくらい可愛がってしまうかもしれない」
「ちょも……」
「さらにその後、頑張ったご褒美≠ワで待っているんだろう?」
山鳥毛はくつりと笑い、額を重ねた。
「……修行前の私に、随分甘い餌を与えてくれるじゃないか、小鳥」
「魅力的な餌じゃなきゃ……ご褒美にならないじゃない。……だって、私のためでしょう?」
今でも強い山鳥毛が修行に出てさらに高みを目指すのは、私に繋がる歴史を守るため。
その言葉に、山鳥毛はふっと目を細めた。
冗談めいた空気が少しだけ静まる。代わりに滲んだのは、ひどく柔らかい熱だった。
「……ああ」
低く返された声は、胸の奥へ深く沈む。
「君のためだ」
迷いなく言い切られて、喉が熱くなる。
山鳥毛の指先が頬をなぞる。まるで壊れ物を扱うみたいに丁寧に。
「君の生きる時代を守りたい」
「……」
「君が笑って、泣いて、こうして私へ触れてくれる未来を守りたい」
赤い瞳が真っ直ぐこちらを射抜く。
「だから私は強くなりたいと思う」
「ちょも……」
「だが困ったことに、その守りたいもの≠ェあまりにも愛おしい」
唇の端が苦く緩む。
「離れ難いんだ。君が」
そのまま額へ額が重ねられる。触れ合った場所から熱が落ちてくるみたいだった。
「歴史だの使命だの、大層な言葉はいくらでも並べられる」
「……うん」
「だが結局、私の根っこにあるのはもっと単純な欲だよ」
抱き締める腕にじわりと力が籠もる。
「君の傍へ帰りたい」
「……」
「帰ってきた時、真っ先に抱き締めたい」
「……っ」
「君がおかえり≠ニ笑う顔を見たい」
耳元へ落ちる声が熱い。深夜の火みたいに静かなのに、じわじわ身体の奥まで温度を変えていく。
「だから小鳥」
指先が顎を掬う。
「そんな顔でご褒美をあげる≠ネんて言われたら、私は随分頑張れてしまう」
至近距離で笑った山鳥毛の目は、ひどく甘かった。
「修行の間、どれほど長い時間を過ごそうと」
唇が触れそうな距離で囁かれる。
「帰還した先に君がいるなら、私は必ず帰ってくるよ」
[newpage]
「あ。」
山鳥毛の膝の上に座らされながら思い出したように顔をあげる。
「修行行く時、内番着置いていってくれる? 出来れば未洗濯で」
山鳥毛は数秒きょとんとした顔をしたあと、堪えきれず吹き出した。
「……っ、はは……!」
「な、何よ……!」
「いや、君は本当に……」
笑いながら額へ手を当てる。珍しく声を上げて笑っている。
「修行前にそんなお願いをされるとは思わなかった」
「だって寂しいんだもん……」
「しかも未洗濯で≠ゥ」
その部分をわざと繰り返され、顔が熱くなる。
「……だって匂い残ってるし」
「小鳥」
山鳥毛は笑いを滲ませたまま、じっとこちらを見た。赤い瞳が妙に熱っぽい。
「君、思った以上に重症だな?」
「うぅ……」
「修行前からそんな調子で、四日持つのかい?」
からかう声なのに、抱く腕はどこまでも優しい。逃げ場を塞ぐみたいに腰を支えられる。
「でも、そうだな……」
山鳥毛は少し考えるふりをして、それから低く笑った。
「内番着くらいなら置いていこう」
「ほんと!?」
「そんなに嬉しそうな顔をされると複雑だがね」
指先が頬をつつく。
「私本人ではなく服で満足されても困る」
「服で満足できるなら鳩飛ばさないかも」
「それは嘘だろう?」
即答だった。
「君は三日目くらいで匂いだけじゃ足りない≠ニ言い始める」
「……否定できない」
「ふふ」
山鳥毛は満足そうに笑い、私の耳の後ろを指先で撫でた。
「だが、未洗濯の内番着を抱えて眠る小鳥は随分可愛いだろうな」
「……っ」
「歌仙あたりに見つかったら、かなり気まずそうだ」
「やめて想像しないで……!」
思わず胸元へ顔を埋めると、山鳥毛は肩を揺らした。
「安心おし。ちゃんと君の部屋へ置いていく」
「……うん」
「袖でも抱いて眠るかい?」
「……するかも」
「なら、香くらい残るよう意識して着ておこうかな」
耳元でぼそりと囁かれ、また心臓が跳ねる。
「修行先で私が君を恋しがるのと同じように」
抱き締める腕がじわりと熱を増す。
「君にも、少しくらい私に溺れていてもらわないと釣り合わないだろう?」