私が人と少し違うと気が付いたのはいつからだっただろうか。
物心ついた時から、ほかの同年代の子から浮いていることは自覚していた。

周囲が公園で元気に走り回る中、ベンチに座って本を読んでいるような子供だった。
感情を露にし、泣いたり怒ったり喜んだりするのが普通であるにも関わらず、私はそういったことはほとんどなかったというのは両親から聞いた話。
良く言えば大人っぽい子、悪く言えば冷めた子だった。
それには理由が一応ある。
私には前世と言ったらいいのだろうか。
生まれる前の記憶があった。
とは言え、そこまで鮮明なものではない。
同じ日本で生まれ、特別なこともなかった普通の女の子。
漫画やゲームが好き。友達は多いとは言えなかったけど話したり出かけたりするのが好き。
どこにでもいるような子だったようだ。
私はその記憶を他人事のように振り返っている。
私であって、私ではない。
なんとも不思議な感覚である。
まぁ実際、今の自分とは異なるわけだから間違ってはいないのだろうけど。
こういった事情により、私は他の子に比べると精神の成長が早かった。
また、記憶があるお陰で勉強面も頭一つ飛びぬけていたのも拍車をかけていた。
確実に他の子どもとは違い、浮いていた。
こんな私を両親は気味悪がったり、邪険にしたりせず、愛情たっぷりかけて育ててくれた。
そのお陰で私は今の自分を受け入れることができている。

私に転機が訪れたのは、5歳の時。
その時我が家は暗い雰囲気が立ち込めていた。
半年程前、母親が流産をした。
妹となるべきだったその子―――生まれていたら春奈と名付けられていたはずの子を失った母の悲しみは大きく、長い間塞ぎ込んでいた。
私もさすがに悲しみに浸り、母を慰め続ける日々が続いていた。
このままではいけないと思ったのだろう。
両親は色々と私がいないところで話し合いを繰り返し、結果として養子をとることを決めた様だった。
少し私に申し訳なさそうに話す両親の顔を見ながら、精一杯の笑顔で返事したのが1ヵ月前。
そして今日、私の妹となる子がやってくる。
この1ヶ月間、私は今まで一度も妹になる子に会いに行ってはいない。
もちろん興味があったが、私がいることで両親が遠慮したり気を使ったりするのが嫌だった。
妹になる子は亡くなった子と同じ春奈という名前で、歳は私の1個下ということは決まった時に聞いている。
私と歳が近い子を選んだのは意外だったが、それに関して私から聞くことはなかった。
これは後から知ったことだが、当時の私はその大人びた性格故に友達がおらず、傍から見たら孤立していた。
そのことを心配した両親が敢えて歳が近い女の子を探していたらしい。

私は家で、珍しくそわそわとしながら家族が家に帰ってくるのを待っていた。
今日も私は迎えにいくことを選ばず、家で留守番することにしていた。
両親は不安そうにこちらを見ていたが、時間が迫っているというと渋々といったように出かけていった。
時計とにらめっこしながらその時を待っていると、外から車が止まったような音が聞こえた。
来た!
手持ち無沙汰に前髪を直し、姿勢を正して座る。
落ち着け、落ち着け…。
ドッ、ドッ、と今まで聞いたことのないほど心臓が大きな音を立てている。
玄関の鍵が開く音がし、ただいまという声と会話が聞こえてくる。
ゆっくりと深呼吸をし、入り口の方へ視線だけを向ける。
扉が開くと、そこには以前の笑顔を取り戻した母の姿があった。

「ただいま、ここが今日からあなたの家よ。
そしてあそこにいるのが話をしたお姉ちゃん。」

母に背中を押されて中に入ってきた女の子。
藍色の髪に、赤い眼鏡が特徴的な小さな女の子。
その姿を見た瞬間、私の推測は確信へと変わった。

「はじめまして!春奈といいます!」

緊張を滲ませながらも、元気に自己紹介する妹を見て私は頬を緩める。

「はじめまして、音無奏です。よろしくね。」

やはりこの世界は私が前世で好きだったイナズマイレブンの世界で……



あの音無春奈の姉なのだと。


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