世界で1人だけがわかればいい

「チームは解散だ。」

「解散って、どういうことだ…」

それは死刑宣告のようだった。

「…僕は真面目になるんだ。おふくろ……母さんをこれ以上、泣かせたくない。」

「あーぁ、お堅くなっちまって、勝手にしろ。」

不良チームなんて、やってることがいいことじゃねぇってのは当然、時代遅れって言われてんのもわかってる。それでも確かにあの時、あの人の隣が俺の居場所だった。唯一だった。あの人と違って、俺には胸張って家族だって誇れる様な奴はいねぇ。

「……お前ら、このチームにはもうカシラがいねぇ。俺みてぇに、他に居場所がねぇ奴は着いて来い。俺のもとが嫌なら、自分で居場所を見つけて掴み取れ。俺は出てくって自分で決めた奴は追わねぇし、俺を倒してぇって奴から逃げもしねぇ。」

俺には何にもない。あの人みたいに泣かせたくないって思える存在なんてねぇし、やりたいことは……あの人が望んでねぇなら叶わねぇ。居場所は与えられるのを待つだけじゃ出来ねぇってのは知ってる。けど、掴み取った居場所が居心地いいかはまた別の問題で、合わなきゃ結局手放しちまう。手放さなきゃいけなくなることだってある。

「俺が、お前らのドンになる。」

俺は、手放す事が出来ねぇで、ありもしない居場所に縋っちまった。
きっと、あの場に残ったのは、そんな奴らの集まりだった。

ドン。」

「んだよ。」

「俺、抜けます。」

「そうか。」

そう言って来たのは、あの日残った奴らのうちの1人だった。今じゃ数少ない初期メンバーのこいつは最近、緩んだ顔で女といるのをよく見かける。随分、優しい表情をするようになった。

「えっと…」

「…なんだよ。」

「いえ、あの、本当に世話になりました。」

「世話なんてしてねぇって。テメェが守りてぇもん自分で掴み取ったんだろ。」

「知って、たんすか。」

「知らねぇよ。お前なんか、知らねぇ。」

これから不良を止めるって奴に、俺みたいな奴との繋がりなんてない方がいい。まぁ、こんなの意味なんてねぇだろうけど…

「ぐすっ……ッんとに、せわにな"りまじだぁ!!」

「おいおい、ぐずぐずじゃねぇか。バカだな、これから誰かを守ってく覚悟を決めた男が泣くんじゃねぇよ。」

濁音混じりの返事の後に鼻を啜る音。必死に泣き止もうとする姿に、思うことがないわけじゃないが、出ていくと決めたんなら俺からはもう、何もいらねぇだろう。
暫くして泣き止んだ男は、ピンと背筋を伸ばした後に頭を下げた。

「デュースさんが辞めて、本当はドンがこのチームにいる意味がねぇって思ってんのは知ってます。でも、名前を変えてこのチームを残してくれたおかげで、居場所を失わずに済んだ奴が、俺を含めて大勢いる。感謝してもしたりねぇ!!」

「…ったく、恥ずかしい奴だな。そんなご大層な奴じゃねぇよ、俺は。」

ただ過去に縋ってるだけの、この世で1番カッコわりぃ男だ。

何年も経てば、次第に他にも居場所を見つけた奴は抜けていって、あぶれた奴が入ってを繰り返すようになった。そしていつしか、俺は裏社会にどっぷり浸かり込んでいった。殺しはしてねぇ。けどそれ以外ならなんでもやった。きっと間接的にであれば人殺しと呼ばれたって否定出来ねぇくらい、酷いもんだ。もうかつての面影は残っちゃいない。俺に感謝なんてしてた奴も、今の俺を見れば幻滅するだろう。

ああ、酷い人生だったよ。

「おいおい、警察官様が何やってんだよ。んだよ、そのザマは!」

今、俺の前にはカシラだったあの人が立っていた。俺達は、犯罪者と警察官として対峙していた。傷をつけることへの躊躇なんてなくした犯罪者の俺と、極力傷つけずに捕まえる術を学んだ警察官のあの人とでは、溝が出来ていた。あの人はズタボロ。対して俺はほぼ無傷だ。

「う、っせぇよ。なんで、お前がこんなこと…」

「あ?俺を知った様な口聞いてんじゃねぇよ。テメェなんか知らねぇんだよ。」

「お前は、いや、俺たちは!!……ワルではあった。後ろ暗い事をした事がないとは言えない。売られた喧嘩は全部買ったし、マジカルホイールで峠を攻めた。いい事じゃないけど、それでもクスリを売ったり、女を殴るような奴じゃなかっただろ!?」

あーぁ、せっかく知らねぇフリしてやったってのに、アンタはいっつも真っ直ぐ前を見てる。警察官のアンタにとって、ヤンチャしてた過去とか俺みたいな犯罪者との繋がりは隠したい事の筈なのに、後先なんか考えねぇで、馬鹿みたいに上ばっか目指してる。

「愛してくれる相手がいる奴に、わかるもんか。俺のことなんて、俺だけがわかればいい。」

「ジェーン、お前……」

最後に、アンタに捕まりたかったんだ。
このクソッタレな世界で、1番カッケェ男に俺は…

たぶん俺は愛してた。

しっぺ返し ベット・ザ・リミット!!」

ハッ、上限全賭けなんてアンタらしい…

「んとに、カッケェ男だよ、アンタは…」

重力に従って膝から崩れ落ちる。ああ、地面に倒れるなんて、いつぶりだ?

「ジェーン!……おい、ジェーン!!」

ハハッ、思い返してみりゃ最初にアンタに負けた時じゃねぇか?
最初から最後まで、この人に負けるってんなら、気分が良い。
俺の死んでた人生を生き返らせたアンタに倒されるってんなら、ブタ箱行きでも悪くねぇ。名前も沢山呼んでくれる。知ってるか、みんな俺のことドンって呼ぶから、この世界に俺の本当の名前呼んでくれんの、アンタだけなんだぜ。

そういや…

「デュース。」

俺はそんなに、呼んだことなかったなァ…




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