それは私の光であった
「レオナ様」
私がそう呼ぶと、彼は微かに口角を上げた。
自惚れだろうが、彼が私に向ける表情は何故か、ほかの従者が声をかける時よりほんの少しだけ緩んで見えた。けれど年相応というには、些か大人びた表情であった。
夕焼けの国の第二王子。それが彼の肩書きだ。そして、私は彼の専属のメイドだ。本当なら私は王族専属の従者など出来る身分ではないのだが、いつの間にやら私は彼の身の回りのほぼ全てをお手伝いすることになっていた。不満はない。寧ろ感謝こそしている。彼の専属は私だけであったから、面倒な人間関係を考える必要もなかった。
最初はそう、仕事だから。それくらいに考えていた。私は、誰かに対して情を抱く事が殆どなかった。故に表情も凝り固まり、周りからは悪く思われてはいなくとも、決して良く思われる事もなかっただろう。だから彼の専属になれたのかもしれない。
彼は恐れられていた。ユニーク魔法が大地を枯らす力だったからだ。機嫌を損ねれば砂にされると考えているらしい。そんな事を彼がする筈もないのに。
「レオナ様」
そう呼びかけると、彼の双眸がこちらを真っ直ぐに見る。努力家で優しい彼をそのまま表したような碧眼がよく似合っていた。表情を動かさない私にそんな眼を向けてくれたのは、彼が初めてだった。気がつけば彼は、私の光になっていた。
ある日、彼を狙った暗殺者に私は刺された。彼の腕を思い切り引く。火事場の馬鹿力か、思いのほか力がこもってしまったが、そんな事を考えている余裕はない。彼の命を奪おうとしたコイツをどうにかしなければ。とはいえ、ただのメイドが武器を携帯している筈もないので、私は自分の腹に刺さったナイフを引き抜いて暗殺者に突き刺した。
暗殺者の男は酷い声をあげて息絶えた。同時に、私の身体も傾いていった。ああ、終わる。終わってしまうのだ。未練などなかった筈なのに、この人を残してしまう事がこんなにも苦しい。いや、私がこの人と会えない事が恨めしいのだ、本当は。残してしまうだなんて、私はそんなに大した存在ではないのに…
たかがメイドに、必死に声をかけて下さる彼が、優しい彼が、どうして周りに理解されないのか…
どうして、彼はあんなにも大人びた目をしなくてはならなかったのか。
どうして、笑わないのか。笑えなくなってしまったのか。
「レ、オナさま……私は、幸せをみつけました。あなたさまもきっと、いつか……心から、笑える日が来ます。かならず…」
それは独りよがりな言い分で、余計に彼を苦しめる事かもしれない。けれど、これだけは伝えたかった。感謝したかった。
「だって、あなたさまは…」
本当は…
「あなたさまは、わたしのひかり、ですから…」
もっと、愛していたかった。
身の程知らずにも程がある。けれど、私は彼を愛していた。愛している。それが、恋なのか家族の様な親しみかは終ぞわからない。
けれど確かに私は、光に向かって初めて笑えた様な気がした。