王にならずとも良い呪い
レオナとファレナが異母兄弟の世界線で、レオナの母とレオナの話。
母としての言葉より、王族としての言葉の方が柔らかい不器用な母親であったらいい
なお、息子のことは溺愛している
「おまえは、王にならずとも良いのよ」
その言葉は優しい願いだった。
それが呪いに転じたのは、いつからだったろうか。
クソ兄貴が王になった時か、うるさい甥が生まれた時か…
俺が、諦めた時か。
「……ナさん、レオナさん!」
「あ?」
「あ?じゃないッスよ。次、必修の魔法史ッスよ。トレインは遅刻にはうるさいんスから、早く行かないと。俺、嫌ッスよレオナさんと同学年になるの。」
「…ハッ、今更サボった所で変わるかよ。」
「いや、サボらないで欲しいッス。大体、留年すれば学費だってその分増えるんスよ。」
「クロウリーに渡ってるってのは癪だが、別に大した額じゃねぇよ。」
「はぁ、これだから王族は……ホント、あの人くらいッスね、庶民の感覚がわかるのは。」
「あの人?」
「王太后様ッスよ。レオナさんのお母上の。」
「母上だと?ラギーお前、どこで母上に会うって言うんだ。あの人は王宮から殆どでねぇだろう。」
母上は庶民の感覚がわかるっていうより、財政を管理していた知識によるものが大きいだろう。
「え、スラム街で何度か会ってるんスけど…」
「は?」
いや、まさかあの人、王宮を度々抜け出していたから庶民の感覚を知っているのか?
「まさかあの人、やっぱり誰にも知らせずに来てるんスか!?道理で護衛も御付きの人もいないわけッスね…」
「はぁ!?護衛がいねぇだと?」
「本人が、お忍びだからすぐに駆けつけられる程度の少し離れた位置にいるって言ってたんスけど、近くにはいなかったッスね。」
「何やってんだ、あの人は…」
護衛もつけず、ましてや治安の悪いスラム街に足を運んでいい人ではないんだが…
「って、あーもうその話は後ッス。とにかく、授業受けて下さいね、レオナさん。俺もういくんで。」
「チッ、いきゃ良いんだろ。」
王太后。俺の母上。前王の妃。だが、現王のオニイサマとは血のつながりがない。あの人は元々、前王の2番目の妃だからだ。
「レオナ、おまえは王になりたいの?なら、お好きになさい。おまえが思い描く王の道を歩んでみなさい。わたくしは、それを否定しません。」
王になれない俺を認めてくれたただ1人の人。叶わない願いと知りながら、それを教えてはくれなかった人。叶わぬ夢を肯定する、残酷なひと。
「レオナ・キングスカラー」
「ハッ、アンタが来るとはな。」
「しっかりなさい!おまえは王になるのではなかったの?おまえの思い描く王とは、民を悪戯に傷つけて、自ら破滅に向かう愚王なのですか?」
「アンタは、現実が見えちゃいない!俺は、永遠に王にはなれねぇんだ!!」
「……現実が見えていないのはどちらかしら。おまえは、おまえ自身のプライドもあっただろうけれど、ここの民の将来を思って今回ことを起こしたのではなくて?」
「おまえは、もう王になっているわ。」
「けれど、今のおまえは王ではない。民の命を自らの手で削り、前を見る事をやめたおまえは、本当になりたかった自分の姿なのかしら。」
「アンタに、何が…」
「2番目なのは、わたくしも同じよ。わたくしは元第2王妃、正室ではないわ。おまえにも、わたくしの所為で迷惑をかけたと思っている。」
ハッとした。まさか、背筋をピンと伸ばし、胸を張って堂々と歩くあの王太后が、俺と同じく2番目であることを気にしていた?
いや、今まさに気にしているなど、誰が思う。
「けれど、おまえを産んだことを後悔した日は存在しないわ。おまえの夢が叶わぬことだと諦めた日もない。後悔する必要も、諦める必要もないのよ。おまえは、良き王になるわ。他の誰がなんと言おうとも、わたくしは信じているもの。おまえが努力する姿を、誰よりも見てきたわたくしが言うのよ。今度はおまえの母親としてではなく、一国に寄り添うものとして、国に携わってきたものとして言うわ。」
「な、にを…」
「あなたが思い描く王の道を歩んでみなさい。その道の先で、あなたは王になるわ。」
「ふん、どこぞの妖精がわたくしの息子に言ったこと、今回は状況も鑑みて不問と致しますわ。国際問題に発展しなかった祝いとでもしましょう。」
「いや、先にマレウスを傷つけようとしたのはその息子なんじゃが……お主、相変わらず親バカじゃの…」
「リリア・ヴァンルージュ、アナタには言われたくないわ。」
「くふふ、ワシも丸くなったということかの。」
「ええ、随分可愛らしくなったんじゃないかしら。」
「え、ワシ可愛い?」
「可愛いわ。歳の割に。」
「お主は老けたか。年相応に。」
「うふふ。」
「くふふ。」
「な、なんスかあの空間。」
「なんか、ヤベー。」
「親子って…」