幼い声ばかりが残る
声から忘れていくという話を監督生から聞いたラギーと、忘れられない声と交わした約束の話。

じゃあ、約束な。

そんな声がして、ラギーは飛び起きた。
忘れた事のない声。約束なんて言って背を向けた彼が夢に出てくるのは、珍しい事じゃない。

けれど、今回の夢はいつもとどこか違っていた気がする。
監督生から聞いた話が、頭に残っているせいだろうか。

「声から忘れていくなんて、どうも信じらんねッス…」

異世界から来た監督生はこんな話をしていた。人間は声から忘れていくらしい。

しかし、ラギーはあの声をよく覚えていた。成長しきっていない未熟で少し高い声。時に柔らかく、鋭く、楽しそうに弾む感情豊かな声だった。むしろラギーは、声ばかりを覚えていた。

楽しそうに弾む声、自慢げに張った声、嬉しそうに緩む声、そして泣き出しそうに歪んだ声。
己が獣人だからだろうか。声ばかりが残っていて、記憶から消えていくのはむしろ表情の方だった。夢でさえ靄がかかったように彼の顔を隠してしまうのだ。

「いっそのこと忘れたらって思っちゃうッスけど、アンタ俺が忘れたなんて言ったら、本当にいなくなりそうで……それは嫌なんスけどね…」

顔を忘れたわけじゃない。けど、どんなふうに笑っていたのか、思い出せない。声なんて覚えていたところで、成長と共に変わってしまえば、もう彼を示すものは無くなってしまう。
思えば、彼の顔を見ることは少なかった。あの頃は、隣にいるのが当たり前で、見なくたって彼が側に居た。当たり前が簡単になくなるのは知っていたけど、わかってはいなかった。

「あーあ、約束なんて…」

するんじゃなかったなんて、言える筈もなかった。あの頃のオレにはアイツが何よりも大切だった。今だって、多分それは変わっていない。

「じゃあ、約束な。俺はお前にまた会いにいく。」

ウソつき。なんて、騙される方が悪いって、わかってるんスけどね…





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