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そんなある日のこと、 デッドロックが謎の配列をターモイルにみせてきた。 配列の書かれ方を一目みただけでターモイルはそれが何を意味しているのかわかった。
「住所だ」
「住所?」
心底わからないと首をかしげるデッドロックに思わず排気が零れた。 戦時中生まれならまだしも、 デッドロックが生まれたころはまだ有用なものであったはずだ。 そんなこともしらないのかと思えば、 ターモイルの言おうとしたことはデッドロックに伝わってしまったらしく、 むっと口を引き結んだ。
「その建物がどこにあるのかの場所を示したものだ。 今は座標が主流だが、 一昔前まではそれが通常つかわれていた。 いまよりもまともな建物があった時代には有用だったからな」
「……… へえ」
「それがどうした」
「なんでもねーよ」
「何かあるのか」
「うるせーななんもねーよ!」
デッドロックはそういいはしたが、 なんらかの事情があることは一目瞭然であった。 それ以来、 デッドロックは酷い顔色で帰ってくることが増えた。 ターモイルが漠然と恐れていたあの虚空を見つめることが増え、 それでもその心に何を抱いているのかは決して話すことはなかった。 そんな虚空見つめていたときのデッドロックは、 荒れくれ、 ディセプティコン内でも特異的な存在として恐れられ、 距離をあけられ、 次第に孤立していった。 そのことさえもデッドロックが望んでいるのではないかと、 ターモイルは感じていた。 しかし、 己はデッドロックに踏み込む事を許されていないということは明確な事実であり、 変えようのないことであった。 デッドロックが何かに心を奪われていること、 痛めていること、 痛みをどうにもできずにただもてあそんでいることの理解はできてはいたが、 その心には触れられない。
ディセプティコンの敗北はターモイルにとってにわかにも信じられないことであった。 己の育て上げた者達は一度足りとて敗北を喫してはいないのに、 ただ戦争は終結したのだと告げられターモイルは反逆者と成った。
わかりきっていたことだが、 反逆者になったディセプティコンの対応は酷い物であった。 オートボットの犬であるかのような扱いを受け、 虐げられた。 それはまさしく労働階級者であった自分たちへの戦前の扱いと同じであった。 そのことを変えたいがために起こした戦争はいつしか目的を喪っていたのだといまさらながら気づかされたのである。
本質的なものは戦争が起こる前も後も変わっていないのだと思い知らされ、 言いようもない憤りを覚える者達とは裏腹にデッドロックは落ち着き払ってただ、 その結果のみを淡々と受け入れていたようだった。
「デッドロック」
「……… あー?」
「お前はあやつらとは違って随分冷静だな」
「まあ負けたらこうなることくらい前からわかってたし。 あの騒いでるやつらはそんなことも知らなかったんかなーって思ってさ」
デッドロックの答えは間違っていなかった。
「ターモイルだってなんか落着いてっからよ」
「終結した以上、 余計な諍いを起こして部下を喪いたくないからな」
「余計な諍い……… ねえ……」
事実を拒否することは全くもって無駄であると、 ターモイルは排気を吐いた。 果して、 この中の何人が自分はまるでわるくないと訴えて出るのかわからなかったが、 とにかく今は現状の把握と部下の抑制が第一の取り組むべき問題であるというのは理解していた。
「お前はこの後どうする」
「ディセプティコンだからそこらへんで生きていくしかないだろ」
「寝返りはしないのか」
「寝返る? この俺が? ターモイル、 俺をなめてんのか?」
デッドロックは愚かな提案だと言いたそうに笑い、 ターモイルを見やって言った。
「そこまで俺は落ちてねえ」
「結局お前は修羅の道を行くんだな」
「自分の殺した相手に責任ももてないならそこでふるえてりゃよかったんだよ。 それに俺は殺しすぎてるから、 どうがんばっても温情は受けられないだろうな」
冗談か本気かわからない口調で、 デッドロックは言った。
「俺に罪でも全部かぶせれば?」
「お前こそ見くびるな」
デッドロックの頭をかつんと叩き、 ターモイルはデッドロックから視線を反らした。
「俺はターモイルが死ぬのはみたくない」
「何故死ぬことになる」
「ここの奴らが殺すって話してた」
ターモイルとてそこまで愚かではない。 部下たちの暴力的なまでのやるせなさは恐らく自分に向かってくるであろうとはわかってはいた。 いくらでも相手してやろうと、 ターモイルは笑う。
「デッドロック、 心配してるつもりか?」
「つもりじゃねえよ」
「らしくもないことはしなくていい」
ディセプティコンの憤りは、 日に日にましていき破壊のみを生業としてきたにも関わらず、 破壊を禁止され奔放にやってきたことさえもオートボットに禁じられ既に限界に程近いことは理解していた。
まだ終わっていない、 オートボットとやりあおうと幾度となく言われたがターモイルは決してうなずかなかった。 余計な死者を出すことは避けて通りたかったし、 そんなことをしようものなら今後どのような温情も受けることができないと判断したからであった。 そうして自制を促し続けていれば、 そのうちにターモイル自身もオートボットに鞍替えしたとささやかれるようになっていた。
だがそれでも、 ターモイルはオートボットを奇襲することを許可しなかった。 いずれどこかで、 誰かが再び挙兵する、 その時までまて…。
「ターモイル」
デッドロックがそういい、 あきれたように言葉を続けた。
「そろそろなんらかしないと、 あいつら手当たり次第におっぱじめるぞ」
「お前もそこに加担したいのか」
「だから、 戦争は終わったっていってんだろ。 でもなんかしないとこのままじゃ」
「めったなことはかんがえるな」
「なんだそれ」
デッドロックの言葉がなぜか、 引っかかる。
「余計なことはするな」
「俺はいつだって余計なことなんてしてねえけど」
「なんらかをしかねん」
デッドロックはどことなく考えこみ、 いまだに納得のいかない表情ではあったが頷いた。
「わかったよ」
本当に理解しているのかどうかはまったくもってわからないが、 伝えるべきことは伝えたとターモイルは排気した。
その翌日、 デッドロックは姿を消した。
デッドロックの逃亡は目的を喪っていた烏合の衆の目的となり、 ターモイルの下へ集結したのだった。 一つ排気を吐いて、 ターモイルは言った。
「デッドロックを捕らえろ」
貮章 完
鳳櫻月雨