空いた背に手をおいてふと考える。 自身の刀はどこへやってしまっただろうか。

「…… こまったな」

ウィングは、 首をかしげた。 丸腰のまま歩き回ることがどれ程危険かは承知していたし、 そんなことは出来やしない。

「こんなことを聞いてもわからないかもしれないけれど、 俺の刀をしらないかな?」
「此れを渡してくれと頼まれました」

差し出されたそれはウィングの探していた刀ではないが、 一目みただけで誰のものであるかの判別はすぐについた。 その刀は紛うことなきデッドロックのものであった。
デッドロックに渡した刀が今ここにあるということは、 デッドロックはウィングがここに居ることを少なからず知っているということだ。
デッドロックは生きている可能性がある。 と、 ふうと排気を吐いた。それと同時に夢でみたあの映像が脳裏に浮かんでくる。 いったいどこで何をしているのだろうか。

「ありがとう、 もういくよ」
「ええ。 気をつけて」
「とめたりしないんだね」
「あなたのような種類の者は医師の言うことなどきかないでしょう?」

苦笑して再び礼を言い、外へと一歩歩み出たウィングはその光景に目を見張った。 あの美しい星はいまや跡形もなく変わり果て、 荒廃し、 不毛の地へと変化していた。 その悲惨な有様に、 戦争がもたらした結果を悟った。 これでは、 どちらが勝とうと負けようとなんらかわりがない。
その有様に些かの覚悟は決めていたが、 実際に視てしまうと、 やはり同様は隠しきれなかった。 瓦礫の山と化した美しかったはずのその場所に、 ウィングは一つ排気を吐く。

「… 皆は無事だろうか」

何があったのかなどを知るすべはないが、 ウィングにとって目の間に広がる光景はその慣れの果てである。 だが、 ここが侵略された当時、 最弱であった自身が生きていると言うことは、 同時に一つの可能性をもウィングにもたらす。

皆はどこかで生きているであろうということであった。

あまりにも変わってしまった故郷の町を歩きまわり、 もうどうしようもないとウィングが変形しようとしたとき何かを見つけた。
それは、 ウィングの探している刀ではあるがウィングのものではなかった。 その刀を手に取り刀身に額を押し当てて目を瞑る。
古典的極まりない方法ではある。 それもそうだろう、 刀が最後に見た景色を悟ろうなんて、 めったにやることではないし、 本当に正しいのかどうかもわからない。 だが、 恨みを吸った刀は、 もち手の心さえも変えるといわれている。
だが、 なんの邪悪さもかんじないことにウィングは首を傾げた。 つまり、 この刀は私怨に駆られて誰かをあやめていないらしい。 そのことに、 また一つ排気した。

「…… 探すしかないか…」

目覚めてすぐに旅をさせるなんてあまりにも酷ではないだろうかとウィングは笑みをこぼすが、 そもそもダイアトラスは甘えることを許さないそんな性格であったと、 傍らの刀を抱いて変形した。

ディセプティコンとオートボットの争いは終結していたが、混迷を極めたままであった。 ウィングの脳裏にある美しい母なる星の姿は消え果て、 不毛なマンガンの山ばかりが眼前に広がる。
あのアイアコンがこんな風になるなどと、 だれが想像しただろうか。 こんなことをしたいがために、 あの戦争が起こされたとはにわかに信じがたかった。

「でも以前よりは大分マシになったんだぜ?」

目の前の赤い色のオートボットは苦笑いをしながら、 そう答えた。 ウィングが何か言葉をかえすよりもさきに、 そのオートボットは言葉をつづけた。

「昔はこのへんに死体ばかりがごろごろころがってた。 生きてるやつは俺だけで、 ほかのやつらはみんな死んでるか死にかけ。 今でこそ、 そんな風に死体の山に囲まれていることなんてなくなったけど、 あの時はどこに行っても死体ばかりで、 にっちもさっちもいかなかった。 死んだ機体から、 食いもんかすめとったりな」

その赤いオートボットの言葉に、ウィングはドリフトのことを思い浮かべた。 以前ドリフトもそんなことをしていたことを思い出したからだ。 弔った墓を荒らし、 食物を得るために必死だったドリフトはそれでも命に満ちていたと思った。 あの子の行方もまだ俺はしらないと、 ウィングは静かに排気を吐いた。

「あんたはみたところ、 オートボットでもディセプティコンでもねえな?Nailsとも一緒とは思えないし、 何者だ?」
「俺が何者かはどうでもいいんじゃないのかな?」
「どうでもいい… ねえ…」

ウィングの言葉に赤色のオートボットは何か意味深くつぶやいた。

「確認のほう、 終わりました」

緑のオートボットが、 至極残念そうにウィングに言った。

「この地区の死者にあなたの同様の質の者はいません」
「力になれなくてすまねえな」

安堵と同時に訪れる気持ちにウィングは一つ排気した。

「こちらこそありがとう」
「みつかるといいな」
「みつかってほしくない気持ちもあるけれどね」

ウィングは変形し、 即座にその場を立ち去った。 もうこの星に探し人ははだれもいないと、 無意識にそうおもい感じ取った。 ドリフトの遺体もみつからなければ、 デッドロックの遺体もダイアトラスの遺体もみつからない。
変形して降り立った丘からは夕日が見えた。 燃えるように赤い夕日が、 体循環油のようにウィングの機体を染めていく。 するりとデッドロックの刀を抜き取り、 額を当てる。 その刀身からは恨みや怨嗟は伝わってこなかった。 その刀身はまったくもって純然とその高潔さを保っていた。 自嘲気味に笑ってウィングは言った。

「いまどこにいるんだい?」





燦章 完
鳳櫻月雨