「わっ!」
「随分ほうけてるな」
「っと、アックス、本当に危ない」

どうにか空で向きを変えることができたため、地面への激突は免れたがいまだに驚いている。アックスがいくら音を消してきたからとはいえそう簡単に後ろを取られるようでは戦場では生きていけない。

「何しに来たんだ?」
「話でもしようかとな」
「話?なんの」
「俺達のところに顔をみせにこない理由だ」

その話はあんまりしたくないと思いながら、ドリフトは複雑そうに顔を歪ませた。

「だって立場がないから」
「他に理由は」
「あるとおもってるのか?ないよ。そんなことより俺も話したいことがある。なにがあったんだ?この星に流れ着いてくるまでに」

その言葉に、アックスが遠くを見た。

「どっちの陣営かはわからなかったが、襲われたんだ。当然戦う案もではした。だが、俺達がどちらかに加担するようなことは出来ない。お前たちがいたしそれに… 俺達は戦はしない」
「それで追われたのか」
「戦わないと決めたからな」

ドリフトの複雑そうな顔をみてアックスが困ったように笑んだ。短く排気してドリフトは言った。

「それってあまりにも生きにくくないか?」
「だが誰も喪ってはいない」
「そうかもしれないけど」
「お前とデッドロックが居れば戦ったかもしれないがあいにく俺達は戦う理由がなかった」

アックスの言った言葉の真意を測りかねて一つ首をかしげたドリフトが、にやと笑ったアックスの口元にむすっとしながら言った。

「俺はもう子供じゃない」
「そうだといいが、誰かに気兼ねしているようじゃまだまだ若いな」
「ああもう、わかったよ、会いに行けばいいんだろ」
「何言ってんだ今いくんだよ」

戸惑うドリフトなどお構いなしに、アックスは抱え上げた。

「わー!おろしてくれ!」
「肩車もしてやったろ」
「いつの話!?」

一通り暴れるもさすがはアックス、降ろすことも離すこともしなかった。

「あれでも心配してたんだぞ」
「…… うん」

しばらく担がれればそのうち慣れてくる。 ぼんやりと脱力しながらアックスの声を聞いていれば、そのうちに雲が張り出した。

「雨でも降るのか今日?」
「…… 珍しいな」

そのまましばらく行けば、アックスが突如ドリフトを降ろした。 足元がおぼつかないとふらふらしながら、ドリフトが前を見ればそこに居たのは今一番会いたくないダイアトラスが立っていた。

「…あー…」
「言うことはないのか」

ちらりと隣に立つアックスを盗み見ても助けは得られそうになかった。しかたなしに、多分これだろうと思う言葉を口にする。

「…えっと、ただいま」

間違えたかもしれないと、にやけ笑うアックスにドリフトが人知れず排気した。というより、何故自分がこんなに気まずい思いをしなければならないのだとこの原因はどこにあるのかとぐるぐると思考を回したときだった。

「よく戻ったドリフト」

たっぷり時間をかけてダイアトラスがそう言った。その声も、雰囲気も前となんら変わらないような気がしてドリフトは伏せがちだった視線を上げた。 すると心底困っていると言いたげにダイアトラスは言った。

「ロディマスをどうにかしろ。連日連夜飲み歩いていて五月蝿い」
「えん、ぜつはどうでも、いいの?」
「どうでもいい」

いかにもダイアトラスらしい言葉に、苦笑気味だった笑みが笑いに変わる。ダイアトラスはやはり少しずれているのだ。 ダイアトラスの織り成す言葉は実に的を得ていたが、少し言ったくらいでロディマスは止まらない。

「それは無理な相談だなあ」

久々に話した会話は暖かい。そういえば、今まで伝え忘れていたとドリフトがダイアトラスに言う。

「ウィングの目が覚めたよ」
「そうか」
「呼びにいかないの?」
「あれよりデッドロックはどうした」

ウィングの扱いは随分雑な扱いだなと思いながら、ドリフトはデッドロックの事を考えていた。一体どこにいるのかも検討が付かないし、最近はなにも感じることがなくなっていた。以前はなんとなく感じていた存在の繋がりも薄れていた。

「生きてはいるとおもう。あと、ウィングの病院に顔はだしてたみたいだった」
「アイツが連れてくりゃいいけどな」

アックスが言葉を発したのを終わりとするようにダイアトラスが空を見上げた。 雲はいつの間にか黒い色に変わり、雨をたたえていた。

「雨がふったら外には出るな。ここの雨は砂鉄を大量に含んでいる」
「砂鉄くらいなんでもないけど」
「お前ではない。治療が終わっていないものは内部からさび付くぞ」
「今すぐ戻らないと」

ドリフトは即座に変形した。

「また来る!」

ちらりと振り向けば、ダイアトラスもアックスも立ち去るようだった。 猛烈に飛ばせば、雨がふるよりも先に、ロストライト号に戻ることが出来た。即座に医療室の扉を叩き開ける。

「ここの雨は砂鉄が大量だって!」
「…… 騒ぐな、響く」

ラチェットの状態はますます悪くなっていた。それに驚きながら、何故ここにいるのかとドリフトは不満を表しながら言った。

「寝てろってば」
「どこにも異常がないのにどうしろと?」
「ほんとに検査した?それ大丈夫?」
「お前の口を閉ざすにはどうしたらいい?」
「寝れば静かにする」

ラチェットはふらふらとようやく自室に戻っていった。それを若干の怒りを含んだ視線で見送れば感心したようにファストエイドが軽く拍手を送ってくる。

「僕たちがあれほど行ってもだめだったのにさすがはドリフトですね」
「ラチェット、本当に大丈夫なのか?あんなところみたことない」
「本当に異常がないのでどうしようもないんです。ウィルスでもなく錆びでもなく…、そういえば、砂鉄の雨が降ると言ってましたね。なら錆び止めを用意しなければ」

外にいるものも連絡をつけ、ほとんどの者たちが中に戻ってきたころに雨は振り出した。最初こそ申し訳程度に降っていた雨は夜が更けていくにつれてどんどん振り出し次第に嵐のように雷と風が吹き出した。そういえばロストライト号の錆び止めは完全に済んでいただろうかと考えて止めた。塗っていなかったときの事を考えると末恐ろしいからだ。廊下、部屋の取締りはウルトラマグナスに任せて、ドリフトはラチェットの部屋へと向かう。正直、ラチェットが寝込むことなど初めてで、本当にちゃんと寝ているかの確認をしたかったからだ。

「居る?」

薄暗い部屋を覗き込めば、ラチェットは起き上がって窓の外をしきりに眺めていた。

「…… ラチェット?」
「ドリフト、来るな」
「ラチェット」

薄暗い中にぼんやりとたたずむラチェットが、苦しげに言う。それを訝しく思った瞬間にがしゃと大きな音を立てて稲妻が落ちた。稲妻に照らされて、露になったラチェットにドリフトがびくりと固まった。

「あ…、ら、ちぇっと、」
「くるな、おまえが、どうにかできる、もんだいじゃない」
「まって、ねえ」

突如ラチェットが、窓に銃弾を打ち込んだ。突風と雨粒が室内に入り込んで、ドリフトの視界を奪ってしまう。

「ラチェット!!」

次に見たときにはラチェットの姿はなく、降りしきる雨にドリフトの声は掻き消されてしまった。あわてて割れた窓から外を覗き込めば、影が一つ後部扉のほうへ回った気がした。まだ間に合うと、ドリフトは部屋を飛び出した。

「ドリフト、そんなにぬれてどうした!?」

すれ違った際のロディマスの声を気に留めず、ロストライト号の後部扉をこじ開けたが、激しい雨によって何もわからなかった。強まった雨が、地面に残った痕跡すら消し去っていた。

「ドリフト!」

泥を跳ねさせながらロディマスが、ドリフトの肩をつかんだ。

「ドリフト何があったんだよ」
「ラチェットが居なくなった」
「は?なんで」
「わからない探さなければ」

今すぐにでも走り出しそうなドリフトの肩を抑えたまま、ロディマスは長く排気した。

「ラチェットだけじゃないかもしんないぜ」
「…… え?」
「テイルゲイトもさっき飛び出してった。サイクロナスがとめようとしたけど、それを上回る速さで走り去ったってさ。当然サイクロナスも追いかけたけど振り切られたって。でもおかしくないか?テイルゲイトが、サイクロナスを振り切れるなんてそんなの」

ようやく遠くを見つめっぱなしのドリフトが、ロディマスに視線を移した。視覚器がまともにロディマスを捕らえているのを見て、一つロディマスは頷いた。

「ようやく戻ってきたな。なんにしたって原因の特定もまだなんだ。とりあえず中に戻るぞ」




あとがきとか長い説明文
鳳櫻月雨