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騒がしい。 あまりにも騒がしすぎる。そしてなんとなく、 顔に光があたる。

「…あ?」
「ん、 おきた?」
「…… ドリフト?」
「おはよう」

天井の色は、 治療室のそれと同等であった。 なぜ寝ているのかと考えてから気がつき深く排気を吐いた。

「びびった」
「だろうね」
「お前は」
「怖かったよ」

ドリフトの方が先に目覚めたということは、 それだけ軽かったのかとデッドロックは起き上がるもドリフトのべこべこに凹んだ装甲をみて思う。

半殺しにされたのが自分だけではないらしい。

「… 刀あげないほうがよかったね」
「なんで」
「まさかあそこで切りかかっていくとは思ってなかったから」
「そのための刀だろうがよ」

起き上がって大きく伸びをする。
己の装甲の至るところが凹んではいるが、 あれだけ地面に叩きつけられたとしたらそれは仕方がないことなのではないかと思う。

「医者様は?」
「先生は、 ダイアトラス様に抗議しに行った。 あまりに酷すぎるって」
「ウィングが一瞬みえたからな、 俺」
「空がずいぶん青かったからそう感じたね」

ドリフトが、 たちあがって歩き出せば、 その骨組みだけの足があらわになる。
痛々しさに思わずしかめっ面になった。

「今日はなにされたんだよ」
「自分の刀奪われて足に突き刺されるっていう滅多にない経験をした。 デッドロックは?」
「腕だな。 なんかいってたけど痛くて全然覚えてない」

デッドロックもまた、 骨組みだけの腕をぷらぷらと見せ付ける。

なにもなくなった腕に通る風が冷たくて心地が悪い。
ドリフトが、 なんだか悲痛そうな面持ちをしているのをみて、 自分がドリフトにしたしかめっ面に対する反応となんだか似ていると笑みをこぼした。

「腹減ったな」
「みんなもう食べてるんじゃないか?」
「外がさわがしいからそうかもな」

ドリフトのゆっくりとした歩みに付き添いながら、 デッドロックは骨組みだけの腕をじっと見つめる。
医師は命に別状のない程度にしか直していないようで、 装甲だの歩き方だのの部位は些か違和感が残る。

だが、 体内はすべて治りきっていた。 にぎやかな笑い声がする部屋の前はすぐそこだった。 扉をひらけば、 みなが笑いかける。

「今日はすごかったなデッドロック」
「死ぬかと思ったぜ」
「明日には足もなおるそうですよドリフト」
「滅多に見ることのない骨組みでも眺めようかなって」

思い思いに話しかけられ、 その声に一つずつこたえていく。 ダイアトラスはといえば、

なんのそぶりもないように、 嗜好品をあおっていた。 デッドロックと、 ドリフトが歩み寄れば、 少しだけ視覚器を絞り、 短く言った。

「おきたか」
「殺されかけたけどな」
「怪我の具合は」
「ご心配ならあんなにやらなくても良いのでは?」
「デッドロック、 言葉遣いを直せ。 ドリフト、 追い詰めてこそ真価が試されるものだ。 前より軟弱ではなくなった、 特にデッドロック」
「は?」

これはほめられているのだろうかと、 デッドロックは首をかしげた。
ダイアトラスがほめるなんてことは滅多に… 否、 初めての経験かもしれない。

「…… 頭でも打ったのか?」
「……… それはどういう意味だ」
「いや、 ダイアトラス様が俺をほめてるっぽいから、 気になった。 あー…… んじゃ、またつけてくれ。 今度はやさしくしてくれると助かるけど、 ドリフト何で笑ってんだよ」
「なんでもない」
「おい!」

くすくす笑いながら立ち去るドリフトの後ろを追いかける振りをして、 ダイアトラスの前から立ち去る。
ダイアトラスがらしくないから、 俺もらしくないのだと、 そう言い聞かせた。
去り際にちらりと見たダイアトラスは、 無造作に嗜好品を口に含み、 そして笑んだ。

「… お前ダイアトラス様が笑ったところ見たこと有るか?」
「ん?」
「… なんでもない」

恐らく、 見間違いだろうとデッドロックは背を向けた。


そこからの月日は飛ぶように過ぎていく。 それに比例して、 ドリフトが外界に思いを馳せる事もふえていった。
それに応じるようにデッドロックも、 考え込むようになった。

季節が変わり、 時間が流れ、 そして、 自分達も変わっていく。
けれど、 一つだけかわらないのは…

「ようウィング、 暇そうだな」

ウィングが目覚めないことだった。つんつんとウィングをつつくデッドロックは子供っぽい。

そんな仕草をほほえましく思いながらドリフトは、 隣にいるデッドロックに言った。

「… 俺は此処を出て行こうと思うんだ」
「… まあんなこと言い出すだろうとは思ってたけどな」
「知ってた?」
「うすうすは」

デッドロックは、 短くそういいそしてドリフトに言った。

「俺も出て行く気だったしな」
「…… なんのために?」
「俺は別に、 ディセプティコンとか、 オートボットとかもう興味ないんだけどな、 この戦争は早く終わらせるべきだと思ってさ。 オートボットを負かしたほうがはやそうだから」
「…… じゃあディセプティコンに加わるのか」
「お前はオートボットの方だろ?」
「…… どちらにせよ、 道理に反してはいるからなんともいえないけどな」

ドリフトは、 デッドロックを見る。 その視覚器が何を移しているのかはわからないが、 ただ、

己とデッドロックでは守るものの守り方が違うのだとそれだけははっきりとわかった。

「ウィングが目を覚ます前に、 この戦争はおわらせなくちゃいけないってそう思ったんだ」

デッドロックの言葉は、 やはりささる。 だが、 そのことがなんだか悲しい決断にしか思えなかった。

「一人で背負う事はないのに」
「そうかもな」

その日ドリフトは深く頭を下げて、 ダイアトラスに言った。

「俺は自分で戦争を見てみたいんだ」

ダイアトラスは短く言った。

「お前が迷わず進める道を行け」

そして、 その日デッドロックは言った。

「総てが総て、 悪いとは限らねえよ」

ダイアトラスは短く言った。

「後悔しない生き方をしろ」

デッドロックがディセプティコンに入り、 功を立て続けているという噂は瞬く間に広がった。

ドリフトという若者ががオートボットに入り、 功を立て続けているという噂も瞬く間に広がった。 星を埋め尽くす戦火の波は、 次第に国土を荒廃させ、 星外にも及んでいく。

そして、 ほどなくして不毛に争い続けたオートボットとディセプティコンの戦いは、 オートボットの勝利という形で、 セイバートロン星自体を破壊つくし終結した。




弌章 完
鳳櫻月雨