大きく背伸びをして、壁に再び寄りかかった。まだ、彼は終わらないのだろうか、まあ時間は山ほどあるんだからいいやと、こうこうと明かりのついている部屋の前でドリフトはひたすら待っていた。
そしてさらにしばらくが経過して、本当に今日は忙しいのかな?とドリフトが首をかしげ、もう待つのを止めようかとため息を吐こうとした時だった。

「お前は、いったいいつまで私を待つ気なんだ」

乱暴に開いた扉の向こうの呆れ果てた顔に、ドリフトは一瞬驚いたが、笑みを溢した。

「もう少し、遅かったら帰ろうと思ってた。」
「いつでも入れと言っているだろう」
「そう言うわけにもいかないんじゃないか?ラチェット」

ラチェットは、もう言うのも飽きたと言わんばかりにため息をついて、ドリフトを室内へと促した。
小難しい書類の山を傍目に、引っ張り出した椅子に座る。

「そういうところは速いな」
「当たり前だよ、だって、ずっとたってたんだから」
「頼んでないぞ」

ラチェットの仕事はまだ終わらないようだ。

「ラチェット、癒してあげようか」
「ああ、何か暖かいものでもいれてくれ」
「そうじゃないんだけど」

不満を抱きながらも、慣れた風にドリフトがラチェットへ茶を注ぐ。酌用のものでも注いでしまおうかと、手を伸ばしたドリフトにラチェットが声をかけた。

「それは、いれなくていいぞ」
「あんた、後ろに目でもついてるのか?」

しかたなしに瓶をおき、ラチェットにマグを差し出した。

「……」
「何かいってくれよ」
「…… 不純物を混ぜるな」
「アレンジだ、アレンジ」

温かいものを淹れてくれと言ったとき、ラチェットは大抵何か話を求める時だ。なぜか、ラチェットは会話をしたがる。

「今日、すげえ良いことがあってさ、」
「おまえがそう切り出すときは、良い話じゃないな」
「…… 今日はそういう気分じゃないのに、しつこくて珍しく相手を振りました。それなのに、さっきからメールがなりやまなくてウザイです」
「だから、止めておけと言っただろう。話を聞かないからだ」

ドリフトは、恐らくラチェットは己のことが好きだろう、と踏んでいた。 なので、以前自信満々に言ったのだ。 接続しようと。 ラチェットは、そんなドリフトに迷わず言ったのだ。

『子供の相手をする暇はない』

それからというもの、ドリフトの飽くなき挑戦は始まった。なんとか接続までこぎ着けようと、嫉妬させてみたり会いに行かなかったりと色々試した。しかし、ことごとく失敗してしまい、今の今までドリフトはラチェットと接続できていなかった。
最近では諦めつつあり、目下世間話をしに行っている。

「今日ロディがウルトラマグナスと喧嘩してたなー。あそこの痴話喧嘩はもう惚気にしか聞こえないね」
「とてもじゃないが、付き合ってられないな」
「公私は分けてるんだけどさ、あの雰囲気が悪いよな、喧嘩してた方が仕事の進みは良いんだけど」

私生活がよくないのに、仕事がうまくいくなんて珍しいタイプだなあと思うが、そんな話もラチェットにはどうでもいいらしい。
先程から送り付けられてくるメッセージにいらいらが募りとうとう、回線をぶち切ってしまう。

「食事は済ませたのか」
「んー…、食いそびれたよ」
「なら少し待つんだな、もう終わる」
「美味しいのがいいな」

ドリフトはにこにこ笑いながら、ラチェットを待つ。

「まだ?」
「待て」
「… まだ?」
「お前はそれしかいえんのか」

まだ何か言えると思うが、今のところそれしか頭に浮かばない。

「さっき誰かの部屋から爆発音がしてた、もしかしたら何か問題があるかもしれない」
「…この艦はつねに何かしら問題を抱えているな」
「逆にセイバートロンに残ったらどうなってたんだろうね」
「…… 私も食いそびれたくないからな、行くぞ」
「ん、?終わったの?」

さっさと立ち上がったラチェットは、ドリフトがまだ立ち上がっていないにも関わらず部屋の電気を消してしまう。

「ラチェット!」
「早く来い」

慌てて、立ち上がってラチェットの背中を追いかけた。派手な音をたてて倒れた椅子は放置したまま。

鳳櫻月雨