スワーブのバーは相変わらず五月蝿い。大勢いるなかに先程からメールを送りつけ続けている相手を見つけた。
少し何か言いたげにしているが、まさかこんなに大勢いるなかで 『どうして、断るんだ』等ということはまずないだろう。 それに、隣にいるのは我が艦一の医者だ。
ということで、ドリフトは無視した。そんな態度に相手が気にくわなかろうがなんだろうが知ったことではない。
「見てるぞ」
「は?」
ラチェットが視線でうったえるそのさまに、ドリフトはたじろぐ。まさか気づかれているとは思わなかったし、ラチェットに指摘されるのは何とは無しに嫌だった。
「無視する。」
「あまりいい選択ではないな」
「でも、無視。…… っていうかこれなに」
目の前の色とりどりのスティックを見てドリフトが、首をかしげた。そんな、ドリフトにすかさずスワーブが言う。
「ロシアンスティックだ、最近考え付いて一生懸命試行錯誤してつくった。いろんな種類の味があって、ちなみに」
「ありがとう、スワーブ」
ドリフトが適当な一本をとって、かじる。
即座に吐き出した。
「まずっ!」
「あああ、ちゃんと話聞かないなんて酷すぎるよ。ちなみにの続きね。ちなみに、色んな味の中には、循環油味とか、あと錆鉄味に、硫酸味ってのもあるから注意して、今食べたのは、おそらく病院味」
「もっと早くいうべきだろ!なんで、こんな恐ろしいもの作ったんだ!!」
隣のラチェットを見ると、やはり一本手元に持っていて、それが全く減っていない事に安堵する。
「ラチェットはなんだったんだ?」
「きゅんとして初恋味」
「…… なんだって?」
ぽかんとしているドリフトに、なんだと言いたげにするラチェットに思わず笑みが漏れた。
「ふっ、あんたみたいなのが、きゅんとして初恋だとかほんと、おもしろい」
「なにがだ」
「ふっ、ふふ、あはははっ、ふふふっ」
「…… 怒るぞ」
ドリフトがそう笑えば、ラチェットは機嫌が悪いような振りをして笑みをこぼす。
「もう一回言ってよ」
「もう言わん」
「ほんとにおもしろいのに」
口直しのオイルを飲み、ラチェットの事をからかう。病院食味の己と、きゅんとして初恋味はどちらが美味しいのかと、スティックを持ち上げるラチェットの手を引き寄せて、かじる。
「あ、これは、おいしい」
「人のを食べるんじゃない、お前は病院食味でも食べてろ」
「やだこれまずいんだもん。」
「まずい?せっかく私がてずから作った味なんだぞ」
「なに、これラチェットが作ったの?」
ドリフトが驚いてスワーブを見ると、スワーブがぐっと親指を立てる。
「こういうの作りたいからサンプル作ってって言ったら色々作ってくれたんだけど、その中で一番すごい味なの持ってきたんだ、まあー機体にはとてもよろしいらしいよ、機体には。そこには美味しさなんてものは必要ないらしくて、」
「ええ…、これが…、こんなのやだな…」
「現物はもう少し、いい味のはずだぞ」
ラチェットが、乱暴にうばいとってスティックをかじる。 咀嚼を繰り返し、飲み込んだ。
「…… すごい再現率だな」
「じゃあマズイって認めるの?」
「食え。私はいらん」
「俺もいりませんー」
これは何味だろうかと二人でさぐりながらかじっていくと、徐々に腹が満たされていく。これはうまいとラチェットで言ったものを奪って食べたのが、まさかの腐った卵味だった時は、流石に笑えなかった。
「あー、面白かった」
「食い漁っただけだったな」
「あんたに騙された」
「お前が人のものをとっていくのが悪い」
満足した気持ちで通路を歩いていく。そのうち、自室が見えてきた。
「爆発音がしなくなったから明日は忙しいかもしれないな」
「そうだね、…… やだな…、あいた」
ぱちんと額を、指で弾かれる。
「ちゃんと、寝るんだぞ」
「心配? なら一緒に寝る?」
「無理だな。お前の寝相は悪そうだ」
そういう意味じゃないのにと言いたいがラチェットは意図して外しているのだ。
「寝ろ」
「… うん、おやすみなさい」
その返事に満足したようなラチェットが背中を向けた。弾かれた額に手をやって軽く笑む。
今日は大人しく寝ようと思った。
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全くひどいと、ドリフトはぼんやりシャワーを浴びていた。 確かに、無視したのは悪いと思うが、流石に酷すぎるんじゃないだろうか。
どろりと、流れ出た循環油と生殖油にドリフトは何故か虚しくなった。
「…… ラチェット」
非日常は嫌いではないのに、平凡なんて飽きてしまうのに、今はとてつもなくラチェットとの会話が恋しかった。
なんでもいい、ラチェットと話したい。でも、こんななりでどう話せと言うのか。
「変なの」
洗浄もそこそこに、シャワーを閉じる。受容部に適当な布を突っ込んで、蓋を閉めた。地球は素晴らしい。前はこんなものなかったが、地球におりてからこんな便利なものに出くわすなんて思わなかった。
「よし」
ささっと機体を拭いてから、シャワー室を後にする。その前に、どこもおかしくないだろうかと確認する。
部屋を後にして、ロディマスの元へ行けば、今日はなんだか機嫌が良さそうに笑っている。
ウルトラマグナスの元へ行けば、なんだか機嫌は悪くなさそうだった。
のも、つかの間。爆発音が聞こえて来た。
「…… 何故か爆発から始まるなこの艦は」
そんな、諦めたようなウルトラマグナスの声に、ドリフトもため息を吐く。
そこからはとにかく忙しかった。
爆発は、ラングの部屋から起こったらしく、まずそこに疑問が浮かぶ。ラングはそんな乱暴なことをするだろうか。 これがブレインストームの部屋とか、パーセプターの部屋なら別に良い。良くはないが、なんとなく頷ける。しかし今回はそんな二人と離れているラングの部屋だ。 ラングの趣味は実験でも爆発でも無くて、船を愛でることだと思ったのだが…。
部屋の前は凄まじいことになっていた。 その時、先に来ていたらしいラチェットと目があった。
「後で、部屋に来なさい」
「は?」
ドリフトがラチェットに聞き直す前に、ロディマスが叫ぶ。
鳳櫻月雨