軽快に笑ったロディマスが、立ち上がった。

「やってみて駄目ならそれでいいじゃん。 気楽にいこうぜ」
「……… ありがと」
「気にすんな気にすんな、それより、煩雑に扱った奴の事教えてくれ」

忘れていなかったか…と、誤魔化す気だったドリフトに、ロディマスが続けた。

「俺には大事なんだ、甘くみてもらっちゃ困る」
「…… いいって」
「良くないな、まあ、聴かなくても知る方法はある。ドリフトから直接、聴くことに意義があるんだ」
「大丈夫」

ロディマスには申し訳ないが、ドリフトにとってはどうでも良い事だった。 接続して怪我をするなんて以前はざらだった。

「ドリフトのムカツク所は、こっちの心配を全部はねのけるところだよな」
「それラチェットにも言われた」
「まあいいや。気が変わったら言えよなあと、試したら教えろよ」

ロディマスが、 書類に手を伸ばしたのを見てドリフトが部屋を後にした。
誰かに自分の相談をするのは滅多にない珍しいことだが、その位には悩んでいるのだ。
ラチェットをそんな目では見てないと言いはしたが、可笑しな話だ。そういう目で見ていたから、 接続しようと誘ったのにいざ彼を考えながら自慰するとなると…。
ロディマスは何も間違っていない。だから否定できない。

「あ」

そんなときに表れた渦中の相手。 思わず背を向けそうになるのを、なんとか堪えた。

「ラチェット」

声は裏返っていないだろうか不自然な所は無いだろうかと気になって仕方ない。

「なんだ」
「えーと」
「なんだ」
「そんなに言われたら言いたいことも忘れるよ」

怪訝な顔をするラチェットに、何とか会話を見つけようとする。

「何してる?」
「お前こそ何をしているんだ」
「あー、何もしてない」
「なんだそれは」

その時に、ぱちりと目が合う。やたらと緊張が走った。

「変なやつだな」
「じ、じゃあまた!」

じわりと熱くなる頬がばれないうちに、ドリフトはそそくさと背を向けた。
なんだなんだこれは。なんでしかもラチェット相手に。

-----


眠ろうとしたときに、唐突にロディマスの言葉が浮かんできた。なんとなく気になり、胸中で謝罪の言葉を述べてからラチェットに思いを馳せた。
ラチェットはどんな風に己を扱うのだろうかと、 ベッドの中で考える。
抱き締める? 睦言を? その心に何を抱いているのか。
視覚器を閉ざして、思い出す。

「ドリフト」

浮かべたラチェットに対して答えるようにそっと、彼の名前を呼んだ。 ぶわっと、熱くなる。 するりと腿を撫であげると、もっと続きが欲しくなる。素直に伝えたら、どうなるのだろうか。

[ドリフト、いい子だ]
「んう、ラチェット…」

ラチェットの接続の仕方はわからないので、 自分の良いように動かしていく。
唇を指でなぞりちゅと音をたてて、口腔へ招く。 口腔内を余すところなく撫でる指に、たっぷり口腔油を絡めた。 指だけが、ラチェットのものの様であった。
突然、今日ラチェットと目が合った事を思い出した。

「んっ、あ!やあっ…!」

見つめられたら己はどうなってしまうのだろう。純粋に、恐れた。 だが、それを上回るほどの期待があった。

「はっ、ああ、ラチェッ、…ト」

腿を擦り合わせるだけでは足りなくなり、受容部蓋を外してそろと指を這わせた。

「ん、うぅ、っ、はあっ、んっ、ふああっ…、」

視界に走った甘いノイズに、ドリフトが視覚器を細める。 気持ちいい、と思う。

「らちぇっ、とぉ、…」

呼べど彼はここにいないし、仕方ないのに、どうしたらいいのだろう。 欲しい欲しいと、訴えてくる己に、いつの間にか受容部の指が増えていく。
じゅぶじゅぶと受容部を犯す指が気持ちいい。 そして… 恥ずかしい。
こんなにも乱れる己が恥ずかしい。 脳裏に浮かべたその姿に、欲情する己が恥ずかしい。

「んっんっ!、ああ、らちぇ、あ!!」
[ドリフト、]
「だめ、なまえ、!だめえ、」
[駄目?本当に?]
「ん、やだ、かんじて、んやああ! もっと…、!」

ぐちゃぐちゃの受容部はもう言いようもないくらい感じていて、脳裏の彼にだけ見せ付けていく。ぞくりと彼の視線が、受容部の内部に入り込む気配に思わず叫んだ。

「やあああ、あ!らめ、ひゃっんっ!いく、いく!!」
[構わんぞ、ドリフト]
「やめてぇ、らめっ、んーっ!ああァあっ!」

どくんと、受容部が震えてきゅぅっと絞まった。指を伝う官能油とは違う感覚に、達した事を悟った。
受容部のみで感じた深い快感が少しずつ引いていくのを楽しむ。 同時に、思考が現実に戻ってきた。

理性を取り戻したドリフトがまず、感じたのは罪悪感だった。 とうとう、やってしまったのだ…と、悲しみすら込み上げる。

「らちぇ、っと」

しかも、接続機は一度も弄らなかった。 不感症なんてものじゃなかった。もっともっとタチの悪いものだった。

「明日はどんな顔してあったらいいんだろう…」

-----


「不感症じゃなかった」
「は?」
「もっとタチが悪いものだった」
「ドリフト、そういう目で見てないんだろ?」
「見てた」

いわゆる酒をごくんと一気に飲み干したドリフトが、次の瞬間机に沈んだ。

「今日、ラチェットを避けまくってしまった…」
「は?嫌われるぞ」
「勘弁してくれ…」

黙りこんだドリフトに、ロディマスが考える。

「もうあたって砕けちゃえよ」
「もう一回砕けてるから、無理……」
「今とは別だろ。ほら、なんつったっけ…あ、ハラキリ。ハラキリ覚悟して当たっちゃえ」
「死んじゃうでござる」
「あ、ラチェット」

ドリフトが凄い勢いで、起き上がった。 何も知らない風にドリフトの隣に座ったラチェットは適当にドリフトと同じものでいいと頼み、 ドリフトに向き合う。

「 ドリフト。 こっちをみろ」
「なんで、俺何もしてない」
「嘘をつくんじゃない。 お前が何か隠しているのは知っているんだ」
「なんで俺の隣に座ったの」
「何?お前に用事があるのに、ロディマスの隣に座ってどうする」

ラチェットの追求に思わずロディマスの顔を見たドリフト。あまりに困っている風な様子に、ロディマスが言う。

「聞くなよラチェット。 多感な時期なんだ」
「私からみたら不快でしかないぞ」
「悩んでるんだ、 苛めたら嫌われるぞ」
「…嫌いにはなれないよ」

ロディマスの言葉を、 ドリフトが訂正する。 置いてあった酒を煽って息を吐いた。

「おい、それラチェットのだぞ」
「は!」

自分の手元の杯を見てドリフトが慌てた。 自分の右手にある杯と同じ杯が、自分の左手に……

「他所のをのむんじゃない」
杯をひったくったラチェットが不機嫌そうに言った。 しかしその表情は比較的柔らかく怒りを感じない。
そんな中、ロディマスが言った。

「ラチェットは好きな奴いないの」
「いるぞ」
「え?」

ドリフトは吹き出しかけた酒をなんとか絶えて 飲み込む。興味のない振りをしなければと、 どうにか考える。

「あ、あんたにもいるんだな」
「ずっと前から 待っている」
「へえ〜、誰?」

突飛な展開に、 ドリフトが焦る。 あまりにもぽんぽんと話が早すぎる。
ロディマスは本気で興味津々と言った様子で続きを待っている。
ロディマスに対して、酒を口に含んだラチェットはくすりと笑う。

「秘密だ」
「ええ、 何でだよ」
「ウルトラマグナスとは順調か?」
「俺の事はいいんだよ!」

ロディマスがラチェットに言っているその間、ドリフトは酒を煽っていた。 ラチェットには好きな人がいるという事実が、脳内を駆け巡る。
己だと思っていた。だが、それは本当にそうだろうか。もしかしたら、別の機体の事かもしれない。

「…… 帰る」
「ドリフト?」
「もう疲れた」

よろよろと場を後にするドリフトに、 ロディマスとラチェットが視線を交わす。ドリフトが立ち去ったのを確認してから、 ロディマスは言う。

「…… ドリフトなんじゃないの?」
「何がだ」
「いや、なんでもない」

ロディマスが杯を煽ってから言う。

「追いかけたら?」
「適度に逃がさないと閉じ籠るからな」
「ラチェットさ、怖いよ」
「当たり前だ」

ラチェットが笑みを漏らして続けた。

「たまには私もからかってみたいからな」


鳳櫻月雨