いつだってラチェットは優しかった。そう、何時だって。 今だってそうだ。
触れ合った手を、離したくないと握れば同じように返してくれる。
ふと、その姿に疑問を抱いて、尋ねる。
「ラチェットは誰にでも優しいのか?」
「医者だからな」
「医者やってるラチェットはあんまり優しくないと思うけど」
「記憶にないが」
ラチェットと、他愛のない事を言いながら排気する。 一人きりでいるのは慣れたと思っていたのに安心感に心が暖まる。
「ラチェット」
抱きつけばラチェットも背部に手を回してくれる。 そして、 言わずともぎゅうぎゅうと力を込めてくれるのが嬉しかった。
「ふふ」
「何を笑っているんだ」
「だってすごい密着度だ」
ラチェットに唇を刷り寄せて、喉元にキスをした。
「余すところがないな」
「まだあるよ」
「何?」
「この口かな」
「私は特に気にならない」
その言い方にドリフトが拗ねたように言う。
「適当過ぎないか?」
「ドリフトは、 試すようなことばかり言うからな」
「試してるんじゃなくて、 誘ってるんだけど」
ドリフトを嘲るようにくつくつ笑ったラチェットの喉元に抗議の意味を含み軽く歯を立てて噛みついた。 それでも ラチェットは笑い続けていて、次第に自分の行動が酷く子供っぽい気がしてくる。
「、ねぇ」
「終わりか?」
「… 終わりだよ」
からかわれているだけだと気が付いたが、ラチェットが楽しいならそれでもいいやと納得してしまうのが恐ろしくなる。
「ラチェット」
誤魔化そうとして差し出した唇に、ようやくそれが与えられる。 啄むような軽いキスが、 徐々に舌を絡ませあう淫密なものに変わり、 ちゅくちゅくと音をたてる。
どちらのものとも言えない口腔油を飲み下し、 期待を隠しきれなくてラチェットの耳元で言う。
「… 甘えていい?」
「そのためにいるんだからな」
ドリフトから寸分も目を話さずに、 ラチェットがなにも言わずに見つめる。 誰かから見つめられるのは恥ずかしい。それも自分の好きな相手にだ。けれど、 一心に見つめていてくれる、それは嫌じゃないと思う。
「眼が揺れてるな」
「っ、恥ずかしい、…」
天井や風景さえも移らない程近くでラチェットを見つめる。おそらくそれはラチェットも同じだと思う。食い入るような視線と沈黙に耐えられなくて先に言葉を発したのはやはりドリフトだった。
「ラチェットに、食べられてしまう、」
「見抜かれたか」
「う、…」
そう言う意味で言った訳じゃないのにと、返せずに耐えきれなくてとうとう視線を反らした。
それを皮切りに、 ラチェットがドリフトの機体を触れていく。 高鳴る拍動と、 触れられた箇所が熱を帯びていきドリフトの排気を乱していく。
「はふ、ぅ… あ、ラチェット、」
「ドリフト」
「名前、もっとよんで」
ラチェットの声は耳に馴染みがいいと思う。
「……… ドリフト」
「〜〜ッッ!!」
でも、耳元で囁くのは反則だと思う。
「、だめ!」
「ドリフト、ドリフト? どうした、 ドリフト」
いよいよ、 耐えられなくなってきて脚が震えだす。迫力ないんだろうなと思いながらも恨めしげににらんだ。
「いじわる…」
「ドリフト」
「っ… 」
ラチェットが笑うのがわかって羞恥が募る。自分がどのくらい赤い顔をしているかも、 わからない。
「ドリフト」
「… なに」
「赤いな、ドリフト」
「ラチェットのせい」
治療室のベッドより背中にが沈む。 ラチェットの部屋でするのは何だか新鮮だった。
「ラチェットの部屋、好きだ」
「何もないぞ」
「 ラチェットが近くにいるのがわかって嬉しい」
「健気だな。 私はおまえの部屋が好きじゃないよ」
「…… なんで…?」
己の部屋はそんなに汚かっただろうかと考えるが、 そもそも部屋に何もない。 ラチェットの部屋よりもっと何もない。さて、 困ったと首を傾げるドリフトにラチェットが言う。
「私がお前の部屋に行くと大概邪魔が入る」
「え… ?」
「この前はロディマス、その前は… とにかく、 何かしら邪魔だ、帳が降りたらお前は私の物だ」
「…… 、ラチェット、嫉妬するの?」
言っている意味を理解してじわじわと込み上げてくる。 意外だったのも、 そしてまだラチェットについて知らないことがあるのも。
「…… ふふふ」
「ドリフト」
「ラチェットの事、 また一つ知った、 どうしよう嬉しい」
そういえば、以前直球でしか伝わらないと言われたなあと記憶にはせる。 その言葉の通り、 ラチェットはしてくれていた。
「キスしたい、ラチェット」
先程まで素直に言わなかったことが今はすんなりと口から出てくるが、 それも仕方がないと思う。だって嬉しいのだ。
視覚器を閉じれば、 それはすぐに与えられた。
「んっ、… ふ、ぁ…、あ、ちゅ、、んん…、」
ラチェットの舌が丹念に、口腔を荒らしていく。まるで、調べ上げるかのように絡む舌と喉奥に流れ込む口腔油を嚥下した。 キスが終わってしまうのがなごり惜しくて、 舌を追いかければラチェットが笑うのがわかった。 舌と舌が触れ合ってぴりりと甘い刺激が伝わる。
「何度でもしてやるから安心しなさい」
「…、 うん…、、」
ラチェットの手が、 受容部蓋をずらしたとき、何か思いだしたように手を止めた。
「今は飲むのが主流だからな」
「え…、 な、に?」
鳳櫻月雨