「かぐや姫は凄いな」

唐突な言葉にラチェットは、 手を止めた。 かぐや姫と言われて、 脳裏を探す。 すぐに東洋の昔話だとわかった。
何故ドリフトはそんなものの話に興味を抱いたのだろうか。 そう考えようとしてすぐに合点がいった。先程なんだか真剣な顔をして、 データパッドを熱心に見つめていた。 おそらく、 それだろう。

「ラチェット、 かぐや姫の話は知ってる?」
「地球の東の国の話だろう。 それしか知らん」
「かぐや姫の話は、 竹からかわいい女の子がうまれて」
「非現実的だな」
「ちょっと黙って聞いててくれる?」

ドリフトが一生懸命話すのを、 聞き流しながら医療資料を読んでいく。 ドリフトの話すかぐや姫の話は単純で明解だった。

「結局、 かぐや姫は月に帰り、人間の世界のことはすっかり忘れてしまって月で楽しく過ごすんだって」
「そうか」
「ちゃんと聞いてた?」
「くだらん」

そう言えば、 若干拗ねたようにドリフトが押し黙るのがわかった。 しばらく放っておいたが一向に機嫌が治る様子がない。
仕方なしに、 振り向いた。

「お前はその姫と自分を重ねているのか」
「…… 重ねてないよ。 ただ、 俺だったらって」
「それを重ねてると言うんだ」

ベッドの縁に座り、 視線を下にしたままのドリフトを押し倒す。 むくれたまま、 ラチェットを見上げるドリフトに言う。

「かぐやは別に蓬莱の玉の枝だの火鼠の衣だのが欲しかったんじゃない」
「… ラチェット、聞いてたのか」
「半分はな」

少し驚いたようなドリフトだが若干対話の姿勢に入ったことに、 ラチェットは気が付く。 だがまだまだむくれているようだった。
そんなドリフトから視線を離さずラチェットは言葉を紡いでいく。

「かぐやが、 欲しかったのはおそらく別にあるんだ。 私はかぐやではないから、何が欲しかったかなんて知らんが」
「…… 姫って付けないと」
「かぐやの意図などに興味はないが、 お前は決してかぐやにはなれない。 わかったか」
「… わかんない」

馬鹿なのではないかとラチェットは思うが、 そう言えばこれは愚かだったと先程の考えを一蹴する。
わからないふりをしているのだと思いたいが、 本当にわからないのだろう。
見つめれば見つめ返してくるドリフトにラチェットが言う。

「お前には引き留める人がいるだろう」
「かぐや姫にもいたよ」
「それは恋慕している相手じゃない」

一拍、おいたあとドリフトが言った。

「… じゃあ俺にはあんたがいるから月には帰らないってこと?」
「そうだ」
「何?じゃあかぐや姫は恋人がいないから月に帰ったの?」
「先程からそういってる」

幾度か口を開き、閉ざしようやくドリフトは言った。

「… 凄い、浪漫的だ」
「ああ」
「さっき、 非現実的とか言ってたのに」
「お前は私の情に触れ、 私もお前の情に触れた。いくら天上人とはいえ、 この穢れは消せん。 失ったものは戻らないのだから」
「失ったもの?」

ドリフトが、 怪訝な顔をする。 そうか、もっと直接な言葉で言わねばわからないのかと、 ラチェットは口を開いた。

「かぐやは処女だ。 色の穢れはいくら天上人でも消せん」

ドリフトが絶句するのが分かるが、 理解はできたようだった。
ドリフトが不機嫌そうに、 顔を歪めぽつと呟いた。

「…… かぐや姫の話が安っぽくなってしまった…」
「非現実的だと言っただろう」

不機嫌に、 唇を尖らせたドリフトが子供っぽいとさえ思った。

「どうしてくれるんだラチェット」
「どうもできん。あと私は蓬来の枝だの火鼠の衣だのの用意はできないつまらない男だ。 それでも、 お前を月に帰したくない」

視線を刹那にも離さず見つめて言えば、ゆるりとドリフトの瞳が揺れた。 その揺らぎが、 戸惑いや動揺ではなく期待に揺れているのだと、 気づくのは容易かった。
幾度か、 間を開けてドリフトが言った。

「… か、えれなくていい」
「ドリフト」
「して、 あんたのものに」
「ドリフト」
「刻んで、 もっと沢山。 忘れちゃうんだ、 だから…、 わすれさせないで」

ちゅ、と言葉を塞ぐ。 すぐに、 離れたドリフトの唇が、 もっとと言う。
徐々に 唾液にまみれていく唇に 絡み合う舌に、 ドリフトは酔いしれる。

「ラチェット、 らちぇっ… んぅ…、 は、ちゅ… もっと、」
「… まだ忘れそうか」
「うん」

ドリフトの言葉に、 くすと笑ったラチェットがするりと脚を撫でた。 ぞくりとした、 感覚に熱く排気を溢す。
撫でられ、 唇を合わせ、 どんどん高まる。
機体が熱くなる。

「… ラチェット、あつい…」
「その熱を忘れるな」
「… ラチェットの熱?」
「まだ寸分も伝わってないぞ」

ラチェットは涼しい顔をしている。 そのくせ、 もっと熱い情があると言う。
その身にどれほど熱をためているのか。
純粋に恐ろしくなった。

「んぅう… 、 ら、らちぇ、っとぉ」
「なんだ」
「さ、さわっ…て…、」

奥まで暴いてほしいと、 ドリフトが懇願する。
機体の奥深く迄、 刻み付けてほしいとさえ思う。 触られていない所が痛む。 触れられている所からは、 疼きが産まれ、 それもまた痛む。
… ―痛みの経験は、 忘れないと言う。

「かぐや姫が、 わすれちゃったわけ、わかったよ」
「… そうか」
「ラチェット、 痛い。 凄く、痛い」
「そうか」
「… いたいっ…」

とてつもなく甘く痛む。 きっと、 この痛みは忘れられない。

「あ、ラチェット、」

拍動が乱れている気がする。 視界がずれてノイズが走る。
ラチェットの指に己の指を絡め、 貝殻のように合わせる。 握りしめれば、 同じように握り返してくれる。

「うれしい」
「私もだよ」
「うっ、ふぁ…、ぁ、ん…ぅ」

ラチェットの声に、 踊らされているような気持ちになる。 一声で、 こんなに高なる。ラチェットの声がまるで自分の声のようにごく自然に聴覚を揺らす。

「好き、ラチェットすき…、」

はらりと花弁を散らすように、 ラチェットの指が胎内に入る。 そこはすでに濡れ、 とろりと指を受け入れた。
ラチェットは指に絡み付く愛液に、 くすと喉奥で笑った。 急くドリフトの気持ちとは裏腹に、 ラチェットはやさしく甘く胎内を溶かしていく。
まるで、 初めての時のようだった。

「だめ らちぇっとぉ、…んぅう…、」
「何がだ?」
「はっ、 ぅ…、 ぉ、 おく、 ほ、しぃ…」
「まだ、 蕩かしたりない」
「んぅ…、 やだ、ぁ、ふああっ…!」

ずきずきと胎内が痛い。切なく甘い痛みに身をよじり、ラチェットに速く速くとねだる。
だが、 ラチェットは優しく花弁を開かせていく。

「ら、らちぇ、っ…やっ、あっあぁ! そこ、あうっ、!」

ぷくんとした一点を、 ラチェットの指がなで回す。 その度に、 嬌声が漏れでて脳を融かす。

「きもちいいだろう?」

荒い息をしながら、 頷く。 きゅんと、 また奥深くが疼く。
焦がされそうな熱にどろどろになっていく。
繋いだ手と別の手で、 自らの腿を撫でる。

「ドリフト、 手を貸しなさい」
「やっ、ぁ…、 んやぅう…」

ラチェットが、 ドリフトの手を受容部に導く。

「ここだ」

ちゅくりと音をたてながら重ねた指を受容部の一点に触れさせる。 びりっと、 悦が走った。

「やあ、らちぇ、」
「好きだろう?」
「すき、すきぃ、っふああっん! きもちぃよっ…」

悦に任せて、 何度も擦る。 最初はそれでよかった。だが気持ちがいいのに、 でも… 高鳴りすぎて痛い。 期待に膨らんでばらけてしまいそうだった。もっと熱いものが、 欲しい。

「、っ…、いたい」
「私は痛いことはしてないぞ」
「らちぇっとぉいじわるしないで、たすけてよ」

くすくす笑うラチェットに、 そんな余裕ないのにと恨みさえも込み上げてきた。
このままばらばらになったら、 どうする気なのだろう。

「ほしい、いれて、あっ、ああ、やああ、!」

ラチェットの接続機が奥へと入ってくる。 熱い猛りに、 狂おしい。

「ドリフ、ト」

ゆっくり挿出されると、 声が我慢できなくなった。

「あっ、らちぇ、らちぇっとぉ、きもちいぃ、すきぃ」
「ここも、な」
「やああ、らめぇ、おく、おくまでぇっ!」

気持ちがいい。 その気持ちよさのなかに痛みが、 徐々に溶けていく。
もういいや、とラチェットに委ねた。

「いい子だ」
「ふぇっ…、うう…」
「力は抜け」

ラチェットの声は魔法だ。 じんと、感じ入って視覚器をとかすと、ラチェットが優しく笑った。

「ああ、らちぇっとぉ、いく、あ、だめ、らめ、いくぅ」
「速いな」
「、ひゃう、らめ、らちぇっとらちぇっとぉ、」

甘えてすりよれば、 ラチェットの唇が触れた。
痛かった胸は、 もう痛くない。

「らちぇ、すき、だいすきっ… いく、あ、!らめっあう!!」
「っ、ドリフト」

きゅぅんっとラチェットの接続機を締め付ける。 胎内に感じる熱に、 ラチェットも達したと分かる。

「… ラチェットに酷いことをされてしまった」
「何?」
「いたいよーって言ったのに」
「ちょっと待て」
「ラチェットが俺に酷いことをした」

呆れたように、 ラチェットが接続機を抜き取り、 ベッドの縁に座った。
のそのそ起き上がり、 その背になだれかかる。

「ラチェットが俺を痛め付けた」
「そうか… ドリフト」

ラチェットが、 後ろから抱きつくドリフトの左手をとり、薬指にキスした。

「まだ月に帰りたいか」

ぎゅ、と強く抱きつきながらドリフトが言う。

「あんたと一緒がいい。」
「私はお前を痛め付ける酷い男だぞ」
「ラチェットは薬をもってるから平気」
「不死の薬は持っとらんぞ」
「それよりもっといい薬。あ、胸が痛い、先生お薬頂戴」

ドリフトが、 横に移動しラチェットの隣に座る。 怪訝そうに、 見つめるラチェットの唇をちゅ、と啄んだ。

「治っちゃった」
「何をしているんだお前は」
「ラチェットのお薬を貰ったんだよ」
「全く」

嬉しげに笑うドリフトになにも言わずに視線を反らした。

「不死の薬だなんてあんた俺の話聞いててくれたんじゃないか」
「半分は聞いた」
「照れてるのか?素直に真面目に聞いてたって言ってよ」

ラチェットの唇を奪い、笑いながら、 抱きつく。 ぐっと力を込めれば、 ラチェットはベッドに倒れる。 ぺろ、と無意識に唇を舐め、濡れたままキスをした。

「… ドリフト」
「ん、?」
「まだ業務中だったな」
「ああ」
「婬逸している場合か?」

その言葉に、 ドリフトがふふっと顔を綻ばせた。

「月に帰す気なの?」
「だから聞いているんだ」
「… 帰す気ないんだろ?」
「ああ」
「じゃあ」

明日はウルトラマグナスに二人で叱られようか

甘美なドリフトの提案を、 ラチェットは笑う。

「恐らく何をしていたか聞かれるな」
「えっちしてましたって?」
「私は、 月に帰ると言いはるドリフトを引き留めるべく大切な物を奪ったとでも言おうかと」
「なら、俺は、月に帰ると言いはったけどラチェットに囚われて帰れなくなりましたにする」

…… ウルトラマグナスに接近禁止令を出され丸一週間触れ合えなくなることを今の二人はまだ知らない。


End
鳳櫻月雨