壊してしまった。まさかそんな事はないだろうと、ロディマスは耳を疑い洗浄室のあるほうに歩こうとした。しかし、一歩脚を踏み出したとたん、がくんと床に崩れる。何が起こったのか理解したくても、受容部から滴る生殖油の感触に邪魔されてうまく思考がまとまらない。
「おや、どうしたの」
「あんたのせいだろ!無理にやるから、!」
機体の自主スキャニングによれば、負荷のかかった脚がエラーを起こしていることと、脚部の間接に荷重がかかって一時的にマヒしている… らしい。それより、体内の異物をどうにかしろと訴えるメッセージの方が大きい。
「あんたの生殖油が異物認定されてる」
「まだ異物指定してたの? それはあまり… 良くない」
「…… うるさいな、今解除したよ」
洗浄ができないのなら仕方がないと、ロディマスは受容部の蓋をそのまま閉めた。優先事項は、洗浄室の修理だと、心に誓う。さっさと、吸収されてしまえばいいのに、等と非現実的なことを考えるが、やったことがないので実際どうなるのか分からない。
「外、行きたい」
「外?」
「今日は星がよく見えるらしい」
「星?」
唐突に言ったためか、オーバーロードが困惑しているのがわかるがロディマスは気にしなかった。ロディマス自身にとっても唐突な提案だったし、口を突いて出た言葉だから大した意味もない。
「君が見たいというならば」
「うぎゃぁっ!」
「…情が片も無いね」
「黙れよ、あんたが…」
唐突に横抱きにされ、慌ててオーバーロードの首にすがる。そんなロディマスに、関わらずオーバーロードは艦内を歩いて、外へと出る。
オーバーロードに文句を言おうと口を開いたが、こうして運ばれるのももう何度目かわからない。言ったところでどうにもならない事はわかるので、口を閉ざした。
「…… わ!!」
外に出たオーバーロードとロディマスは、頭上に広がる星に目を奪われた。 幾ばくもの星が行き交う様はまるで、雨のようだった。
「星の雨だな」
「…… ロディからそんなに浪漫的な言葉が出てくるとは思わなかったよ」
「あんた最近失礼すぎるぞ」
頭上から落ちる星を目で追っていくと、海が見えた。そこは、幾千もの星が反射していた。オーバーロードが実に自然に、ロディマスを砂地へと降ろす。
足の痛みも忘れて、歩いた。ぱしゃりと、水が足に触れ、だがそれよりも。あまりにも美しい光景だった。
「すごい、」
赤、青、白、黄。 水にゆるりと浮かんでいた。手を伸ばして触れようとして…
「ロディ」
その手はオーバーロードに捕まれた。水面の星に触れかけた指が、その冷たさに抱かれる前の出来事だった。
堰を切ったように、ロディマスは口を開いた。
「帰りたい、」
ぽつんと漏らした言葉は、オーバーロードに届いただろうか。
「見たんだ、街で。
俺、探されてる、でもさ、違った
なんで、裏切り者になっちゃったんだ、?
帰りたい。」
それまで、黙っていたオーバーロードが言った。
「…… あまり知られたくはなかったよ」
「……、 隠してどうなる問題でもないだろ。もう、帰れないんだから」
「……このままここで死ぬ?」
その提案に、ロディマスは笑った。くすと控えめな笑いはもはや、以前とは違う悲壮が漂っていた。
「悪くないな、でもあんたとかぁ…、」
ロディマスは空を見上げる。きんきんと、星がふりつづけていた。 オーバーロードが、ロディマスを抱き締める。
「嫌なの?」
「まあな」
ロディマスの顎を持ち上げたオーバーロードが、優しくキスをおとした。誘われるように、ロディマスがオーバーロードに言う。
「誰があんたと死にたがる?あんたは到底許容し難いから、向こう千年は無理だ」
「千年、結構短い間だね」
「さあ。九百九十九年目に俺の罪は晴れるからあんたとはお別れだ」
「予定だろう?」
ひとしきり、降る星を眺めた後、オーバーロードが唐突に言った。
「いいことを思いついたんだけど」
「あんま聞きたくないな」
「舐めてしまえば洗浄はいらないよね?」
「却下」
情が片も無いのはどちらだろうか、とロディマスは頭を抱えた。
―――――
…………
………
……
「あなたの名前は明かしてませんよ、でも本当にこれでいいのですか?」
「かまわない。彼が、私に会おうとするのはあまりに危険だ」
「…… あなたがいいならいいですが……。結局彼は守れなかった、すいません」
「あなたが謝ることでは。こちらこそ感謝している」
「ミニマス・アンバス… いえ、ウルトラマグナス。最後にひとつ。」
「… ? まだなにか?」
「ロディマスがありがとう、と。言っていましたよ。」
どこかの星からどこかの艦への通信は誰にも聞かれることは無い。
to be continue...
あとがき
鳳櫻月雨