本当は認めてなんかいないのだ。 けれど、 決定してしまった以上仕方がないと、 ロディマスは、 目の前の相手に向けて言った。
「船長はおれだからな」
目の前の人物は食えない笑い方で、頷いたようだった。 それが始まりだ。
ーーーーー
「あんたいつも部屋でなにしてるんだ?」
ロディマスの問い掛けに、 メガトロンは疑問を浮かべながら答える。
「それはどういった意味合いだ?」
「どういったもこういったもないよ。 ただ気になっただけ」
「ふむ…」
「休みの日とか、 暇なときとか…」
「本を読む、くらいしかしない」
そういうとロディマスは意外そうに目を丸くした。
「本? 本か、 どんな?」
「物は問わない」
「最近読んだのは?」
「… 喋らずに手でも動かしたらどうだ」
「ええ? 十分手も動いてるよ」
そうだろうかと、 不思議そうにロディマスを見るメガトロンが先ほど見たときから一向に動いていない手を見てわかり安すぎる嘘をつくものだと呆れる。 その様に気がついたロディマスがけたけたと面白そうに笑うのを見て、 もっといい嘘を着くべきではなかろうかと声にだしそうになる。
きっと彼はこれで今まで許されてきたのだろう, 甘い考えだ… と、 あらぬ方向に行きかけた思考を戻す。 そして、 逆に尋ねた。
「お前は私が恐ろしくはないのか」
「何の話? 恐ろしい? なんで」
「戦犯だぞ」
「ああ、 でも今は俺の部下」
「部下? 共同経営だ」
「なんか小分組織みたい」
まったくズレた回路に、 メガトロンはげんなりと肩を落とした。 さて、 若造と話すというのはこんなに疲れるものだっただろうかと、 思ってから気がつく。
そういえば、 友人は皆死んだと。 そして、 なんとなく感じていた違和感の正体が、 ロディマスが自身と対等の立場に立って話しているからだと気がついた。
それは懐かしくも心地のよい関係であった。 さげすまれることもなければ、 崇められることもない。 まっさらな関係であった。 そして、 それを可能にしているのがロディマスの性格からよるところが大きいのも理解した。 なるほど、 知らずのうちにペースに飲み込まれていたらしかった。
「恐れを知らないというのも恐ろしいものだな」
「あんたが俺をどう思っているかは知らないけど、 話してみたら以外に普通で俺は驚いてるんだ」
この橙の機体が何を考えているのか、 メガトロンは計りかねていた。 おそらく、 ほぼほぼ何も考えていないだろう。
「生意気だな」
「もう言われなれたよ」
「褒め言葉とは言えないが」
「そう?」
素直な様は話しやすい。ロディマスが、 魅力的だというのはその素直さ故かも知れないと、 メガトロンは笑んだ。
「おおあんたも笑うんだな」
「なに」
「いっつも険しい顔だったからさ」
ちら、とロディマスの手元を確認すると、 先程から一行も進んでいなかった。 それはそうだろう。 なにせ、 話しているときに目を見て話すのだから。 恐れのない瞳で見つめて来るのは若さ故かそれとも性格か。 どちらにしろ構わないと思いながら、 メガトロンは言った。
「はやくその書類を作り上げるべきだと考えるぞ」
「なんで、 よ」
「そうしないと私がこの艦の正式な船長になってやるからだ」
「え、 ふざけんな!!」
若い機体が再び参考書に手を伸ばしたのを、 メガトロンはほくそえむ。 今のロディマスの仕事は細かい専門用語が山のように出てくる。 だが、 それらはメガトロンからすれば既存の知識でどうにかなるものだったが… 教えることはしなかった。 代わりに、 ロディマスのデータパッドの一つにわかりやすい文献を示しておいた。
そしてメガトロンの目論見通り、その出来上がった資料には、 示しておいた文献が引用された。
ーーーーー
「…ううう」
「降参か?」
「まって、 まだなんか… ある、 はず」
「早くしないか」
「どのくらい戻れば俺勝てる?」
「十手」
そういえば、 ロディマスは深々とため息をついてから言った。
「また負けた…」
「連敗記録は今日も更新だな」
「手加減しないのか」
「いつもしている」
そういえばロディマスは、 すねたように唇を尖らせた。
「なんだと」
「本気でやればすぐに終わってしまう」
メガトロンの意見は最もだった。 うぐ、 と排気をつまらせたロディマスに追い撃ちをかけて言った。
「私が勝ったら船長の座は譲るって約束だったな」
「だー! だめ、 あと一回!」
「… そう言いつづけて、 28連敗だぞ」
「いいんだよ、 俺に29回かったら譲る」
メガトロンは本気で譲れと言っているわけではない。 ロディマスも、 譲る気などない。 所詮戯れなのだ。 もはやいつもの会話だった。
駒を適当に動かしながら、 ロディマスが言った。
「んー… なにが敗因?」
「急くな」
「今日は比較的よく考えたんだけどな」
「そうだな、 始めた当初よりいくぶん面白い遊びができるようにはなっているな」
そういえば、 ぱっとロディマスの顔が明るくなった。 わかりやすいところは、 可愛いげのあるところの一つだとメガトロンも口端をあげた。
「いつか絶対負かす」
「さて、 いつだ」
「いつかだよ。 待ってろ」
ロディマスも、 その力を伸ばしていたし素質がないわけではない。 いつか本当に負かされる日がくるのだろうかと、 それもまた楽しみだとメガトロンは思う。
「ときに、 お前はいつも遊んでばかりだがそれでいいのか」
「いいんじゃね? これくらい息抜きしないとやる気もしないからちょうどいいしな」
「もっと真面目に専念するべきだな」
「前はもっとふざけてたんだ。 今は、 マグナスも文句いってこないし、 このくらいでいいだろ。」
さぞ、大変だったのだろうなと、メガトロンはかの青の機体に思いをはせる。 ロディマスといえば、眼の前のこまを白と黒に交互に並べていて、自身の副官への配慮を示す様子はない。
ふと、なにwかいいことでも思いついたような顔つきで、ロディマスはメガトロンに言った。
「ね、 白と黒を交互にしてまたやろうよ」
「断る」
「なんで」
「どっちの駒だか解らなくなるだろう」
自身の提案が却下されたにもかかわらず、 ロディマスは嬉しそうに笑っていた。 そんな姿に疑問を抱く。
「楽しいか?」
「え?」
「逃げを打ちながら私と話すのは面倒だろう」
「はは、 やっぱばれた?」
ばれちゃしょうがないな、 とロディマスは白黒に並べていた駒を綺麗に二分して並べ始めた。整理整頓が苦手なロディマスらしく並べたそばから駒をいくつか倒している。
「だって、そうでもしないとあんたとは話せないからさ」
「なに」
「… 俺達が個人の空間で会うのは危険すぎるし、 そしたらさ…」
四苦八苦していたロディマスだったが、 ようやく並べ終えたのかメガトロンの隣に来る。 そして、 メガトロンの指に自身の指を絡ませながら言った。
「こうでもしないとだめだろ」
メガトロンは、 握られた手を振り払うことも、 握ることも出来ず、 ただなすがままにさせていた。 それは控えめではあるが、 拒絶だった。 だが、 ロディマスは無視した。
「もう少し、 あんたのこと早く知りたかったなあ」
「…… もう充分だろう」
「そう? そんなことないだろ」
「こんなに危険な橋を渡る者と一緒にいたら、 いくつ機体があっても足りない」
「向こう見ずってよく言われるよ」
危険性は理解しているのだろうが、 これはあまりにも悪い。 だが、 ロディマスの素直さを失うのも恐ろしい。 明確に拒否できないのは、 それが理由だった。 そして、 ロディマスはその理由に気がついていて、 もてあそんでいるのがどちらか解らなくなった。
「はは、 でも、 あんたも意外に危険な橋を渡っているじゃないか」
「そんなことはない」
「嘘。 この手、 振り払わないのが証拠だろ?」
メガトロンが、 ロディマスに何か言おうとして…、 ロディマスがするりと隣から離れた。 瞬時に惜しいと思うも、 繋ぎとめることが出来なかった。
ロディマスが盤をはさんで向かいに座り、 女王を動かした。 それが、 何を意味するのか、 理解しようとしたときだった。
「…、 ロディマ…」
「おう、 マグナス」
「…… 何をしている?」
「ん? 何も。 息抜きに来たら、 偶然出くわしたんだ」
ロディマスは自身の副官にそういう。 メガトロンに懐疑の目線を向けるウルトラマグナスに、 ロディマスが言った。
「喧嘩すんなよな」
「私はそこまで幼稚ではない」
「そうか? で、 俺になんの用?」
ロディマスは、 ゆるゆるとウルトラマグナスを出口へと導いていく。 くだらないともいえる会話をしながら、 部屋を出て行った。
あとに残された、 女王は一人、 そこに立っていた。
ーーーーー
「どうしよう」
「…… 適材とはいえない」
「どうしよう」
データパッドを二人で囲みながら、 メガトロンとロディマスは話していた。 なるべく小難しい顔を作る努力をしながら、 だが二人は別に仕事の話をしているわけではない。
『あいつ早くどこかにいかないかな』
『そういっても仕方がないだろう』
『めったに時間取れないからはやくどこかにいってほしい』
二人で囲んだデータパッドには、 チャットが記載されていた。 ロディマスと、 メガトロンの密会は公の場で行われる。 だから、 時と場合によっては、 密会にならないこともある。 今がそのときだった。 待ち合わせ場所は、 みなが集うこの場所で、 だが、 夜になると比較的誰もいないときが多いこの場所で。
『あとちょっと待ってあいつがいなくならなかったら、 船長命令を使おう』
『職権乱用もいいところだな』
だが、 ロディマスが職権を乱用する事はなかった。 そのすぐあとに、 その場は二人のみになったからだ。
『行った?』
『聞こえる範囲ではそこにはいない』
くすくす笑いながら、 ロディマスが言った。
「ああ、 折れるなあ」
「いやなら辞めたらいい」
「それはもっと折れそう」
ロディマスは、 メガトロンの手に指を絡めた。 メガトロンはいまだに握り返したことがない。
「ふっへへ」
「なんだその笑い方は」
「んー? 別に」
なんだか楽しそうなロディマスが、 だが彼が楽しいならばいいかと思い、 メガトロンはそれ以上言うのをやめた。
「あんたにもらった本よんだよ」
「ちゃんと読めたか?」
「あんたがどんなこと考えてるのか気になって、 がんばってよんだんだ。 面白かった」
「初めて面白いといったな」
いくつかの本をロディマスに渡してはいたが、 結局途中で飽きたとか、 面倒くさいとかで全部よんだことはなかったはずだ。 だが、 少しずつ、 本を楽しめるようになったらしい。
「んで、 読んでるときにいろんな奴に心配された」
「お前は本を読むような者じゃないからな」
「額に手当てられて熱でもあるんじゃないかってさ、 すんげえ失礼だよなあ」
ロディマスが嬉しそうに笑う。 その額に手を当てた。
「お、おい…」
戸惑ったように、 声をあげるロディマスにメガトロンは言った。
「熱でもあるかと」
「…… ないよ」
「本当か?」
「ああもう、 はなせよ」
ロディマスが、 少し照れくさそうに言う。 気をよくしたメガトロンは言葉を続ける。
「明日は知恵熱がでるかもな」
「知恵熱?」
口角をあげるロディマスが、 知恵熱の言葉を調べたらしい。 そして、 むっとしながら言った。
「子供扱いすんな!」
ぺっと、 握っていた手を離して腕組みをしながらそっぽを向く。 だが、 そこから離れる事はしなかった。
「許せ」
「やだ許さない」
「子供だな」
「子供だからな」
しばらくそうしてたのだが、 徐々に何も会話がないことに違和感を覚える。 メガトロンが言った。
「許せ」
「やだ」
「こら」
そういえば、 ロディマスがむくれていった。
「キスしてくれたら許す」
「なに」
「ほら」
ん、 と差し出してきたのが頬だった。 その事に、 思わず笑みがこぼれた。
「頬か」
「え?」
ロディマスが、 なにか言う前に、 唇を奪った。 一瞬で離れたそれに、 眼を閉じる暇もなかったらしいロディマスの間抜けな顔が見える。
「な、」
「許せ」
「な、」
メガトロンが立ちあがって、部屋を出ようとする。 その背中に、 ずるいぞあんた!と叫ぶロディマスの声が聞こえた。
−−−−−
『またあそこで会おう』
そう送ったロディマスが、 もやもやしながら腕を組む。 さて、 自分達の関係はなんなのだろうか。
恋人… ではない。 ロディマスも好きだと告げたことはないし、 向こうからも言われた事はない。 口づけされたのはあの一度きりだし、 かといってロディマスから仕掛けることも出来ない。
周囲の反応をうかがっても、 それが公にばれた様子はない。 ウルトラマグナスには、 今まで戦ってきた相手だから、 理解をしなくちゃいけないんだとごまかしてある。
メガトロンを知れば知るほど、ロディマスには失いたくないものの一つになった。
多くを望んでいるわけではないと思う。
昔はがむしゃらに進めたのにな、 とロディマスはくすりと笑った。
ロディマスは机の上で、 腕を組む。 その腕の中に顔を埋めながら言った。
「すきだよ」
………ーーー 意識が浮上する感覚に、 ロディマスはぼんやりと眼を開けた。 すっかりうとうとしてしまったらしい。
「…、 い、ま何時…」
ふっと時計を見て、 ロディマスは驚愕した。 とっくの昔に真夜中だった。
急いでメッセージを確認して思う。 やらかしたと思いながら、 メッセージを組み立てて、 そして言い訳を考えながら…
『今人がきてたから待っー』
戸を開けそして、 目の前にいた人物に、 思わずメッセージを途中送信する。
「…… なんで?」
「… 嘘がばれたな」
「えっと… な」
「はいるぞ」
ロディマスが、 戸の前からどくまえにメガトロンが部屋に入り込んだ。 ぱたんと戸を閉めて、 電気をつけようとして、 背後から抱き締められた。
「え、 、…」
「何かあったかと」
「な、 なにかって…」
それきり何も言わないメガトロンに、 ロディマスがようやく言った。
「ごめん」
電気に伸ばした手を、 メガトロンの腕に添えた。
「もっと強く抱きついてもいいんだぞ」
「…… 黙れ」
「俺も抱きつきたいからちょっと離して」
ロディマスが、 機体を反転させた。 そして、 メガトロンの背中に手を回して言う。
「すきだよ」
END
鳳櫻月雨