絶望の月曜日




世間一般に月曜日には絶望が詰め込まれているものだ。土日の時間を楽しかったと綺麗に過去として片付けた上で、仕事に向かう足取りが軽い、寺子屋にいくのが楽しくて仕方がないという絶賛リア充はその幸せを誰かに分けてあげるべきだ。私はここに強く主張する。

「銀ちゃん、銀ちゃんってば。朝だよ、月曜日だよ」

「銀さんの脳内は毎日がエブリディで日曜日です。月曜日なんてございません」

「くるくるパーなのは髪の毛だけにしてください」

例えば月曜日の朝から布団とランデブーを決め込むこの男なんてどうだろうか。いや、この男に幸せなんて贅沢なものを与えてはいけない。与えるべきは仕事だ。来るもの拒まず、去るわず追わずなのはせめて恋愛だけの価値観にして欲しい。去る者だって這いつくばってでも引き止めて貰わなければ万事屋の経営はお先真っ暗、溜まった家賃もいつ返済できるのか検討もつかないのだ。

「無理。可愛い彼女がおはようのちゅーの一つでもしてくれない限り起きるの無理」

「じゃあ可愛い彼女探してくる」

「目の前にいるじゃねーか」

「それなんて口説き文句?」

「なまえちゃん専用口説き文句」

それでも強く言えないのは私が結局銀ちゃんに甘いからだろう。寝起きなのか普段通りなのか些か判断しにくい死んだ魚のような瞳が私を見つめたかと思えば、ゆっくりと手が伸ばされる。私だって早起きは得意ではない。温かい布団とそこに導く腕があったのなら飛び込む他ないだろう。待ってましたとばかりに包み込まれる力は強いわけでもなく、それでいて決して弱くもなく、ただ心地よい。

「あったかい」

「なまえの為に温めておきましたー」

「ぬくぬくだね」

「お前もあったけーな。なくさないように名前書いとこう。銀さん専用」

「そんなの書かなくても大丈夫だよ」

私は銀ちゃん専用だよなんて言おうものならこの男は確実に調子に乗るだろうから心の中に留めておく。それでも私を見つめてニヤニヤとだらしない笑みを浮かべているあたり考えていることはお見通しらしい。それがたまらなく悔しくて銀ちゃんの胸に顔をうずめてみた。ああ、このまま二度寝ができたのならどれほど幸せだろうか。ついでに目覚めたときに家賃が全て返済されていたのなら私はまだ見ぬ妖精さんを崇拝したい。

「何この子行動がまじ可愛いんですけど」

「これで仕事があれば何も望まないのにな」

「何この子かわいい行動しながら発言がまじブラックなんですけど。確実に俺の傷えぐりにきてるんですけど」

「働けニート」

「ひどい!なまえちゃんひどい!」

「働いてくださいニートさま」

「いやそういう問題じゃねーから。言い方丁寧にしても中身は」

「ニート」

「ただの悪口じゃねえか」

確かにニートは悪口に近いけれどそれに銀ちゃんが言い返すことが出来ないのも事実。かっこよく「銀さんはニートではありません」と言い返したいのならまずは働くべきである。それはこれ以上私が言わずとも当の本人も理解しているらしい。ぐしぐしと自身の頭を掻いた銀ちゃんは小さな音をたてながら私に口付けた。

「起きるか」

「うん。朝ごはんは卵ちょいかけご飯だよ」

「ちょいかけ」

「全かけを望むのであれば働くのだよ銀時くん」

「空から金が……降ってこねーかな…」

果たして今週は仕事を貰えるのか。溜まった家賃と溜まらない貯金を考えて絶望する月曜日。