一考の火曜日
万事屋とは便利なもので早い話がなんでもあり。なんでもありだからこそ受けた仕事には意義があるのだと信じたい。例えば行方不明になった猫を探すことだって万事屋にしかできない意義がきっとあるはずだ。
「こちらなまえ。見つかりましたかどーぞ」
「こちら神楽。全然見つからないアルどーぞ」
「なんかもう飽きたからあとは銀ちゃんと新八くんに任せようと思うよどーぞ」
「それがいいアル。あとはあいつらがなんとかするネどーぞ」
「聞こえてるぞてめーらふざけんなどーぞ」
私と神楽ちゃんを繋いでいた糸電話を容赦のないチョップで切り捨てたのはいつまでたっても猫を見つけることの出来ない万事屋のリーダーである。せっかく暇潰しに作った私の糸電話になんてことをするんだと銀ちゃんを睨みつければ倍の血相で睨み返された。なんだか蹴り上げたくなるほど腹が立つ顔だ。
「いやそれは元からか」
「何が元からだコラ。人の顔見て溜め息ついてんじゃねーよ」
「そうですよ!なまえさんも神楽ちゃんもしっかり探してください!じゃなきゃ明日から卵の殻を食べることになりますよ!」
「健気な女の子を前に平気で卵の殻宣告なんて残酷すぎるどーぞ」
「これだから眼鏡はいつまでたっても眼鏡アルどーぞ」
「あー…眼鏡どーぞ」
「最後はただの眼鏡じゃねェか!!銀さんまでどっちの味方なんですか!!」
新八くんに対する眼鏡は褒め言葉のつもりなのだが本人にはうまく伝わっていないらしい。それともただ照れているだけなのか。どこか素直じゃない新八くんのことだ、おそらくは後者だろう。眼鏡を受け入れて眼鏡として生きていく覚悟を決める日もそう遠くない話だと思えば感動で胸が熱くなるのを感じた。
「とにかく!効率よく探しましょう!見つけたあとに素早く捕まえることを考えて二手に別れて捜索。どうですか?」
「二手…?私と神楽ちゃん。銀ちゃんと眼鏡。新八くんは誰と組むの?」
「眼鏡を頭数に入れるなァァ!!なまえさんは僕の中で真面目な方なんですからこれ以上ボケを重ねないでください!」
「ごめんね、ふざけすぎた。冗談だよ」
「ぱっつぁんよォ、二手に別れることに異論はねェが俺はなまえちゃんとじゃなきゃ動けないし動かねーぞ」
「また銀ちゃんのわがままが始まったアル」
「いい大人がなまえなまえって…」
新八くんの溜め息を他所に銀ちゃんはピタリと私の隣について離れない。それだけならまだしも調子にのったこの男は堂々と腰に手をまわしてきたので思いっきり肘を打ち込んでおいた。まったく時と場所を考えて欲しい。呻き声をあげて地面に蹲る銀ちゃんはちょっと弱くて情けない。
「なまえ!見つけたら卵焼き作ってくれるアルか!?」
「うん、任せて!」
「ほらさっさといくぞ眼鏡。なまえの卵焼きがかかってるネ!」
「ま、待ってよ神楽ちゃん!じゃあ銀さん、なまえさん、頼みましたよ!」
「またあとでねー!」
駆け出して行った神楽ちゃんと新八くんを姿が見えなくなるまで見送ったあと未だに地面とこんにちは状態の銀ちゃんへと視線を移す。私だって毎日卵をかき混ぜるだけの料理は飽き飽きだ。出来ればかき混ぜたあとに焼くなりなんなりアレンジを加えたい。その為になんとしてでも猫を見つけださなくては。
「銀ちゃん、私たちも行こう」
「腹がよじれるゥウ」
「颯爽と猫を見つけ出すかっこいい銀ちゃんが見たいな」
「なまえちゃんがなんでもしてくれるなら頑張らないこともなくもない」
「なんでもってなんだろう」
「頑張らないこともなくもないようでないようでない。アレ?」
「お願いによるけどなあ。ホットケーキくらいなら作れるよ」
「よし言ったな。今夜はにゃんにゃんプレ」
「せーのっ」
渾身の力を込めて銀ちゃんの脇腹に拳を打ち込む。いくら銀ちゃんが強くても突然のパンチに耐えきれるような鋼の肉体は持ち合わせていないし私だってかなりの力を拳に込めた。必然的に銀ちゃんは低い呻き声をあげながら再び地面にひれ伏す事になる。そんな銀ちゃんに氷よりも冷たい視線を浴びせたあと私は一人で歩き出す。確か家には定春がいたはずだ、こうなったら私と定春のゴールデンコンビ結成でいこう。
やっと見つけた仕事にどうして私はこの人を好きになったのかと考え直す火曜日。