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あなたの愛人になりたいです。わたしは魔人でも悪魔でもない、ただの人間ですが。

「その前にお嬢さんはまだ子どもだ」

あなたはいつもそう言います。たしかにわたしはこの国ではまだ未成年です。

「未成年じゃなかったら愛人にしてくれますか?」

わたしは目の前に座るクァンシ様にそうお願いをしてみました。クァンシ様は煙草をくゆらせたままわたしをじっと見ていました。

クァンシ様には「私の女」という四人の魔人がいます。クァンシ様の愛人の方々です。クァンシ様と彼女たちが何をしているか、それが不埒だってこともわたしは知っています。じゃあ、そこに混ざりたいか。そう聞かれるとそうではありません。私はそんな広い心を持っていません。クァンシ様だけに愛されたいし、クァンシ様もわたしだけを愛してほしい。だけどそれはできません。わたしはクァンシ様の一番にはどうやったってなれません。クァンシ様は彼女たちを平等に愛しています。
こんなに好きなのに、愛しているのに、わたしは「未成年」だという理由でいつも断られます。

「クァンシ様、わたしはいつになったらあなたの愛人になれますか」

クァンシ様は黙ったまま、わたしを見つめてこう言いました。

「ナマエはタイプだけど、まだ子供だ」

なぜわたしがクァンシ様が好きなのか。どういうきっかけでこんな盲目になったのか。理由は簡単でした。クァンシ様はわたしを助けてくれたのです。悪魔に襲われそうになったわたしを。クァンシ様は一瞬で悪魔を殺してくれました。そしてわたしに手を差し伸べてくれたのです。こんなに綺麗でかっこいい人を見たのは最初で最後だとわたしの数十年しか生きていない人生の中で確信してしまったのです。

それからわたしはクァンシ様を追いかけました。会う度に愛人にしてほしいとせがみました。答えはいつもノーでした。理由はわたしが「子ども」だからです。それ以上もそれ以下の理由はありません。わたしは自分では子どもではないと思っていました。ですがどうしてもこの世界の未成年というカテゴリからはどうしても出れません。悔しくて、家に帰ると悔しくて泣いていました。あなたしかいないのに。わたしの人生を色づけてくれるのはあなただけなのに。早く大人になりたい。一日も早く。神様でもどうにもできないお願いでした。

わたしはあと一年足らずで成人になります。
キスもセックスも成人じゃなくてもできるのに。なぜあなたは未成年ということにこだわるのかよく分かりません。大人になればクァンシ様は私を愛人にしてくれるでしょうか。

誕生日の前日、両親から一枚の写真を見せられました。そこにはわたしと同じくらいの男の人が映っていました。両親は言いました。わたしが明日の誕生日を迎えて、成人になったらこの人と結婚しろと。お互いの両親が勝手に話し合って決めたことだそうです。向こうの男性の方も了承済みだとか。なにを言ってるのか分かりませんでした。
わたしはクァンシ様と一緒になるはずなのに。頭が真っ白になりました。わたしが唖然としている間も、両親はぺちゃぺちゃとよく回る舌で説得して来ました。早く跡継ぎが欲しいそうです。わたしの手を握りながら興奮気味に話して来ました。説得なんてしなくてももう決まっていることなのに。

成人になることはこんなに最悪なことだとは思いませんでした。
 
わたしはこの家を捨てることにしました。いい機会だったのかもしれません。お金のことしか考えていない両親、無愛想なお手伝い。馬鹿みたいに広い家。この家の全部が大嫌いでした。
成人になった瞬間、少ない荷物をまとめてお手伝いに見つからないように外へ出ました。家の敷地から出た瞬間、清々しい気持ちになりました。振り返るということはしていません。未練もない。もし、家の人間がわたしを見つけにきたら、クァンシ様はわたしを守ってくれるでしょうか。それとも、子どもだからといって差し出すでしょうか。

わたしはクァンシ様のところへ訪れました。クァンシ様はいつものように煙草を燻らせていました。わたしの手に持っている荷物を見た後にこちらをじっと見つめてきました。

「今日で成人になりました」
「成人になって最初にやったことが家出か」

クァンシ様には何もかもお見通しだったようです。ですが、これは家出なんてかわいいものじゃありません。わたしはもうあの家を捨てました。そう話すと、クァンシ様はまだ長く残っている煙草を灰皿に押し付けました。

「わたしはもう子どもじゃありません。わたしはあなたになら殺されてもいい。だって好きなんだもの」
「私に殺されてもいいの?」
「はい。殺してください。わたしはあなたになら殺されてもいいです。でもその前に愛人にしてください」
「いいよ」
「え?」

いいよ。愛人にしてあげる。クァンシ様は新しい煙草に火を点けると確かにそう言いました。クァンシ様の愛人にしてもらえるということを理解するのに数秒、いや数分かかりました。確かにいま、クァンシ様はわたしを愛人にすると言いました。そう分かった瞬間に涙がボロボロと溢れてきました。

「なぜ泣く」
「わからないです、でも、ずっと好きだった人に、愛人にしてもらえるなんて、わたししあわせです」

わたしは汚い涙声と顔をクァンシ様に晒してしまいました。見られたくなかったのに。わんわんと泣きました。

「泣き顔はまだ子どもだな」

クァンシ様は立ち上がり、わたしをぎゅっと抱きしめてくれました。クァンシ様の腕の中はとても暖かくてまた涙が溢れてきました。

「今まで未成年だからといって断った理由、わかる?」
「分かりません、」
「子どものうちは好きという気持ちと憧れる気持ちがあやふやだ。だけど、ナマエは成人になった今日、私の元へ来てくれた。わかる?」

私がこくんと頷くと、クァンシ様は額に小さくキスを落としてくれました。私はそれを真似て、少し背伸びをしてクァンシ様の頬にキスをしました。

「本当に無知で馬鹿だよ」

人生で一番の最高の誕生日でした。