チャンネルはそのままで
「あーーー!」
「苗字、静かに出来ないのか…」
「だってザップが!」
私の叫び声にスティーブンが眉をひそめる。でも仕方がないじゃないか!私が楽しみにしていたショートケーキも、私が楽しみにしていた番組も、何もかも彼に取られてしまったのだから。怒るなという方が無理な話しだ。
「お前だけのテレビじゃねえだろ」
「毎週この時間は私が楽しみにしてるドラマがあるの知ってるじゃん!」
「はぁ?知らねぇよ」
この男はいつもこうだ。知ってる癖に知らないふりをして人の娯楽を奪っていく。この間だって楽しみにとっておいたベーグルも少し目を離した隙にこいつーー否、このアホ猿が食べてしまっていたのだ。K・Kがわざわざ買ってきてくれた有名店の数量限定ベーグルだったのに!!ああ!
「いいから退いてよ!」
「残念〜!早い者勝ちだからなぁ」
「っ…!!」
舌を出して挑発してくるあほ猿の脛を蹴り上げる。私が先だった筈だ。毎週この時間、ここに先に座っていたのは私なのだから。
「痛っ!」
「ケーキだって私のなのに!」
「じゃあ名前でも書いとけばいいだろ!」
無残なケーキに涙が出てくる。泣き出しそうな私を察してかレオナルドがそそくさと事務所を出て行く。慰めてくれてもいいのに。
「ザップなんか大嫌い!アホ猿!」
もう1発蹴り上げる。
「〜〜っ!お前!」
「リモコン貸して!ていうか返して!」
「だからお前のじゃねぇから!」
「返せ!」「嫌だ!」の不毛なやり取りにスティーブンが頭を抱えているがこれはもう戦争なのだ。どれだけ手を伸ばしてもリーチの差でリモコンには指一つ触れられず、その度ににやりとザップが意地悪な笑みを浮かべる。それが余計に腹が立つ。
「どうした?全く届いてねぇな」
「なっ…!」
くそお!心底むかつく!
挑発に乗り、飛び付いたその瞬間。ザップがぐらっと体勢を崩した。
少女漫画さながらと言えばこれは伝わるのだろうか。驚きぎゅっと瞑った目を開けて、一瞬固まる。それは目の前のアホ猿も同じ様で少しの間があってから珍しく顔を赤くした。それを見て私の頬も赤く染まる。
「おっ…まえ!」
事故だ。これは100%の事故だ。強いて言えば女遊びが酷いザップが赤面しているのは至極気に食わないが、そんなこと言ってる場合じゃない。少女漫画の様なことをしてしまったのだ!!!我に返り慌ててザップの上から退く。また暫くの沈黙の後、「ごほん」と咳払いが聞こえた。
「お前らいい加減イチャつくなら他所でやってくれないか?」
チャンネルはそのままで
(心拍数を合わせたら)