怪獣の腕のなか
クラウスさんは大っきい。オマケに牙とヒゲでまるで風貌は怪獣みたいだ。そのくせ中身は無駄に純粋で優しい。初めて会った時、その見た目と中身のギャップにかなり驚いた。
「怪獣みたい」
1度だけそう言ったことがある。もちろん困った様に笑うだけだった。
「苗字」
「なんですか」
スティーブンさんに呼ばれて返事をする。向けばザップが嫌そうな顔をしてこちらを見ていた。失礼の塊みたいな奴だなあと思いながら睨み返す。
「だあー!やっぱこんな怖い女と2人で任務何て嫌っすよ番頭!犬女の方がマシっすわ」
「私だってこんなクズとは嫌です」
「まあまあ、そう言うなよ」
ははっと笑って流される。好きで怖い顔してるわけじゃない。
「クラウスの指名なんだ」
「…クラウスさんの」
そう言われては断れない。隣のザップを一瞥して溜息をつく。「それでも俺は嫌だ」と駄々を捏ねているザップの耳を引っ張りながら了承する。私だって嫌なんだから我慢ぐらいしてほしい。そのまま資料を受け取りザップを連れて事務所を後にした。
ーー23時間後。目を覚ました私が居た場所は病室だった。
「苗字!」
視界いっぱいに広がる病室の天井の端から聞こえるクラウスさんの声に顔を向ければ、心配そうにこちらを見つめていた。こんな時、笑えばいいのだろうが生憎笑うことは生まれてからずっと、下手くそだ。
「クラウスさん」
「どこか痛むところはないか?」
「強いて言うならクラウスさんが握ってる手がちょっと痛いです」
そう告げれば「すまない」と慌てて手を緩めた。謝りつつも離さないんだなあと考えてから任務のことを思い出す。罪悪感からか、失敗してしまったのではという動揺か、恐らくはそのどちらもの感情でクラウスさんから顔を逸らす。
「あの、任務はーー」
「どこまで覚えている?」
「ザップと2人で目的の物を回収し終えた所までは覚えてます」
その後確か大きな爆発に巻き込まれて、そこから先を覚えていない。思い出そうとすると痛む頭にぐっと眉をひそめる。頭でもぶつけたのか、包帯が巻いてある。
「そうかーー」
ややあって、クラウスさんが話し始めた。
「君は良くやったよ。折れたその足でエルダークラスのブラッドブリード相手に1人で子供達が乗っていたバスを守ったんだ」
「ブラッドブリード…」
「ああ」
「ザップはどうしたんですか」と聞く前にクラウスさんが「すまない」とつぶやいた。慌てて起き上がればじっとこちらを見つめるクラウスさんと目が合う。
「なんで謝るんですか」
「君を守れなかった、私の責任だ」
怪獣みたいな見た目をしてるくせして中身は本当に弱っちい人間だ。その優しさのせいで彼は幾度傷付いてきたのだろうか。
真剣なその眼差しに目をそらす。
「…ブラッドブリードはどうなりました」
「密封した。君のおかげだ」
私が怪我をしたのは自分の責任だって言うくせに、守れたのは私のおかげだなんて本当に人が良すぎる。眠る私の手を彼はどんな気持ちで握っていたのだろう。自分のせいだと責めていたのだろうか?
彼は常々人心の掌握について云々と言われているが、私はそんなクラウスさんにこうも胸を締め付けられているのだ。責任感と罪悪感と後悔と、様々な感情が心の中で目まぐるしく動き回る。
「クラウスさん達が来てくれるって信じてたから守れたんです、覚えてないですけど」
「…もっと早く着いていれば」
そう言って目を伏せる。思わず手を伸ばし頬に触れる。驚くクラウスさんの顔を見て我に帰り、慌てて手を離し取り繕う。
「気を使わせてしまってすまない」
眉を寄せ笑うクラウスさんにチクリと心が痛む。どうしてこんなにも強く優しい彼が傷付かない方法は無いのか。彼が世界を救うのなら彼のことは誰が救ってくれるのだろうか。
言葉にしようと口を開くが上手く声にならない。言いたい事はたくさんあるのに、それを伝える事が私には出来ない。私には脅威から守る為の力も、彼の信念に割って入る勇気もなにも無い。ただ、背中を見上げながら後ろを走ることしか出来ない。
「…そのヒゲ、本当に怪獣みたいですよね」
誤魔化す様にそう言えば、変わらず困った様に笑った。
怪獣の腕のなか
(いつか笑っちゃうぐらい抱きしめさせて)