おかえりなさい
バイクの音で目を覚ます。
窓の外はまだ真っ暗でベッドに潜り込んでからまだ数時間しか経っていないのが分かった。起きがけのぼうっとした頭と、ガンナーから貰ったくまのぬいぐるみを抱えて暗い通路を抜ける。きっとガンナーは私をまだ幼い子供か何かだと思っているのだろう。
薄っすらと明るい所へ出れば、バーニーとリーがそこにいた。仕事から帰って来たばかりなのだろうか、まだ新しい小さな傷がいくつか見える。こちらに気付く様子は無さそうだ。
「おかえり」
私の声に2人が振り向く。
「ああ、悪い起こしちまったか」
「ううん帰るの待ってたから大丈夫」
珍しく優しいリーの隣に腰掛けて、リーが手にしている瓶を手に取る。お酒の匂いが鼻を掠める。
「私もお酒飲みたい」
「酒?ガキにはまだ早いだろ」
「お前はこっちだ、名前」
そう言ってバーニーが私の手から瓶を取り上げ、代わりにジュースが入った瓶を手渡してきた。ああ、みんなして子供扱いしやがって!
「…いらない」
無理やり手渡された瓶を押し返す。
「そんなぬいぐるみ抱えたレディに酒は似合わねえだろ?なあ、バーニーパパ」
「誰がパパだ」
「これはガンナーがくれたんだもん」
前言撤回。珍しく優しいなんて思い違いだった。いつも通り意地悪だ。
ぬいぐるみを庇う様にリーを睨み付ける。確かに子供っぽいかも知れないし、私だってまるで子供へのプレゼントだと思ったけれど、それでもガンナーが私の為に選んでくれた物に変わりは無い。
「そう怒るなよ。似合ってるぞ」
ははっと笑うバーニーに何も言えず口を尖らせる。
「ほら、そのくま連れてベッドに戻れ」
「…まだ起きてる」
「ほどほどにな」と言って煙を燻らせる。煙草は嫌い。煙は咽せるしあの独特の匂いが鼻につくからだ。でもバーニーの葉巻はなぜか落ち着く。机に伏せて目を閉じれば安心に満たされる。
「眠たいならベッドで寝ろ」
「うるさいなあ、リー」
「人の優しさは素直に受け取れよ」
「ここがいいの!」
「そもそも起きてるんじゃなかったのかよ」
「起きてるじゃんか」
ああ言えばこういう!
そっぽを向いて無視をすれば、バーニーが着ていた自分の上着を私の背に掛けた。
「せめて羽織ってろ」
「ふふ、バーニーの匂いがする」
「汗と血の匂いか?」
「ううん、葉巻の匂いだよ」
改めて2人が帰って来たことに安堵し目を閉じれば、ごつごつとした手が頭を撫でた。
おかえりなさい
(今日は近くで眠らせて)