「…」

無言で冬の校庭に足をつく。やはり寒いとういうこともあり、コートで温まっていた体は一気に冷える。やっぱり、冬休みでいないだろうから今なら校庭独り占め出来る!と高速バスで考えていた私は馬鹿だ。校庭に背を向けて歩き出そうとすれば、「あーっ」という叫び声で足を止めさせられる。

「苗字ー!」
「げっ。さ、沢村」
「新年あけおめ!ことよろっ!ところで、苗字は何してたんだ?」
「そんなこと聞かないで。ところで、沢村も何してたの?」
「俺はまだ寮の部屋が空かないから校庭を走ってた!」
「御幸先輩は?」
「まだ実家にいる!」
「そりゃ空かないわ。とりあえず、寒いしカフェ行かない?」

私の提案に頷く沢村。よかった、寒い校庭から解放される。私はキャリーバックを持つ。「沢村の荷物は?」と聞けば、「荷物持ちながら走ってた」とドヤ顔をされる。あんたは馬鹿か。とツッコミをしたいけれども、寒さには勝てず青道高校の近くにあるカフェに入る。やはり、冬休みだからだろうか学生の生徒はおらず、お店もがらん。としてた。席に案内され、座るとコートを脱いで足元にブランケット代わりに敷いた。

「飲み物どうするの?」
「俺は牛乳!」
「じゃあ、決まりね。すみません」

店員さんを呼び即座に注文を済ませる。ふぅ。と一息つくと沢村を見れば、メニュー表を見て険しい顔で震えていた。どうしたんだろうか。

「何?」
「お、おまっ」
「う、ん??」
「珈琲のめ、飲めるのか?」
「あれ言ってなかったけ?」
「おう。俺は聞いてないぞ!」
「けど、御幸先輩は知ってたけど…?」

ん?と首を傾げれば、また険しい顔に戻る。というか、私の大の珈琲好きということは私と沢村が通っている青道高校では結構有名で、たまに同級生や先輩からドリップ珈琲などをプレゼントされる。御幸先輩にも帰りの時にコンビニの珈琲を奢られたことがある。

「ぐぬぬ。彼氏の俺にも言っておけ!」
「なんで?沢村に言っても珈琲くれないじゃん」
「うーむ。じゃあ、俺は珈琲をあげられない代わりにこれをやる!」

沢村は辺りをキョロキョロと見まわせば、メニュー表で私の顔を隠したかと思えば私の唇を自分の唇で塞ぐ。当然、息も出来ないので唇を開こうとすれば沢村は舌を出して私の唇を舐めると解放してくれた。

「なっ」
「じゃ、じゃあな!御幸来たから寮戻る」
「待って!」

と、私が手を伸ばしたけれども沢村の手は届かなくて、沢村は顔を茹蛸のように真っ赤にしながら自分の飲み物代と自分が着ていたジャージを私に渡せば、店内を後にして学校の方向へと急いで走っていった。置いてけぼりにされた私は同じく茹蛸のように顔を真っ赤にしながら、沢村の匂いが染みついたジャージを羽織り残りの珈琲の味を楽しんだ。



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