奈良シカマルの場合
賑やかな商店街、肩を寄せあって歩くカップル、重そうな書類の束を持って火影室へと向かう忍。
もうすぐ夜だというのに木の葉の里はたくさんの人で溢れていて、あたしはそんな人達を大きな火影岩の上から静かに見下ろす。
今日でこの景色も見納め、か。
嫌になった。例えば、両親が里抜けした事であたしに向けられる、里のみんなの冷たい目とか。簡単な任務でミスをしてしまって、結局失敗に終わってしまったあの日の事とか。
死のうと思った訳じゃない。ただ、あたしはこの世界に必要とされてないから、それだったらいなくなってしまおう。そんな風に思っただけ。
「きれーな夕焼け…、」
最後に見るのには充分すぎるくらい綺麗な景色を目に焼き付けて、足を1歩、また1歩と前に踏み出す。
ぐちゃぐちゃになった体は誰が処理してくれるのかな。きっと死んでからも向けられる目線は冷たいものなんだろう。本当にどうしようもないな、あたしの人生は。
「あの、」
あと1歩で飛び降りる、いいんだか悪いんだか分からないタイミングで話しかけられて、思わず足を止めてしまう。
「……なんですか、」
「…何、してんすか。」
いきなり何だろう、何してるかなんて見ればわかると思うんだけどな。
そういえば聞いた事のある声だな、なんてふと思って顔だけ振り向くと、声の主はついこの間の任務で一緒になった奈良一族のシカマルくんだった。
「何って…、」
「飛び降りるんすか、」
「……だったらなんですか。」
この人って結構無神経なのかな。普通そんな事は聞かないと思うんだけど。しかも、自分で飛び降りるんですかと聞いておきながらその顔はとても面倒くさそう。
「…綺麗な夕焼けっすね。」
「は?……あー、そうですね。」
「人生最後に見る景色って、どんな風に見えるんすか。」
「……今日で良かったです、死ねるのが。」
それくらい綺麗に見えます、と続けて言えば、シカマルくんはこっちに歩みを進めて、立ったままのあたしの横にすとんと腰を下ろす。何だろう、もしかして夕焼けを眺めに来たのかな。そうだとしたら申し訳ないけど別の場所にしてほしい。…いや、あたしが移動すればいいのか。
「あ、あの、ごめんなさい、邪魔しちゃって。」
「…?何の事っすか?」
「夕焼け、見に来たんですよね?あたし移動するんで。それじゃあ、」
「、ななしさん。」
最後に変な会話したなあ、できれば誰とも話したくなかったんだけど。誰かに任務以外で話しかけられるなんていつぶりだろう、つい反応してしまった自分を責めたい。
呑気にそんな事を考えながら、別の場所へ行こうとくるりと体の向きを変えて歩こうとした時、ふと名前を呼ばれた。立ち止まって声のした方へと視線を下げると、真剣な表情をしたシカマルくんがこっちを向いている。
「…あんたが里から良く思われてねーのは知ってる。理由も、親父から聞いた。」
「…………。」
「歳もちげーし、任務だってなかなか一緒にならねーから…ななしさんの事、それくらいしか知らねーんだ。」
いきなり何を言い出すんだろう、この人は。言いたい事がまるで見えずに、あたしの頭にはハテナマークがたくさん浮かぶ。
確かにシカマルくんとは歳が3つ違う。それにあたしの得意な忍術も奈良一族とは相性があまり良くないから、任務も中々一緒にはならない。
でも、もうそんな事はどうでもいい。今更関係ないし、あたしは今から死ぬんだから。
「…あの、」
「っ、俺は、あんたの事…もっと知りてーって思う。」
「…………え、」
そう言って立ち上がったシカマルくんはあたしの手首をぎゅっと握って、さっきよりも優しい表情であたしを見つめる。
知りたい、なんて。
あたしの事を知りたいなんて、今まで生きてきて初めて言われた。なんであたしなんか。きっと周りからやめとけって言われるよ、こんな奴と話してる所見られたら。…でも、嬉しい。
たくさんの感情が入り交じって、ぽたり、ぽたりと涙がこぼれる。
「だから、」
「……?」
「飛び降りるのは…、保留にしてもらっていいすか。」
引っ込め、引っ込めと思っても涙はぼたぼたとこぼれて。答えたいのに、ひっ、と喉が鳴ってしまってうまく喋れない。こくり、と首だけを縦に振ると、涙でぼやけるシカマルくんの顔が少し笑ったような気がした。
奈良シカマルの場合
(初めて会った時から、気になってた)
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