第5話
「やばい、暇すぎて死にそう。」
1週間休みますと言ったはいいものの、特にやりたい事も行きたいところもないあたしは盛大に暇を持て余してる。
休み、3日くらいにすればよかったかなーと後悔していると、ふと部屋にかけてあったドレスが目に入る。
そうだ、ドレスを見に行こう。ついでに私服と化粧品も買っちゃお。
そうと決まれば早く行かねばと支度をして、戸締りを確認してから家を出る。
……
「いらっしゃいませー」
木の葉のネオン街の隅にある小さなドレス屋さんに着いて、可愛いのはないかなと端から順に見て回る。
カラフルで男の人を魅了するように作られたドレスはどれも華やかで、どれにするか迷ってしまう。
「あれー?ななしちゃんじゃねえか。」
「あ、ゲンマさん!」
うーんうーんと悩んでいると店の外から声を掛けられて、誰かと思えばゲンマさん。
明るい所で会うのはこれが3回目。他の客はみんな結婚してたり子供がいるからなかなか街であっても声を掛けられることはないけど、ゲンマさんは結婚もしてないし彼女もいないらしいから、会えば普通に声を掛けてくれる。
生まれた時からこの里に住んでいるのに親しい人がいないあたしは、たまにこうやって話しかけられるのがちょっと嬉しかったりする。
「なんだ、休みか?」
「そうなんです。ゲンマさんはお仕事ですか?」
「ああ、この辺の見回りだ。もう終わって帰る所だったんだよ。」
お疲れ様ですと言えばありがとうと笑顔で返されて、店の外で会うゲンマさんもかっこいいななんて少しだけ見惚れてしまう。
「ドレス選んでんのか?」
「はい。今のやつ長いこと着てるんで。…あ、」
「ん?なんだ、」
どうせだったらゲンマさんに選んでもらおうかな。こういうのは男の人に聞いた方がいい気がするし。
どうしたと聞くゲンマさんにこの後予定ありますかと問えば別にないと言われて、もしよかったら一緒に選んでくださいとお願いしてみる。
「3代目に報告し終わった後でもいいか?」
「あ、はい!すみません。」
「ななしちゃんからのデートのお誘いなら断わんねーよ。じゃあ、ちょっと待っててくれるか?」
すぐ戻ってくると言い残して走って行くゲンマさんを見送ったあと、店員さんにもう少し居させてくださいと言えばもちろんですと笑顔が返ってきて、この里はいい人ばかりだなーとしみじみ思う。
……
「悪い、待ったか?」
「いえ、全然。」
きっと急いで来てくれたんだろう。ゲンマさんの息は少し上がっていて、急がせてごめんなさいと謝れば俺がななしちゃんに会いたかったからいーんだよと頭を撫でられる。どうしようかっこいい。
「で、どういうのがいいんだ?」
「あの…、ゲンマさんはどういうドレスが好きですか?」
「俺っ?俺はななしちゃんが着てれば何でも好きだけどなー…、お、これとかどうだ?」
そう言って渡されたのは体のラインが出そうな、デコルテと谷間が強調されるように作られたレースの袖付きドレス。
首元が袖と繋がっているそのデザインは可愛いけどいやらしくもあって、ゲンマさんはこういうのが好きなのかと考える。
「、ゲンマさんのエッチ。」
「なっ…!!ちげーよ、俺は」
「嘘ですよ。可愛いですね、これ。決めちゃおうかなー。」
意外と可愛い反応するんだなあ、からかっただけなのに。
少し顔を赤くして必死に否定しているゲンマさんは、ベッドの上で見る表情とは全く別で、そのギャップに胸が少しきゅんとする。
「何着かあった方がいいんじゃねーか?」
「あ、確かにそうですね…。じゃあこれの色違いと、このワンピースっぽいやつにします。あと、ヒールはこれにしようかな。」
「おー可愛いなこれ。どれ、」
「え?あ、ちょっと、!」
ドレスとヒールを持ってスタスタとレジに行ってしまう。待ってくださいと言うあたしの言葉を無視して店員さんにお金を払っているゲンマさんに自分で払いますと言えば、俺からのプレゼントだよと返されて、すみませんと謝るとまた頭を撫でられる。
「そこはすみませんじゃねーだろ?」
「あ…、ありがとう、ございます。」
「ん。」
じゃーな姉ちゃんと店員さんに声をかけるゲンマさんの後に続いてあたしも店を出る。
優しい彼氏さんですね、と小声で言われて思わず顔が赤くなってしまって、違いますよと小声で返すと店員さんはニコッと微笑んでまたお待ちしてますとお辞儀される。
「あの、本当にいいんですか?」
「いいんだよ。それより…、ななしちゃんは飯食ったか?」
「ありがとうございます、大事に着ます…!材料は買ってあるのでこれから家で作るつもりなんですけど…よかったら、家来ますか?」
「へっ?!い、いいのか?俺、客だけど…、」
「ドレスのお礼もしたいし…それに、」
もう少しデートしたいですと言うとゲンマさんは少し顔を赤くして、じゃあ、邪魔するぜと照れたように言うから、今更なんて大胆な事を言ったんだとあたしも顔が赤くなる。
ゲンマさんは大事なお客様のはずなのに。お客様を家に誘うなんて、あたしどうしちゃったんだろう。
…きっと人肌恋しくなったんだ。無理矢理そう思うことにして、こっちです、とゲンマさんに道案内をしながら家へと向かう。
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