第6話
「お邪魔、します、」
「どうぞー。わ、服脱ぎっぱなし!…ごめんなさい、散らかってて。」
…おい、本当に来ちまったけど…どーすんだ、俺。
客だから家に行くのはまずいんじゃねーのかと聞けばもう少しデートしたいですと言われて、そんな事を言われたら多少なりとも期待してしまうのは男だからしょうがない。
ここは一旦落ち着こう。いいか、ななしちゃんはきっと人肌恋しいだけだ。前に身寄りがないというのは聞いた事がある。親しい人がいないとも。うん、きっとそういう事だ。
「全然散らかってない、むしろすげー綺麗にしてんだな。さすが女の子。」
「でもね、ちょっと狭いんですよ。近々引っ越そうかと思ってるんです。」
あ、適当に座って下さいと言われてとりあえずソファーに座ると、灰皿と飲み物をパパッと出してくれる。
店で会ってた時も思ってたけど、気遣いのできる子だなーなんて感心していると、隣にななしちゃんが腰掛ける。
「一服したらごはん作りますね。」
「おー、ありがとな。そんな急がなくてもゆっくりで大丈夫だ。」
そう言うとななしちゃんはありがとうございますと言って、コーヒーをひと口飲んだ後、ドレスの入っている袋に手をかける。
わー可愛いなあ、仕事で着るのもったいないと嬉しそうに呟いて、ひとつひとつタグを切っている姿は何とも可愛らしい。
「前のやつは捨てんのか?」
「うーん、そうですね。お店で仲の良い子がいたらあげるんですけど…そういう子いなくて。」
「なんかもったいねーな、まだまだ着れそうなのに。」
「よかったら着ますか?」
「誰が見てーんだよ、俺のドレス姿。」
自分で想像したら吐き気がしてきた。横を見るとななしちゃんはケラケラと笑いながらドレスと靴を綺麗にたたみ直して、仕事用であろうバッグに詰める。
そして煙草に火をつけてふーっと煙を吐くとまたマグカップに口を付けて、下唇についたコーヒーを舌でペロリと舐める。その仕草が妙にいやらしくて目を離せずにいると、俺の視線に気づいたのかななしちゃんがくるりとこっちを向く。
「お店の時と顔違いますか?」
「は?なんで?」
「だってずっとこっち見てるんですもん。」
「ちげーよ、見惚れてたんだよ。」
冗談っぽく返せば少し照れたような顔をして、くるりと正面を向きながらなんですかそれと小さい声が聞こえる。
度々からかうように見惚れてんだとか可愛いとか言えば、毎回こういう反応をするからこっちまで恥ずかしくなってくる。
「よし、そろそろ作ろうかな…、あれ、」
「?、なんだ?」
立ち上がってこっちを見たかと思えばななしちゃんの視線は俺の腕に向いていて、何だと腕を確認する前に細い指がその場所に触れる。
「これ…、切れちゃってますね。」
「え?…ああ、これか。こないだの任務で切れたの忘れて着ちまったんだなー。捨てねーと。」
「…もしよかったら、縫いましょうか?」
いいのか?と聞こうと視線を移せば思ったよりも近くにななしちゃんがいて、胸がドクンと鳴った。
あー…唇、ちけー…。
キスしてぇ、と思う気持ちを必死で抑える。忘れそうになってたが俺とななしちゃんは客と嬢だ。それ以上でも、それ以下の関係でもない。金を払わなければそんな事をしてはいけない。
頬を撫でようとした手を下ろしてわざとらしく襲うぞと言えば、何言ってるんですかと腕をペシッと叩かれて2人の距離が開く。
「もう、ゲンマさん冗談ばっかり…!ごはん作るから、大人しくしてて下さいっ!」
「照れてんのか?可愛いなあ、ななしちゃん。」
「ーーっ、!ほんと、怒りますよっ!」
ごはん、作ります!とぷりぷりしながらキッチンに向かうななしちゃんの後ろ姿を眺めた後、ソファーにごろんと寝転んで目を閉じた。
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