放す


さっきまで明るかった空があっという間に暗くなって、きらきらと星が輝いている。今日は空気が澄んでいて、見える星もいつもよりたくさんだ。はぁ、と小さな溜息をひとつついて、ベランダに干していた洗濯物を部屋へ取り込む。



「やっぱり今日も帰ってこない、よね…。」



小さな独り言のつもりだったのに、がらんとしたリビングにはよく響いた。なんだか虚しくなってテレビを付けると、画面の向こうには楽しそうに笑う人達が映っている。最近、笑ってないなぁ。最後にあんなに笑ったのはいつだったっけ、なんて考えながら、取り込んだ洗濯物を自分の分とシカマルの分とに分けながら畳む。

いつからだったかな、任務だと嘘をつかれて他の女の所へ行くようになったのは。

浮気なんてそのうちやめるでしょ、なんて思って無理に問い詰めたりしなかったのが悪かったのか、それとも最初から諦めていたのか。どちらにしても、シカマルとの恋愛はもう終わっていたんだろう。それでもこうして一緒にいるのは、あたしがシカマルから離れたくないと思っているから。



「よし…、終わった。」



ふと時計を見ると、もうすぐ23時になろうとしていた。…うん、きっと今日も帰ってこないな。

今日の家事は全部終わってしまった。あとはテーブルの上を片付けて寝るだけ。このまま待っていてもきっと無駄だし、さっさと片付けて寝てしまおう。そんな風に思っていたら、ガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえて、思わず心臓が跳ねる。



「…起きてたのか。ただいま。」

「おかえり。もう寝るところだったよ。」



そう言いながら目線をシカマルに合わせると、右頬にきらきらと輝く粒子を見つけた。それも、たくさん。その瞬間、あたしの中の何かが音を立てて壊れていく気がした。今日の星空みたい、なんてくだらない事を考えながら立ち上がり、テーブルの上にあった化粧落としを1枚取ってシカマルに近づく。シカマルは訳がわからないのか、不思議そうな顔をしてあたしを見つめている。そっか、気付いてないんだね。…もう、気にしてもくれなくなったのかな。



「ななし…?どうした、」

「…次の子には、こんな事しちゃだめだよ。」



そう言って、優しくシカマルの右頬をシートで撫でる。近づくと甘ったるい香りが鼻をかすめて、無意識に涙がぽたりとひと粒こぼれた。



「…ななし。」

「バイバイ、シカマル。…荷物とか色々、なんとかするから。」

「ちょっ…おい!ななし!」



引き止めるシカマルの声も無視して、玄関のドアをバタンと閉める。しばらく歩いていると、突然堰を切ったように涙が溢れ出して、近くの路地裏に駆け込んだ。好きだけどさようなら、なんて無理に大人ぶって馬鹿みたいだ。止まらない涙を拭いもせずに、あたしはずっと泣き続けた。





放す
(自分から離れたくせに)
(もう、会いたい)

















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