落歌生

それは、海に沈んだ物語

海賊は水底にいる/海賊は皆、其処にいる
海月のように、揺蕩う様に
やがて分解されるが人生さ
勇猛果敢に参りましょう
温和で穏やか、時には苛烈
海ってそういうものでしょう?
海中時計
海底神殿

魚(うお)の棲家の昔の家主
いつか、ほしの王子が
ゆらめく陽射しを見上げてみれば
そこにはいつも、茹だるような恋がある
アトラス・アトランティカ
光のあぶくは掴めない
人魚のくちづけ、魔女の妙薬、そしてそれから
水中銀河
綺麗な御髪もままならぬ

全ての稚魚たちへ
生ける化石は語りつぐ
珊瑚の死骸も斯く語る
むかしむかしの定かですらない物語
「そう、そこにはかつて、七海を統べた海賊どもがいました」
板の上で星の瞬きの如き生を歌い
荒波に揉まれ(飢餓と過越を越え)
すべからくを手中に収めたあとで
最期に宝も船も、自身も母へと還した
そういう男がいたのです
けれど愛や夢という名の得難い宝は
見るも無惨に奪われて
それは、海に沈んだ物語。
揺らめく夢の、物語。

その日私は、悠然と海の空を泳ぐ薄藍の鮫を見ました。
薄藍の鮫は、けれどもこちらに気付くことはなく、ゆったりと海に差し込む光に影を作っていきます。
空も海も、私にとってはひとつだけれど。けれども、いつか本物の青空というものを見てみたいのだと、私は幼心に思うのです。
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