「お前が苗字名前か?」
俺様がスーパーにやって来ました。
「……」
「何だ、違うのか」
「違います」
なんでか知らないけど、この人に関わったら、すごく面倒だと私の本能が告げている。
ってか日本人離れした感じの顔だなー、どっかとのハーフなのかな。
「じゃあ、苗字を呼んでこい」
は? 何言ってんだろ、この人。呼び捨てだし、とっても偉そう。私この人のこと知らないんだけど……とりあえずムカついてきたよ。
「嫌で、」
「名前ちゃん?」
千石さんがナイスタイミングで話かけてきた。ほんと、ナイスなタイミングです……。
あぁ俺様野郎の顔がめっちゃ歪んでますね。逃げれると思ったのになー。
「名前ちゃんってば、どうしたの?」
こんな時でも千石スマイルなんですね。可愛いですけど、安売りしすぎっす。
顔の歪んでる俺様野郎とスマイル0円千石さんに挟まれて、ただただ固まるしかありません。もう今日のバイト終わったし、はやく帰りたいんだけどなー。
「何、溜息ついてやがる、しかもこの俺様を欺きやがったな?」
あっ俺様復活した。
「この人名前ちゃんのお友達? 忍足君と同じ制服みたいだけど……」
忍足君? 私はじっくりと俺様を見てみた。確かに同じ制服、って事はコイツも
「……氷帝?」
「何だ、見惚れてんのか? まっこの俺様を前にしちゃ仕方ねえ事だ」
「誰がっ」
思わず反論してしまった。
「ふんっ、やっぱりお前が苗字だろ?」
わーお。断定されちまった。にやにやしてるし、まっここはとりあえず
「ヒトチガイデス。千石サンシツレイシマス。」
否定でしょ?
方向転換して、歩き出そうとしていたのに……。何で? 何で、俺様に腕掴まれてるんでしょうか?
「逃げてんじゃねーよ」
そのまま、腕を引かれて連れていかれる。
こっこいつ力強い! 全力で反対の力使ってんのにびくともしない。
「誘拐サレルータスケテー」
とりあえず助けを求めてみた。
「てめっ余計な事言ってんじゃねーよ」
いやいや、あなた誘拐犯でしょうが!! 千石さんに助けを求めようとしたら、にっこり手をふられてしまいました。
もう今、千石スマイルなんて要らないんだから!!!!
俺様野郎に連れてこられたのは高級感にあふれるマンションでした。
「ほらっインターホン押しやがれっ」
ココハドコ?
もう抵抗するのも面倒なので、素直にチャイムをならす。
ガチャッ
「えっ」
バタンッ
……嘘。開いたドアから出てきたのは、私が会いたいと思っていた人。
忍足君だった。すぐドア閉められたけど。何で? ここに忍足君がいるの?
「オイっ忍足、俺様だ。開けやがれ」
そんでコイツは何なんだ?
俺様野郎がドアを叩いてる。私はただ呆然と隣に立ち尽くしている。
頭がぜんぜん追いついてないよ、誰かちゃんと状況を整理して欲しい。
ガチャッ
再びドアが開いた。
「やっぱり跡部か、苗字さんを連れて来たんわ」
忍足君の表情はどこか呆れている。
「ふんっ俺様がわざわざ出向いてやったんだ、感謝しなっ」
どこまで偉そうなんだ、この人。
「跡部のせいで苗字さん、固まってしもうてるやん」
おーいと目の前で手を振られ、やっと私も覚醒した。
「誰が、誰が、感謝するか、立派な誘拐だろうが、この俺様野郎っ」
……思わず言ってしまった。二人共固まってるし、立場逆転ですね。はぁやってしまった。
「……くくっ、苗字さん面白すぎるで、跡部に向かって俺様野郎なんて、直球すぎるやろう」
忍足君は本当に可笑しそうに横腹を押さえている。俺様野郎は眉間に皺がよってるけど気にしないことにする。
「まぁ、ひとまず上がりいや、二人人とも。…くくっ」
まだ引きずってるらしい。上がれって事は忍足君の家なのかな?
「お邪魔します」
何だか変なことになった。
「で、何がどーしてこうなったんや」
リビングに通され、部屋の真ん中にあるソファに三人で腰掛ける。って言ってもかなりデカイからお互いのスペースもちゃんとある。
「勝手に連れて来られたんですよ。バイト終って帰ろうとしたら、そこの俺様野郎に」
ちょっと告げ口みたいになっちゃった。でもまぁいいや、俺様ムカつくし。
「ったく跡部のやつがごめんな」
「いえ、忍足君は悪くないですから」
俺様野郎をギロリと睨んでみたが、のうのうと紅茶飲んでやがる。
「……なんで敬語なん?」
「えっ」
関谷君の言葉にドキッとした。そう、映画を一緒に見に行ったときは敬語を使ってはいなかったのだ。
しかし一度遠くに感じてしまったので、いきなりなれなれしくすることに抵抗があった。
「まったくお前のせいやで、跡部。せっかく友達になれたと思っとったのに。こんな変な奴と友達なんて退かれてもうたわ」
忍足君も俺様野郎を睨む。でも、ふざけてって感じ。
ってか
「友達!?」
思わず声を上げてしまった。
「ん、どーかしたん?」
「あ、私達ってお友達ですか?」
声が上擦る。
「おん、そやろ?」
どうしよう、嬉しい。
「……」
言葉が出ない。なってもらおうと思ったのに。
何も言わない私を不思議に思ってか、忍足君は首をかしげている。
「俺は、そのつもりやったんやけど……」
「嫌やろか?」
そんな事
「違いますっ! その、、私、今度会ったら友達になりたいと思ってたから」
その先は言葉を濁した。だから嬉しいなんて、恥ずかしいよ……。
「よかったわ、ひとりずもうやなくて」
「そ、そんな」
「ほんなら、もう敬語はなしな?」
「……うん」
「オイッ俺様を無視すんじゃねー」
あっこの人忘れてた。そういえば……。
「どうしてこの人私の事知ってるの?」
そう、さっきからコレが分からなかった。何で連れてこられたのか。
「この人じゃねぇ、跡部景吾だ。覚えておきやがれ」
「嫌」
「くくっ」
またまた忍足君を笑わせてしまったようだ。
「で、どうして?」
私はとりあえず隣で固まっている跡部さんはほっておいて忍足君に話かけた。
「それは……」
ピンポーン
また誰か来たみたいだ。
「なんやまたお客さんか、ちょっとまっとってや」
ガチャッ
忍足君がリビングに戻ってきた。ん? なんかいっぱい居るぞ。
「あー!!!コイツこないだ侑士とデートしてた女だ!!」
「えっ」
忍足君の後ろから出てきたおかっぱの子が叫んだ。
「本当だCー宍戸」
「あぁ、そうみてぇーだな」
さらに後ろから金髪の男の子と帽子を被った男の子が出てきた。
「こないだ先輩達が話してた人ですか?」
「長太郎、のり出してくるなよ」
今度は年下っぽい男の子。デカイ。何人居るのよ?
「先輩達こそ邪魔ですよ、はやく入って下さい」
マッシュヘア?
「ウス」
巨人さん?
一体何の軍団なのか……。個性ありすぎでしょ。
「遅かったな、お前ら」
あっ跡部さんが復活してる。
「やっぱり跡部が呼んだか」
跡部君、呆れ顔だな。大家族のお母さんみたいな顔してるよ。
「おう、たまには忍足ん家でメシもいいだろってな」
帽子の子が元気よく答えた。
「跡部先輩、忍足先輩に許可とって無かったんですか?」
「んなもん俺様には必要ねー」
「メシっても家にお前ら全員食わせてやれるだけの食材ないんやけど」
「フッ食材なら用意してやったぜ、樺地」
「ウス」
巨人さんがダンボールを持ち上げた。
………。完璧置いてかれてます。何なのこの状況、誰か説明をお願いします!!!
一人取り残されてぽかんとしていると金髪の子が近づいてきた。可愛いな、おい。
「ねぇ君、忍足と付き合ってるの?」
「えっ違いますよ!」
「違うのぉ?」
「はい、そのなんというか……友達です」
友達と口に出せることが嬉しくて自然と笑みがこぼれてしまう。
「可愛いC!」
いやいや、君のが可愛いからね、うん。
「君、名前なんていうのぉ?」
「苗字2#です」
「苗字ちゃんかぁー。よろしくねぇ」
金髪君が手を出したので、握り返すとブンブンと思い切り振り回された。
「で、あっあなたは?」
振り回された手を摩りながら聞いた。
「芥川慈郎だよぉ」
「芥川君よろしくね」
いい子みたいだ。
まとめると、私が忍足君と映画を見に行っていた日に芥川君(金髪可愛い子)、宍戸君(キャップ帽君)、向日君(おかっぱ君)も遊んでいて、私達を目撃。次の日、忍足君を問いただし私の存在を知り、興味を何故か、本当に何故か!!もった跡部さんが私を連れてきて(キャラ的に「さん」呼び)で、ついでに他のテニス部の仲間も呼んだという事らしい。
はっきり言って面倒だ。確かに忍足君には会いたかったけども。ここまで来るのに時間かかりすぎっしょとっとと説明しろっ!
「ってことはみなさん氷帝テニス部なんですね……」
しかも俺様野郎が部長とか、とんでもないですね。
ちなみに今はみんなで仲良く食事中です。自己紹介もすませました。
「そうだよぉ、苗字ちゃんは青学?」
「はい、よく分かりましたね」
「試合で何度か制服も見かけてますからね」
そっか、確かにテニス部以外の子もよく試合の応援とかにも行ってるみたいだもんね。私は行ったことないけど。
「なるほど」
しかし、みんな体格いいなー。流石運動部って感じがします。
ひとつの部屋でぎゅうぎゅうになってご飯を食べているうちになんだかんだ仲良くなりました。
ライバル校なんて言われている氷帝の人と仲良くなったのは、なんか変な感じがするけど、別にまあ問題ないか、私は運動部じゃないし。
「じゃぁ、そろそろ私お暇しますね」
明日も学校あるし、家もすぐ近くってわけじゃないからね。
「えぇ*もぉ?」
なんだかんだ芥川君が一番おしゃべりしたしかもしれない。芥川君は同い年とは思えない可愛らしさを持っている。
「フンッ」
「ウス」
跡部さんは逆の意味で同い年には見えないよね。樺地君については何も言うまい。
「また、会いましょう」
「気つけて、帰れよ」
宍戸君に鳳君、いい人!
「……さよなら」
日吉君は恥ずかしがり屋みたいだね、なんだかんだ、みんなに弄られてたのが面白かった。
「ほな、送ってくるさかい、あんまし散らかすんやないで」
「「「はーい」」」
そして忍足君はやっぱりお母さんポジションみたいです。
夜風が気持ちよく感じられる空気の中を二人で並んで歩く。
「今日はほんまに堪忍な」
「ううん、なんだかんだ楽しかったし」
忍足君にも会えたからという言葉は流石に言えない。そんなこと言ったらせっかく友達になれたのに、変に気を使われてしまうような気がする。
「そういえば、気になったんだけど忍足君ってあのお家にひとりで住んでるの?」
忍足君のお家は一人暮らしには十分すぎるほどの広さだったが、他に人の住んでいる気配がしなかった。
「ああ、そうなんよ。高校上がるって時に丁度、親父が海外転勤になってな、あんたはしっかりしてるから大丈夫でしょーっておかんにも置いてかれたわ」
「へえ、そうなんだ」
「無駄にしっかりしてると損やで、まったく。部活でもあいつ等の面倒ばっかみとるんやで、俺」
「うん、今日見ててわかるよ、その感じ」
「そやろ、ほんま手のかかる奴ばっか」
「ふふっでも、仲良さそうで、羨ましいなーって思ったよ」
「……まあ、中学からの付き合いやから、な」
そう言うと、忍足君は恥ずかしそうに頭をかいた。
大人っぽい見た目しているけど、こういう所は普通に高校生っぽいなー。男子ってなんとなく自分達の友情とかを言及されると弱いよね。女子はけっこう自分たちで仲良しです! みたいに言いがちだけど、なんか男子の友達関係っていいなってたまに思う。
「そっか、みんなは中等部からの内部進学なんだね」
「おん、苗字さんはちゃうん? 確か明学も中等部あったよな」
「うん、中等部はあるんだけど、私は高校からだよ」
「なるほどなー、だからか」
「だからって?」
「青学の生徒やったら、もっと俺等のこと目の敵みたいに思うんやないかと思って」
「ああ、なるほど。……やっぱそういうの氷帝にもあるの?」
「まあ俺自身も運動部やし、青学とも実際に何回も戦うとるしな、どの部活も青学戦は特に気合い入っとるとは思うで」
「やっぱそうなんだー。私は内部進学じゃないし、運動部でもないからそういうのよくわかんないんだよね」
「まあ、そのお陰でこうして仲良くできてるわけやし、よかったと思うで。もし目の敵にされてたら俺の携帯は今頃液晶バッキバキにされとったかもしれんしな、ほんま助かったで」
「ははっ」
わざとらしく私に手を合わせてくるその態度があまりに演技ががっていて、思わず声をだして笑ってしまう。
やっぱり関西人の血が騒ぐのか、その笑い声にとても忍足君も嬉しそうに微笑んでいる。
「やっぱ笑いとれると嬉しくなってしまうわー」
「にやにやしてたよ、今」
「ほんまに!? あっちに住んどったのは小学校までやけど、やっぱり生まれ故郷やからなあ」
「あっちが恋しい?」
「そやね。でもまあ今はここを離れることはできんな」
きっとそれは、さっきまで一緒に騒いでいたみんなとテニスがしたいからなんだろうなと少し思った。
それからもたわいもないような話しを続けながら二人で歩いて気づいたらもう駅についていた。
「ほな、またな」
「うん、またね」
お互いに言い合った二回目のまたねは確かに次があるように感じられて、そのことが私はとても嬉しかった。
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