Bプラン








不規則に雑誌をめくる音。
窓から午後2時の木漏れ日が差して、
時々雑誌で出来る影に遮られる。
(あったかい)
うたたねをしていたのかな。
ちら、と見上げると、雑誌を読んでいる湧。
興味のないページは飛ばして、
好きなグラビアアイドルの袋とじは見て。

あくびをひとつ。
ぐう、と背中と腕を伸ばせば、
ああ、なんていい休日。最高。
「んー…」
程よく弾力のある湧の膝枕の上で、ごろん。
あ、でも湧は正座してないから脚枕?
「ふう」
もういっかい、ごろん。


あ、湧の足の爪伸びてる。
またごろん、と太腿の方へ転がり、
見上げると影と光の間で渋い顔。
「人の脚の上で好き勝手してさ……」
おりゃ、と転がされ、
ラグの上で堕落の一回転。
ごろごろ。光が伸びきったTシャツが、
めくれた腹に当たって、あったかい。
「硬さが丁度いいよ!」
湧の方に顔だけ向け、親指を立てる。

「じゃなくてー!」
起き上がろうとする体、動かしかけたが、
「ぅわっ、」
湧の「まさだい☆」正式名称、
「まさが言うこと聞かなきゃ押し倒しちゃおうぜ大作戦」により、今回も阻止。
「ちょっとはスキンシップさせてよって」
首を傾け、唇を尖らせる。
可愛げのある顔とは反対に、
声は腰に触れる、香りをまとった低い声。

「…膝枕じゃだめだったのか」

腹筋を使い軽く上体を起こしつつ呟く。
湧から目線を落とし後ずさる。
顔が近いね。支えている両手から感じる
床のぬるさが、微量の夏を示している。

「さっき手ぇ振り払ったじゃんかよ」
襲い ?の姿勢から正座に変わり、
右手をひらひらと揺るがして、
綺麗な口が更に跳ね上がる。
ああ、さっき頬に伸びた手を
容赦なく叩き落としたやつか。
だって、湧がほっぺ引っ張るとずっと
引っ張ってるから赤くなって痛いんだよ。

「俺は!まさといちゃいちゃしたいの!」
「なんて直球な」
俺がすこし眉をひそめ、体を遠ざけると、
それに反して湧はこちらに近づく。



ちゅ




「…こういうこと?」
目を合わせたまま、軽く唇を合わせた。
そういうこと、だよな?
「う、ん、これは、そうだね」
ぶわ、と湧の顔は赤く発色する。
明らか目がキョドってるし、
口もとを抑えている手も赤い。


「照れるなよ」
鼻で笑い、してやったり。
柳田さんは学習したのですよ、湧くん。
「照れてない!わー!」
こらこらこらこら。静止させる前に、
恥ずかしいのをかき消すみたいに
またしても湧に押し倒される。
可愛さを含んで、大型犬がじゃれてくる。
「湧〜やめて〜」
そして、光が当たって、柔らかく、
温かみを持った髪の毛を掻き回される。
気持ちいいけど、ぐしゃぐしゃだな。

( …? )
急に、湧の動きが止まる。



止まって、頭にあった左手は
なぞるように頬骨を伝い、首を撫でる。
鼻先は首筋に寄せられ、唇が震えて触れる。

陶器に麗しくキスを寄せるようで、
俺は大切にされているんだな、と
つい、確認して、思ってしまう。

「…こんなにいい匂いさせてたらさ、
男も女も寄ってきちゃう」

耳にざらりと触れる声が心地良いな。
静かだ。風も、車も黙ってる。
隣の部屋から微かに掃除機の音が聞こえる。
「柔軟剤?」
「んーん……まさの匂い」
首筋から唇は上がり、耳の近くを掠めた。

「なんだそれ」
「食べられちゃう」
湧は難しそうな顔をしながらも、
ふふ、と微笑む。
「…犬って肉食だっけ?」
NHKとかでやってる、
ライオンの捕食を思い出していた。
目を閉じて、光を感じる。
「なんで犬?」
「湧は犬っぽいから」
目を開けたら相変わらず顔が近くにあった。
「食べちゃうぞ」
がうがう、いたずらと本当めいた揺れる瞳。
右手は犬の形、左手は俺の頬を撫でる。


ちゃんと、いちゃいちゃしましょうか?
なんて、言えないから、キスをした。