やなぎだ まさひろ が よった ! ▼






やなぎだ まさひろ が よった ! ▼




この時期、夜に香るのは、
初春に花を付ける実の香。







からり、ころ、と下駄を思わせる氷の音が、
ロックグラスの中でくぐもって響く。

「ん〜、んまい」
まさはグラスから口を離すと、
口をゆるゆるにして笑った。
とろみのある梔子色の液体に絡め取られた
舌は、甘い声を発しながら舌鼓を打つ。
「今年もおいしい」
二年目のまさとの初夏、そして、梅酒。
冷たい一口を含み、香りが口いっぱいに
広がると、深い息をつく。
合わせた目はどことなく濡れている。
…いや、むしろ、濡れていてほしい。




というか、今日は、まさを酔わせると決めているのだ。思い立ったのはだいぶ前からで、というのもまさはだいぶ酒豪で、しかも酔わない方の。何回も晩酌を試みているが、大体にしてまさの飲むペースで飲むと俺が酔いつぶれるし、最高到達点といえばけらけら笑っているところしか見たことがない。強いお酒はオレが無理だし、媚薬がいいんじゃない?と調べてみるも日本で売られている媚薬にはほぼほぼ効果がないらしくまあまあ落ち込んだし、俺はチキンなのでうっかり媚薬と銘打ったなんか怪しいおクスリを売られて身を滅ぼしては困るので断念し、行き着いた先は、

「あ、そうだ」
作戦決行。さも今思い出したように言う。
廊下に出てキッチンへ向かい、
冷蔵庫の中からひとつの瓶を取り出す。






揺らすと冷蔵庫内の電灯にゆるりと光り、
カラフルな夜景を詰め込んだみたいだった。
「はい、これ」
まさの前に出して、瓶を開ける。
そのまま隣に座り、顔を見た。
「なにこれ……HARIBO?」
同じように揺らされた便の中身は、
赤、緑、黄色、青が弾力を持って揺れる。

そう…俺の秘密(かつ最終)兵器、
ウォッカ漬けHARIBO…!!

「そうそ。ツイッターでお酒に漬けると
美味しいって言ってて。うわぷるぷる」
平然とした顔で瓶を開ける。
ウォッカってことは秘密。度数40度だし。
言ったら怪しがられても困るし。
とにかく、酔わせたいんだよ俺は…!!





「口あけて?あーん」

ぷるぷる、ふたまわりウォッカを吸って、
煌めいて大きくなった赤い1粒をつまみ、
まさの口の近くに持っていく。

あ、と小さく開いた赤い舌の上に
滑り込ませる。いい子いい子。
「ん、ん、んまい」

咀嚼をしながらまさはまた少し笑った。
「おいし?」
咀嚼して動く頬を軽く引っ張りながら聞く。
こくこく、と頷く少し赤く染まった頬、
うん、すっげえ可愛い。
「もういっこ」

今度は黄色の宝石をまさの口に入れた。
さあ、存分に染み出したウォッカがまさの
身体と頭を巡ってあんなことやこんなことになっちゃうの、乞うご期待。


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「だからさ、来年は梅を
もうちょい良いのを買って……」
梅酒4杯目、
隣のまさはぺらぺらと梅酒論を喋り続ける。
「ちなみに紀州の梅とか色々取り寄せて
飲み比べしてみようかと思ってる」
そしてまた一口飲んで、HARIBOをつまむ。
「ん〜そっか〜」
くるくる回りかけてきた頭のなか、
適当に相槌を打って、明確に思うこと。
(全然酔わねえ……!)




は!?どういうこと!?なんでこんなに酔わないの?もうわけわかんないどうしたらいいんだろう??何飲ませれば俺の可愛い酔っ払いまさは出来上がるの??HARIBOどうした仕事して欲しいな〜え〜もう諦めろって?なんでこんな饒舌に梅酒語ってるの!?いや可愛いよ??可愛いけどそういうことじゃないしあ〜今日もおあずけ「…ゆう」

「はいっ」
突然顔をのぞき込まれ、名前を呼ばれた。
下心まるごとの思考は中断される。
反射的に返事が出た。

「なに?」
すっと据わった目。いきなり真顔ですが。







「……すき」
あかいくちびるが小さく開いて、
あいのかたちにつぶれた。


……え、酔っ払ってらっしゃる!?





「ゆうすき」
ぽつり、ぽつり、淡い赤の愛の雨が降る。

「う、うん」
あれ、もしかして酔ってた?いつから?
今から?え?デレ??突然のデレ?
「…すきぃ」
自分から仕掛けたくせに、
砂糖の奥底よりも甘ったるく、少し伸びた、
ぃ、の口の形とか、
そこから漏れる吐息に戸惑いどきどきする。

「おう」
ていうか、さっきから近づいてないですか
柳田将洋さん?
くらりとアルコールに背中を
軽く押されたみたいに、
上体がぐぐぐ、とこちらに近づく。
「すき、すき、すきぃぃい……」
最後の方は潰れて埋もれてるし。
「わーかった、わかったわかった、ありがと、俺もすきだよ〜はいはいはい」
うん、可愛い。そっか、まさは酔っ払うとこんな感じになるんだね。これは危ない。
「重い重い、重いよ〜まさ〜」
ついには体ごとよりかかられ、なぜか頭を肩に押し付けられる。うわーすごい、酔っ払った彼氏すごい。ギブギブ、と言いつつ背中にのしかかるまさを避けようと身をひるがえしまさの方に向けると、





「ん、んっ、んむ、…ん、」

顔を両の手で挟まれ、
もつれて絡まる、梅の香の舌と舌。
ゆるっとした舌の動きに、介して届く
アルコールだけを煮詰めたような濃い香り。
「…もっかい」
苦しくなって名残惜しく離したふたりの唇のあいだにはいやらしく糸が引いていて、上気してるのにやけに凛としている目が俺を見つめていた。

「よっぱらってないから〜〜、ね?」


ね? 、の目が扇情的で、息を飲んでしまう。
押し倒されて電球によって出来る
影とか、真っ赤なまさのほっぺとか。

なにが、ね? なんだ。なんだ、これ。


やなぎだ まさひろ が しかけて きた !

▽ そのまま いっしょに ねむる
▽ やなぎだまさひろ が すき といいつづける


どちら を せんたく しますか ?
( ↑ くりっく してね )