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君の寝顔に、僕はため息をつく。
そして、淡い欲をこじらせながら、唇を噛んだ。

前置きなしに、暇だから、と、人の部屋に入ってきたかと思えば、勝手に柔軟剤の香りをぱらぱらと落として、勝手にコップを使い、ダイニングテーブルでコーヒーを飲み、インスタントしかないことに口をとがらせて、

こうして、静かにしていると思えば、勝手に眠っているから。

木目のダイニングテーブルの横にしゃがみこんで、すっかり眠りこけるまさと目線を合わせた。
「…好きだよ」
机に突っ伏して、ほっぺたが柔らかくつぶれた君の髪にキスを落として、小さな声で、独り言。

窓から差す光で茶色に透ける髪の毛まであと三ミリメートル。
ほぼ触れそうな距離であるにも関わらず、どんなものでも、人はその距離がゼロに潰れるまでは、触れるのを感じない。

何年も恋のそれを積み重ねた俺に、少し重なって、指先がためらう。

手がほんの一瞬、頭頂部に触れかけるとら鈍く頭が動き、小さくうめく。
「…ん」
頭を上げた、眠たそうな目をこするまさと目が合った。

「…好き、なの?」

一本の意識がゆるく崩れていそうな、甘ったるい声で、その言葉の語尾が上がる。

慄然と、心臓が高鳴った。
口の中が苦しくて、その瞳に何も投げかけられないで──────「夢みたい」

丸い瞳の中の電球が歪んで、笑みを携え揺れて、僕の瞳を捉えて、まぶたを閉じかけた。

俺は、
「夢じゃない」

俺は、声を発していた。

夢じゃない、俺と、まさのことで、そんな風に笑ってくれるなら。
夢じゃなくてもいいのなら、と、俺の淡くて、ずるい欲が引き止めの言葉をつい落としてしまった。

狭間では、────特に、恋とか、まさの間ではうまく考えられなくなる。

両手でまさの頬をすくい、唇を寄せる。
「…ほんとだ」
甘くて痛い唇を食んだら、
( 夢 み た い )まさの言葉が滲んで、頭が痛い。

( 君とじゃなきゃ夢か本当かも分からない世界 )
( 君の夢なら最悪夢でもいいかなあと思う世界 )





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