XX
「なあ角名、なんで最近7組行かへんの?」

 治はそう言って、おにぎりを一口齧る。待ちに待った至福の味を噛み締めていると、聞かれた張本人である角名はこれでもかと目を細めていた。
 まるでその顔はどこぞのキツネを想像させるのだが、それを角名に言うと余計に面倒臭くなることは分かりきっている。治は口を閉じ、角名の言葉を待った。

「別に、治には関係ない」

 散々待った結果、角名から発せられたのはそんな言葉だった。いや、嘘やろ。明らかに不貞腐れてるくせに何言うとんねん。思わずツッコミそうになる言葉を何とか飲み込んで、治は「そぉか」と返す。
 そのままスマホへと視線を落としてしまった角名を見て、治は何となくこうなるきっかけを探してみた。角名が不機嫌になる時は、大抵みょうじさんが絡んでいるのは、傍で角名を見てきた治には分かりきったことだった。
 夏祭りの時だって、とあの日を思い返す。夏祭りの後角名に奢ってもらったダッツ美味かったな。いや、今はダッツのことはええねん。
 角名がこうなったのは、もっと最近のことだったはずだ。
 
 そう、確か、角名が7組に行かなくなったのはテスト期間よりも前だった。その時、角名は何をしていただろうか、と考えて、治はあっと思い出す。
 そういえば、あの時、部活で進路の話したな。侑が拗ねて拗ねて大変やった。
 ちなみに、その侑とは未だ決着が着いていないのだが、その事は一旦置いておいてもいいだろう。確かその時、みょうじさんの事も話題にでた筈や。でも、何でやっけ。と、考えて、そういえば俺が言うたんやったわ、と思い出す。そういえば、その時から角名ちょびっと機嫌悪かった気ぃするな。

 ーーあれ、もしかして原因って、俺?

 治はサッと顔を青ざめ、角名を見る。相変わらずスマホ中毒者の角名は、手元の四角い機械に視線を落としたまま黙りを決め込んでいた。自分のせいではないと分かっていても、何となく居心地が悪い。

「すなぁ、おにぎり食べるか?」
「は?いらないけど」
 
 かろうじて絞り出した言葉は角名の一言により一途両断される。「おん…」とおにぎりを頬張りながら呟くと、ようやく様子のおかしい治に気づいたらしい角名は、治の顔をチラリと見てからため息をついた。

「別に、治のせいじゃないから」
「おん」
「ただ、俺ががっつきすぎたなって一人で反省してるだけ」

 そういって角名は、治の机の上に放置されていたお菓子を一つ摘む。「…あま」と呟いた角名をど突きたい気持ちになったものの、治は寸でのところで堪えた。

「ガッツくって何?キスでもかましたんか?」
「はあ!?そんな事するわけないだろ!」

 じゃあ何やねん。そう聞いた治に、角名は事のあらましを説明する。全てを聞き終わる頃には、治は「自分のせいかも」なんて落ち込んでいた気持ちは綺麗さっぱりと消えていた。代わりに現れたのは呆れ。こいつらいいからはよくっつけやと思ったのは果たして今日を含めて何度目だったか。

「で?困るって言われたリンタロークンはどうするん?」

 ニヤニヤと笑って言う治に、角名は嫌な顔を隠さず「その言い方気持ち悪いからやめろ」と吐き捨てる。気持ち悪いとは失礼やな。誰のおかげでみょうじさんの進路知れた思てんねん。おにぎりを頬張りながら、角名の言葉を待つ。角名は考える素振りも見せずに、治に向かって堂々と言い放った。

「まあ、俺が追いかけるしかないよね」

 「てか、元々東京も視野に入れてたし」とさも当たり前に言い放った角名に、治ははあとため息を吐き、齧っていたおにぎりをそっと下ろす。最後の一口を食べなかった治を不思議に思ったのか、角名は「治?食べないの?」と首を傾げている。

「もうお腹いっぱいや」

 だからはよくっついてくれ。これ以上は胃もたれしてまうわ。


20230429



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